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攻撃1

 攻撃1


 目の前の金髪あたまのボンクラに告げる。

「貴様はただの雑役係で銃を扱ったことも命のやり取りをしたこともないド素人だ。そのうえ、安全なところから糞みたいな寝言を垂れ流していたゴミクズ野郎だ」

「そのとおりであります。大尉殿」

「いいか、よく聞け。全く役に立たないお荷物野郎。貴様はここへは来たくなかったし、わたしも貴様を連れて来たくはなかった。だが、来てしまった以上はしょうがない。

 できうるだけの保護はしてやる。その代わり、わたしの命令に絶対服従だ。勝手な行動は一切とるな。すれば見捨てるし、任務の邪魔だと判断すれば躊躇なく射殺する。そのことを肝に銘じておけ。

 もう一度言う。命を全うして蓬莱山から帰還したかったら、余計な行動はせずにひたすらわたしの指示に従え。判ったな?」

「はい、承知しました。大尉殿」

 うむ。素直だ。執務室で57回、ナカムラ少年を殴って床に沈めた甲斐がある。歯が折れ跳んだり内臓が傷ついてもエリザベス伍長が側にいて片端から修復していったので、わたしも遠慮なく殴打ができてナカムラ少年の躾けは楽だった。


「では、命令する。持っているカラシニコフのレバーを安全装置のかかった状態に常にしておけ。構えることも、引き金に指を当てることも許さん。わたしの許可がない限り発砲しようとか絶対に考えるな」

 シルヴィアは素人に取り回しの困難な長身銃を与えて誤射される先手を取れるよう工夫したのだが、わたしはそれを一歩進めてやった。どうせ選手たちは達人ぞろいだ。仮に発砲の自由を与えてやったとしてもナカムラ少年は銃口を向ける前に殺されてしまうだろう。だったら同じ。シルヴィアにはこいつに銃を持たせても意味がないと言ってやったんだが、素人の精神安定剤代わりにはなるだろうと言い張られた。結局、ナカムラ少年に銃を持たせるだけということで妥協することになったのだ。

 この役立たずのお荷物が選手になっているのは、わたしのモチベーションを上げるためだそうだ。日々殺人に対して忌避感を募らせていくわたしにド素人の保護という命令を与えることで少しでもこころの重荷を取り除いてやろうというマルグリットさまの有難いご配慮なのだ。


「シルヴィア。貴様は何で選手になったんだ?もう銃は握らないはずじゃなかったのか?

 マルグリットになにを約束されたか知らんが、死んだら終わりだぞ。蓬莱山には達人たちが集うはず。貴様程度では生き残れまい。

 わたしはこっちのお荷物でいっぱいいっぱいなのだ。貴様の面倒まで見きれん」

「わたしは生き残る。大尉に面倒は掛けない。的確な命令さえしてくれれば、それでいい」

「なんでそう自信があるんだ。人体改造でも受けたのか?わざわざ危険を冒さなくても刑務所で臭い飯を食っとけばいいじゃないか?」

「任務遂行の暁には犯罪歴の抹消と年金を約束されたからな。人体改造は受けていない。そんなもの受けるわけがない。わたしの望みはごく普通の女の子として誰かと恋愛して結婚し家庭を持ってつつましく静かに暮らすことなんだ。そんなささわかな望みを実現するにも金と犯罪歴の抹消は必須なんだ。

 わたしには銃を扱うこと以外特にこれといったものがない。選手になる以外選択肢はない」

「仮に生還できたとして、人を殺した罪悪感はどうするんだ?重い気持ちで幸せな家庭など築けないぞ。

 お前はコピー人間なんだ。前世の記憶は本体のもので、お前の過去ではない。今なら間に合う。激烈な戦闘を経験した帰還兵が神経を病んで社会に溶け込めないさまをお前もよく知っているはずだ」

「……前世とは違う。前は国に強制されたが、今回は自分のためだ。そういったリスクも背負うさ。死んでも後悔しない。良心の呵責にも耐える。もうわたしのことはほっといてくれ。決心が揺らぐ」


 シルヴィアはやはり鏡に映った自分だった。クソっ。なんだ、このやるせない気持ちは。


「ハイハイ、喧嘩は止めて頂戴ね。ファンタジーなのに重苦しいのよ。鬱陶しい。それにシルヴィア。それ、フラグだから。回収が面倒だし、死なれたら計画がおじゃんになっちゃうから止めてね。今の会話はなかったことにする。いいわね」

 マルグリットはそう言い放ってシルヴィアの立てたフラグをノー・カウントにしてしまった。それで、いいのか……。


「大尉も余計なことを言ってシルヴィアを動揺させない。あと、キャラ被るから、大尉は口調を治すこと」

「余計なことではない。第一、シルヴィアでは役に立ちそうにない。こいつは帰らせるべきだ。そこの大男(張益徳)の方がよっぽど役に立つはずだ。

 選手交代しろ、選手交代。

 それと、わたしがこの物語の主人公のはずだ。口調は絶対に変えんぞ。キャラ被りが嫌ならシルヴィアにしゃべらせないように作者に言っておけ」

「分かってないわね、大尉は。わたしたち精霊の目的は外の奴らの剣譜奪取の妨害。別に優勝しなくていいのよ。手段も試合に限る必要はないし。暗殺でも宿舎に爆弾仕掛けるのでもご飯に下剤仕込むのでもなんでもありなのよ。うん?分かった?ユー・オール・ライト?

 そして、さらにさらに進攻してくる軍隊の実力をはかるという目的もあるしね。シルヴィアはそういった意味で適任なのよ」

「まさか進攻軍に対抗するために現代兵器を装備した自前の軍隊を組織するつもりなのか?」

「そういうこと。あちらは進攻軍でわたしたち精霊を疲れさせた後に俺つええ派による仕上げの強襲をかけてくるともりだからね。戦力をある程度は温存しとかなくてはならないのよ。といって、わたしたちは自分たちの世界のヒトやエルフに魔法使用を解禁してやるつもりはない。

 幸い、あちらは異世界人のもつ現代兵器に興味がないようだから期待ができる。やつら、きっとビックリするはずよ」

「ふん。誰が軍隊を組織して訓練するんだ?わたしとシルヴィアか?とても手が足りんぞ」「わたしは今回の任務で最後だ。静かにつつましく暮らすんだ。協力はしないぞ」

 わたしとシルヴィアの熱い抗議にもマルグリットは涼やかな顔だ。


「あら、わたしの特技をお忘れかしら。大尉さん?それと、シルヴィア。これは徴兵だから従ってもらうわよ。なんといっても郷土防衛は国民の義務だからね。生まれ変わっても国民の義務というのはどこまでも付いてくるものよ、諦めなさい。フフ、どうしても苦しくなったらこのマルグリットちゃんに相談してね。いつでも気が楽になるよう洗脳してあげるわよぉ?」

「……」

「……」


 今更ながらに気付いた。わたしもシルヴィアもマルグリットの単なる駒なのだ……。


 こうして重苦しい気分のままわたしは蓬莱山への最後の扉をくぐった。

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