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精霊防衛隊 3


      精霊防衛隊 3



 残りの307号室の転生者マルヤマの取調べはアン少尉に任せ、私はこの地区の警察署へ出かけることにする。

 逮捕された殺人未遂の容疑者があちらの送り手について何か知っているらしいということを内務省警察が知らせてきたのだ。

 取り調べに忙しい警察が保安局のためにわざわざ時間を割いてくれるという。是が非でも行かずばなるまい。


 丁度、当直勤務を交代したエリザベス伍長が護衛についてきてくれるという。2人で3ブロック先の警察署まで歩いていくことにする。


 もう深夜も過ぎ明け方が近い。

 ここら辺りは割りと古くから建物が建てられてきた地区だ。道路は最近流行りのアスファルトではなく石畳敷きで、歩道には未だにガス灯の跡が残っている。住民も地区の役人も整備し直す気がないらしい。風情があるとはいえ電灯の柱との二重は少しおかしくはないだろうか。


 明け方近い夜の石畳は私たち2人のたてる靴音しか響かない。静かだ。道路にはヒトどころか犬も彷徨いていない。


 と、エリザベス伍長が私に向かって手を挙げて注意をうながした。

 ヤレヤレ、また襲撃か。

 保安局を作ってから、私はレジスタンスと称する輩から頻繁に襲撃されることになった。


 予期したように街角から黒塗りの車が急発進してきた。突撃銃やら短機関銃やらで掃射するつもりらしい。

 少し前までのわたしなら慌てただろうが、今はもう違う。認めたくはないが、護衛についている精霊は魔術が使えるのだ。どんな襲撃も私を傷つけることはできない。


 こちらに向かってきていたはずの黒塗りの車は急に蛇行を繰り返したと思うと、歩道に乗り上げガス灯跡に正面から突っ込んで止まった。エリザベス伍長の魔術のせいだ。彼女が願えば金属であろうが木製品であろうが思い通りの変化を起こすことができる。


 衝突した車のボンネットは真ん中から歪み、中から何かが吹き出るような音がしている。フロントガラスには血がこびりついている。運転手は動かない。


 私はブローニング・ハイパワーを引き抜き、慎重に後部座席に近づく。

 しかし、そんなことはお構いなくエリザベス伍長は後部座席のドアをべりべりと車体から引き剥ぐ。


 いつ見ても戦慄を感じずにいられない。無敵というほかはない。100年ほど前なら異世界人も詠唱という条件つきではあるが精霊の協力で同じものが使えたという。しかも、異世界人は魔術の使用に躊躇いも慎重さもなかったというのであるから、結果は今見ているものよりも残酷で悲惨なものだったに違いない。

 精霊たちがこの世界の魔術を封じて正解だったとあらためて思う。


 中の男は一旦前の座席に突っ込んでから衝撃で後ろに戻ったらしい。額に大きな傷がある。この男は気絶しているようだ。


 エリザベス伍長が手際よく車の中から男たちを歩道に引きずり出す。



 その様子を見ているうちに、今度は私の勘が囁きはじめる。危ない、またアイツが狙っている、と。私は素早く半歩右に移動した。


 途端、私の左を何かが唸りをあげて通り過ぎる。それは歩道の石畳を削り取り、跳ねてどこかへいってしまった。


 警戒したが、アイツはもう狙撃をしてこなかった。

 アイツが何ものなのかは未だに分からない。

 使用している兵器が異世界のゲパードM1という遠距離狙撃銃らしいということだけは分かっている。

 どうしてわかったかというと、以前世話をした銃器マニアの異世界人に精霊による現場再現映像を見てもらったからだ。

 現場再現映像にはアイツも写っていたが顔は覆面で分からない。ただ、体つきから女性であることは分かっている。

 しかし、どうやって10キロもある狙撃銃を女性が持ち運びして、少なくとも750メーター先から私を狙い撃ちし、射撃後素早く離脱して煙のように姿を消すのか、まったく謎だ。


 私はどうも昔から女性の狙撃手に縁がある。困ったことだ。


 ああ、そうだ。私に異常な勘が働く理由を説明していなかったな。それは、ユグドシラルのリンゴという不思議な果実を2個と4分の1も食べてしまったことが原因だ。

 食べた当初は滅法美味いリンゴという印象しかなかったが、私の身体に幾つかの変化をもたらした。 勘もその一つだ。

 攻撃者の意図を事前に察知することができる。

 おかげで、凄腕のアイツの狙撃から2週間も命を全うできている。



 車の衝撃音せいだろう。建物から住民が様子を見に出てきた。


 エリザベスと一緒に住民に単なる自動車事故である旨説明して帰ってもらう。ただし、警察への連絡を頼んだ。

 住民は胡散くさ気にしたが、我々の制服を見て解散した。

 精霊防衛隊の印象は余り明るいものとは言えないらしい。



 私たちは男たちの武器を取り上げて目的地の警察署へと向かった。勿論そこには罠が張り巡らされてあることを十分承知している。



 


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