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主人公の女 3

 主人公の女3


 三国志の登場人物に非常に気になる人物がいる。


 姓は張。名は飛。字を益徳という。

 挙兵当初から関羽とともに劉備に仕えてきた最古参。

 それでいて、勇名を謳われつつも最初のころはあまり活躍しない。そればかりか人との対立が原因で呂布に留守を預かった下邳を占拠されたり散々である。

 活躍するのは、劉備の入蜀後の対劉璋戦(厳顔の生け捕りなど)や対張郃戦のみ。

 最後は部下の反逆による横死。

 三国志を著した陳寿に「張飛は粗暴で部下に恩で報いる情愛に欠け、これが短所となってあえない最期を遂げた。」と酷評される始末。

 ほんと散々である。

 彼の人のために弁解するならば、当時のインテリ層である士大夫の偽善性を嫌った関羽とは逆に自身庶民であったがゆえによく知る兵卒の無知乱暴ぶり・意地汚さを嫌い、理想を士大夫に求めたにすぎない。現代でいえば庶民が東大法学部卒のエリートをそれだけで単純に尊敬してしまうのと同じこと。接点がないので実際よりよく見えてしまうのは仕方がないことだろう。

 ちなみに、三国志演義という小説では、腕っ節だけは滅法強く、根が単純でへまばかりする酔漢扱い。この色もの性ゆえに庶民にはけっこう人気があり、京劇の出し物では関羽を上回る登場数を誇る。



「色ものなんだね、益徳さん!」

「ちゃうわい!あれは小説。実際とは違うの。実際はいぶし銀のようにシブい漢なの!わしは」

 ニコニコしながら念押しするマルグリットに対して巨漢が抗弁する。


「そんなことより、自称主人公の女をほっといて場面転換を勝手にしていいんかい?それにわし、なんか復活してるけど、なんで?妙な解説付きの突然の登場で読者の皆さまがワケワカラン状態になるんではないんかい」

「んー。要は作者のプロットづくりのミスね。あのひと、小説書くのへたなんだわ。仕方ないね」

「メイヨーで済んでいいのは中国の公務員だけだろ。ちゃんとした説明を求める。まったくもって近頃の若もんは説明義務の重要性が判っちゃおらん。それだからいつもいつも重要問題でつまづくんだ。ブツブツ」

「ハイハイ。だるいけど、今から説明しますね。長いよお。話半分で聞き流してね。

 まず、今から7000年くらい前に私の世界では精霊間で大戦争が起きました。原因は俺つええを見せつけたい精霊をそれをウザいと思う精霊がたしなめたのをきっかけに両者の感情が爆発したことによるものです。精霊は人間とは違い、欲望は自力ですぐにかなえることができるので領土や資源を争って戦争などしたりしません。人間と精霊のどちらが子供じみているか判断に苦しむところですが、精霊とはそんなものだと理解してください。

 さて、戦争の経過ですが、最初、俺つええ派がその脳筋ぶりによりインドアのウザい派を圧倒していました。しかし、戦争半ば、ウザい派に非常に強力な精霊が出現したため、俺つええ派は命からがら世界の外へ逃げ出さざるを得ず、戦争はウザい派の完勝の形で終息しました。

 以来、平和を保ってきたのですが、300年前、放逐されたもと精霊リリス・グレンダウアーがある狐の仙丹の欠片をちょろまかしたのが切欠となり、向こうのもと精霊たちが異世界人をチョクチョク送り込んでくるようになりました。こちらの精霊たちは長い間その意図をはかりかね、単なる嫌がらせかとも思っておりました。

