続攻撃1
続攻撃1
「お目覚めですか。大尉様。本当になんとお礼を申し上げていいのやら。ありがとうございます。ありがとうございます」
いきなり金髪美人に熱烈感謝をされてしまったが、コイツは誰?いや。声に覚えがある。ということは……。
「メ、メデューサか?」
「はい。そのご様子だと、もしや昼の宴のことは何も覚えていらっしゃらないのですか」
「う、うむ。あまり覚えていない」
わたしは酔ってまだバカなことをしでかしたのかと大変不安に思った。
「ああ、余り感謝されるのが嫌でそういうことにしているのですね。そうなんですね。そうでしょう。何と奥ゆかしいのでしょう。そんなのでは恩を施した女から逆に恨まれてしまいますわよ。
二・ク・タ・ラ・シ・イ・ト・ノ・ガ・タ!」
……メデューサよ。おまえもか。
メデューサは顔を上気させ、最近馴染みになりつつある言葉を紡ぐ。なにがおまえたちをそうさせるんだ。この胸なのか。胸の大きさなのか。小さくて悪かったな!
「冗談です。大尉様が女性であることは、テーマ『初心者の貴女でも三日で彼氏を作れる』のガールズ・トークに参加していらした時点で気付きましたとも!」
それまでは気付いていなかったのか……。
まあいい。どうせ負け犬どもの遠吠えさ。フン。わたしには彼氏がいるんだ。本体のだけれどもな。エーラ人の飲んだくれだけれどもな。せいぜいわたしをバカにしているがいい。
「ガールズ・トーク中、突然大尉様が種の違いがあって彼氏と結婚もできなければ肉体関係も結べないと号泣されて……。ご同情申し上げますわ。でもヒューちゃんとかいう愛玩動物を彼氏扱いにするのはどうも……」
「……」
わたしは酔って漏らしたことを恥ずかしく思いながらもつい怒鳴り返した。人間の尊厳に直結する問題だからな。ハッキリさせとかないといけない問題だからな。
「じゃ、なにかい。おまえはわたしを犬や猫を彼氏扱いにするさみしい女だと本気で思っているわけだな。いくら女性に対して温厚なわたしでもしまいには怒るぞ。先ず、わたしが絶対に男にモテないというその先入観をキッパリ今すぐ捨てろ!
ちなみに言っておくが、ヒューはヒト族で濃い栗毛の渋めの美男だよ。最近かなりオッサンくさくはなっていたけどな。一応は人間だよ」
「ご、ごめんなさい。でも、喉を撫でると目を細めてジャレついてくる様がかわいいなんておっしゃっていたから、つい」
わたしは酔って何をしゃべっているんだよ。
「あと、腕を甘噛みしてくるだの、舌先で耳の裏を舐めてくるとかおっしゃるから」
「もういい。やめてくれ。頼むからこれ以上言ってくれるな。この拷問には耐えられん。恥ずかしさで悶え死にそうになる!」
サブタイトルが攻撃だけに今回はわたしに対する精神攻撃の話なのか。もう耐えられん。こうなりゃ、話題転換だ。話題転換。わたしはこの起死回生の一手にすべてを賭ける!
