攻撃5
攻撃5
まず、狐のそばでなぜか壁に向かって床の上で端座していた尼僧三人がゆらりと立ち上がり、狐を背にしてそれをぐるりと囲むように立った。
狐がストローでコーラを啜っている音だけが響く。ズズ、ズー。
やがて食堂の戸口に玉女神剣チームの面々が音もなく現れた。狐までの距離は15メートルといったところか。
……
次の瞬間、大音響とともにすべてが決した。
現状。
天井に一条の裂け目ができて塵が舞い落ち、針が天井、床、テーブルに無数に刺り、ひしゃげた鉄独楽が多数散らばっている(右端の尼僧のまわりには数本の折れ曲がった針が散らばって落ちていた。)。
ただ、狐のテーブルのうえを軸のぶれた一個の鉄独楽がぐわんぐわんと緩やかに回っていた。が、それもやがて真中から斜めにずれて二つの破片として転がり止まった。
……結果。
玉女神剣チームの完敗であった。
ヒソとして誰も声を立てない。
何が起きたか解説しよう。
まず行動を起こしたのは赤い長衣の林青蛾だった。彼女が両手を振い無数の針を狐に向かって飛ばす。
次いで白い着物の魯雪華が狐に向かって一反の練絹をカメレオンの舌のように伸ばした。むろんすさまじい内功がかかっており、当たれば狐の身体はミンチとなったことだろう。
同時に、黒いベールを被った黄袗の女(向蓮蓮らしい)が二条の黒い軟鞭を振ってギザギザのついたいくつもの鉄独楽を放った。
正面に立った年の若い尼僧(静寂尼)は刀を抜くこともしなかった。手を翳すことも、気合いを発することもなかった。
ただ立っていた。
が、彼女の周りから一陣の狂風が起こりすべてを跳ね飛ばした。
跳ね飛ばされた練絹は天井を切り裂き、針は狐の周りを除いてむちゃくちゃに散らばって突き刺さり、鉄独楽はグチャリと潰された。
すさまじいばかりの陽の内功が込められた剣気が狂風を巻き起こしたのだ。それも林青蛾たちの攻撃を完全に見切ったうえで、一動作でことの決着をつけてしまった。
実力差は歴然だった。
後はただ跳ね飛ばされて壁に当たって戻ってきた数本の針を右端の尼僧(静月尼)が抜いた刀の先で払い、一個の鉄独楽を老尼(静聴尼)が斬ったにすぎない。
それだけのことが0・2秒のうちに起っていたのだ。達人同士の戦いとはこれほどまでにすさまじいものなのか。
「……静寂や。魔道に堕ちたるや」
老尼の悲痛な叫びが食堂に響く。
林青蛾の悔しそうな顔。魯雪華はその白い顔を一層白くして唇を震わしている。黒いベールで顔が判らない向蓮蓮らしき女性は足が震えていた。
その時のわたしのことをいえば、サーベルの柄を固く握りしめ、ただただ額に汗を浮かべていただけだった。
動けなかった。まったく一歩も動けなかった。
……。