 しかし、それはそれは恐るべき陰謀だったのです。危うし世界。どうなる世界。

 でもご安心。精霊一の美貌と聡明さを誇るマルグリットちゃんが立ち上がりました。敢然と悪に立ち向かい陰謀を白日のもとへと暴いたのです。きゃー、かっくイイ」

 どこから取り出したのやら伊達眼鏡をかけ三次元ホログラムを前にすっかり名調子となったマルグリット。巨漢はあきれて首をふる。


「外の奴らの陰謀を明らかにする前提として、先ず精霊の生態の神秘についてご説明しましょう。

 精霊とはエネルギー体。御承知の通り不老不死の存在であり、人間の有する物理的な力でどうこうできるものでもありません。

 原初において精霊はアメーバのように形状不安定な存在としてお空にふわふわと浮いておりました。

 望めばなんでもかなえることのできる存在ですから、自己保存の本能だとか理性とかはありません。イド剥きだしの、要するに知的生命体ではなかった。

 ところが今から一万年前のある日、一個の精霊がなぜだか道を歩いていたエルフの女性に興味を覚え、その身体を乗っ取りました。

 乗っ取ることでその精霊はエルフの思考を学び、長い年月をかけて剥きだしのイドを人間のように覆い、知性を得ました。これは精霊にとりとてもとても面白い遊びでした。退屈していた精霊にとり興味の尽きない新しい世界が広がった瞬間であり、精霊の存在に革命をもたらすものでした。

 この人間の身体の乗っ取りはたちまち口コミで精霊間にひろまり、とても面白いのでブームを起こしました。それで御承知の通り、今では活動している精霊は乗っ取った人間の形態をしているのです。

 乗っ取った後の精霊の行動原理はすべて乗っ取った人間の思考に基づきます。いうなれば、万能の存在がネトゲで縛りプレイをしているのと同じことです。ただし、乗っ取った人間が妄想過多であればそれに応じてチートが使えます。精霊の使う魔術とか魔法とかいうのはそういうことです。

 話は変わりますが、現在、ヒト、エルフの女性の形態の精霊しか存在しません。それは、俺つええ派の復活を阻止するため乗っ取りを妄想の少ない女性限定と規制しているからです。決して読者に迎合する意図のものではありません。

 それから、乗っ取り方法は現在ではひとつしかないこともお教えしておきましょう。

 大昔、活動に飽きた古代の精霊たちは石や植物に化体して休眠状態に入っておりました。現在ではすべての精霊はユグドシラルの木に化体して眠りにつきます。やがて眠りから覚め休眠状態にも飽きてそろそろ活動がしたくなった精霊はユグドシラルのリンゴの実となり、女性に齧られるのをひたすら待ちます。つまり気に入った女性にリンゴを齧らせ、齧った女性を逆に美味しく頂いて乗っ取り、精霊として復活をとげるのです。要するに、乗っ取り方法はユグドシラルのリンゴに限定されているわけです。

 ちなみに今から約600年ほど前にエルフがユグドシラルの木のある森を支配下においたため、乗っ取られるのは今ではエルフの巫女が本流ですね」

 マルグリットはファンタジーの説明なんて家電製品の説明書きに優るだるさだとボヤく巨漢を睨みつけながら、さらに説明を続ける。これから彼女の華麗な活躍ぶりの語りに入るのだ。しっかり聴いていてもらわねば困るのである。

「さて次に、私が華麗に暴いた陰謀の説明に移りましょう。私の灰色の脳細胞からすれば暴けない陰謀などありません。

 分かりやすく事実を整理してみましょう。

 まず第一に、外の奴らはうかつにもとの世界に入ってくることができません。ウザい派の抵抗ばかりか、また強力な精霊の復活にでも遭えば今度こそ存在自体が消されるかもしれないからです。

 第二に、仙丹の欠片のゆがみは小さく、外から送り込めるのは現代兵器に身を固めた人間がせいぜいであり、そんなものでは内を支配している精霊に立ち向かえないのです。

 そうすると、外の奴らの勝利条件は限られてきます。少なくとも自分たちにとって都合のいい精霊が内で復活して内を混乱させウザい派が弱まることが必要となります。

 そのためには……。

 もうお判りですよね。

 おバカな外の奴らは、自分たちの都合のよい俺つええ派の精霊が復活するよう、ユグドシラルのリンゴを齧る可能性がほとんどないにもかかわらずひたすら僥倖をたのみ数多くの妄想過多の異世界人を送り込んできたわけです。これが奴らの陰謀だったのです。ハイ。