「それはそうと、なんでおまえはもとの姿に戻っているんだ?」
「いやですわ、大尉様。宴に乱入してきたディオニソス様と大尉様が賭けをなさってお勝ちになったからですわ」
メデューサの話によると、酒神ディオニソスはバカ騒ぎが大好きで、その独自の感覚でわれわれの宴を嗅ぎつけてやってきたのだ。この酒神、ギリシャの神々に珍しく性犯罪者ではない(その意味ではイイ神様である)。だが、女性の乱れる様を眺めて楽しむムッツリスケベだった。
「愉快。愉快。オジサン。可愛い女の子にはサービスしちゃうぞ。バッチ、コーイ。ナポレオンでもシャトー・ラフィットでもケースごと持ってこーい!綺麗なお嬢さん方はたーんと飲んでね。オジサン、神様だからズドォーンと奢っちゃうよ」
まるでクラブのホステスに鼻の下を伸ばしたオヤジである。よくいるんだな、こういう奴。なぜだか女性の前では気が大きくなるんだよな。そして酔いが醒めてから一気に後悔する。主に請求書の額を見て。
「タイプでない。近寄るでない(林青蛾の発言)」「臭い。バカ(向蓮蓮の発言)」
酒神は慣れているんだろう。二人の発言にも全く動じない。しばらくはセクハラ発言などしていてふたりには大いに嫌われたらしい。
ところがである。
「わたくし、気前のいいオジサマは大好きですわよ(魯雪華の発言)」
あと、この発言は「画廊でマリー・ローランサンの絵を見ましてね(お値段3億8000万円)。欲しくてたまりませんのよ、わたくし」と続くのだが、一気に高まったオヤジのテンションは下がらない。
「ヨッシャ。ヨッシャ。買うたる。買うたる。マリー・ローランサンでもマリー・ビスケットでもなんでも買うたる。オジサンにまかしとかんかい」
ともかく神様がすごいご機嫌だと言うので、わたしとシルヴィアもにこやかな笑みを浮かべてメデューサちゃんの解呪をお願いしようと近寄ったところ……。
「なぁにすり寄って来てんだよ、おまえら!オレは女好きなの!野郎はきらいなの!あっち行け。シッシッ。(くるりと向先輩の方を向いて二コリとして)いやぁ、向ちゃんは可愛いねえ。どれ、ひとつ。オジサンにその黒ベールをチョコットずらしてお顔を見せてくれないかな。林ちゃんも魯ちゃんも美人だからオジサンとっても期待!ドレスでもなんでも買うたる買うたる。ゲへへへへ」
オヤジがこのセリフを吐いた瞬間、わたしとシルヴィアは蹴りをかましたそうな。その後は倒れたオヤジをゲシゲシと蹴り続け、オヤジは降参したらしい。
「ひぃー。暴力バーに引っかかっちゃったよ。財布あげます。ごめんなさい。でも、カードだけは勘弁して」
「そういう問題ではない。おまえ、失礼なことをさっきサラッと言っただろう。われわれは女だ。撤回して謝って自害しろ!」
その後、押し問答アリーの、駆け引きアリーので、結局、アテナイのヒスを理由にメデューサの解呪をしぶる酒神を強引にねじ伏せ、わたしが酒神との技比べで勝てばなんでも願いを聞き届けるということに決まったそうだ。
さて、その結果はというと、わたしの3戦全勝だったそうだ。
先ず一勝目でメデューサの解呪兼変身能力をゲット(アテナイの目の届くところではゴルゴン姿でごまかせるように)。
2勝目で金貨一枚ゲット。なんでも財布に入れとけば幸運を呼ぶそうだ。 なんてしょうもないものをゲットしてしまったんだ、わたしは。
3勝目ではブドウの種をゲット。不思議な種で持っているだけでどんな木でもブドウの木に変えることができるんだそうだ。わたしは果樹園業者でもないんだ。なんの役に立つというのか。
ちなみにどういう勝負だったのかというと、わたしは精霊の力で先ずシルヴィアに内功を授け、次に剣技を授け、最後に玉女神剣チームに『玉女素心剣法』を授けたそうだ。
「で、相手の酒神はどんな技を披露したんだ?」
「ブドウ酒の神様ですから、ブドウの木を生やす技を披露されました。3回続けて。それしかできませんから、あの方は」
「……」
わたしは気を取り直して質問を続ける。
「で、その酒神さまは今どこに?」
わたしは閃いたことがあるのだ。
「そこに酔いつぶれて寝ていらっしゃいますわよ。なんでもブドウ酒以外のお酒がきつかったそうで」
わたしはそれを聞いて二ヤリとした。
「ごぉううら。酒神、起きんかい。もう一回勝負じゃ!」
わたしは酒神を蹴り起こした。