 このことについていち早く気がついたマルグリットちゃんは賢明にもリーダーシップを発揮して対策を重ね、ついに外の奴らの企図を打ち砕いたのであります。その活躍ぶりは後々しっかりしつこく報告するから期待していてね」

「ふーん。ようやく終わったか。パチパチと。じゃ、陰謀の説明はもういいんな。んで、わしの復活はなんで?」

「なにそのおざなりさは。もうちっと感心してくれてもいいんじゃない。世界の平和を守ったのよ、私」

「そんなこと言われても、わし、もともとこの世界の住民でも何でもないし。それよか、わしの登場、ワケワカメのままなんよ。はよう説明してくれんかいね」

「へー、そんな薄情なこと言うんだ。じゃあ、益徳さんの説明はおざなりでいいわね。数行で答えちゃいましょう。

 マルグリットちゃんの活躍で陰謀を暴かれ失敗した外の奴らは次善の策として数の暴力で問題解決とばかりに軍隊を組織し送り込むことを計画しました。だが、それには仙丹の欠片のゆがみが狭すぎます。広げるにはとある世界の剣仙の試練を乗り越えて剣譜をゲットしなくてはなりません。そこで……」

「わかった。皆まで言うな。わしにその試練とやらを受けさせ外の奴らの邪魔するために復活させたというわけね。物価も上がることだし、世知辛い世の中だ。そうそう安い金額では引き受けられん。オジサン、ギャラ高いよ。それに危険手当も当然つけてもらうよ」

「不正解です。違います。的外れです。試練の候補はすでにいます。益徳さんは試練の実況の解説員としてお呼びしたのです。いくら色もので受けが狙えるからと言って、失敗されては困るのです。世界平和は重大案件なのです。ちなみに解説員のギャラはでません」

「色もの認定すな。あれは小説の中だけ。いくら14億のハードでコアなファンがいるといっても、わしは絶対に認めん。小説と現実の区別はつけてもらうけんね、絶対。

 それはそうとしといて、解説員ってなんね?わし、こう見えても結構強いんよ?なんちゅうても中国では、わし、神様だかんね。試練うけさした方がお得だよ。ちなみにギャラは天下り公務員の退職金の額でお願いします」 

「……。うーん。言うべきか言うわないでおくべきか、それが問題だ。気落ちしたオジサン見るの、ウザいし。なんかマルグリットちゃん、気疲れちった。説明は次回ね。じゃバイバイ」

「ちょっと、待たんね。2秒も考えてないのに気疲れはないっしょ。気になる言葉残してバイバイもないんじゃね。オジサン、夜、寝られなくなるちゅうの」

「あっそう。じゃあ、めんどくさいから言うね。

 向こうは三人の選手を選びました。ひとり目は後漢最大の英雄で益徳さんの嫌いな呂布さんです。身長2メートル30センチから繰り出される方天戟が怖いです。二人目は益徳さんの尊敬する関羽さん。雲長さんも中国では神様でしょう。しかも格上。三人目は聞いて驚け、なんと項羽さんだよ。覇王だよ、覇王。100万人くらい優に殺している大量虐殺者。当時の世界人口からしてどんだけ殺してんだよ、このひと。

 もうわかったよね。この3人、名前聞いただけでガクブルだよね。益徳さんじゃ、勝てるわけないでしょう。ね!ね!ね!」

「……フ、フンだ。わ、わし、マジキチでもなんでもないから悔しくなんかないもんねえ、だ」

「読者の皆さま。次回はファンタジー名物の俺つええバージョン塔攻略編だよ。乞うご期待。説明は皆のアイドル、マルグリットちゃんでした。おしまい」

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