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主人公の女 2

 主人公の女2



 眼前で青バッチを渡されると、ナカムラ少年はうろたえ出した。


「ば、ばれたらヤバいんだよお。見逃してくれよ」

「そりゃそうだろうな。羊がオオカミの皮をかぶってオオカミの群れに入り込んで調子に乗っていたのがばれちゃうわけだ。八つ裂きにされるのが普通だろうな。

 報告書によると、お前は転生前もおんなじことをしていたらしいな。

 ネットの匿名性を利用して右翼の尻馬に乗って少数者のあることないこと書き散らして人の憎悪を煽っていたそうではないか。

 私にとりお前のような輩はおなじみだ。メラリアにも昔はわんさかいたよ。攻撃性だけは人一倍の臆病もの達がな。

 てめえのやったことのリスクも受け取れねえくせに一人前の口を叩くな。 これが、当時の私の連中に対する評価で今も変わっていない。お前についても同情の余地なしだ」

「ほ、保護するのがあんたらの役目なんだろう。だったら俺も保護してくれよ。俺は被害者なんだ。来たくてこの世界に来たわけじゃないんだ」

「ウム。この世界に転生したくはなかった、か。その点だけは認めてやろう。報告書を見ても転生前の現実逃避もネットで満足できたようだしな」

「だ、だったら」

「おっと、誤解はするな。

 精霊防衛隊の本来の目的は次々と送り込まれてくる異世界人たちからこの世界の社会秩序を守ることにある。つまり、慈善事業でも博愛精神でやっているわけでもないんだ。全員この地上から抹殺してしまうのが一番簡単だが、それでは来たくもなかったのに送り込まれた連中があまりにもかわいそうすぎるから連中が社会秩序を害さない限りで保護しましょう、というだけだ。

 ところがお前は異世界人の癖に異世界人を攻撃して社会不安を煽った。これは犯罪行為だ。

 お前を保護する理由や必要なんかどこにもない。

 それに、お前が街頭でわめいていた論法でいけば異世界人は抹殺されて当然なんだろう。やったじゃないか。お前が殺されれば主張が実現されるんだ。気持ちよく殺されて来い」

「くっそう。お前ら、呪ってやる。今度転生したときはきっと後悔させてやる」

「ああ…。残念なお知らせがある。お前はもう転生しない。生まれ変わることもない。ここが終点だ」

「……」

「理解できないようだな。少し説明してやろう。今までこの世界へやってきた異世界人で転生したのはひとりっきりだ。それもよその世界へと転生させられた。奴には特殊な事情があってな、ある送り手のオモチャなのだ。予備軍としてもう二人いるが、お前はその枠に入っていない。

 そういうわけだ。

 あきらめて従順に殺されろ、羊らしくな」


 転生したのは事件のオギワラ少年であり、予備軍の二人とは現在公判中のレナード・コールこと転生前名クツキ・ヨウコとアイリーン・パーシバルこと転生前名ニシウラ・トモミだ。送り手はマルグリットの仇敵であるリリス・グレンダウアーという元この世界の精霊である。

 マルグリットがレナードとアイリーンの頭の中の記憶をのぞいてきたのだから間違いない。

 奴は人の記憶をのぞくだけではなく仇敵のリリス同様、記憶そのものを改変することが出来る。

 私も奴に記憶をいじられ最近まで全く不審に感じてこなかったのだ。今、思い出しても腹が立つ。

 くー、はらわたが煮えくりかえるわ。こけにしやがって。


 あと、亜空間通信とかいう異世界人のいうところのインターネット類似の機能を働くものを使い、亀がある異世界の住人と交信して3人とリリスの過去を追跡調査している。

 相手の住人は『銀の稲妻』とかいう恥ずかしいネームを使っているらしい。亀は亀で『黒い環礁』とかいうわけのわからないネームを名乗っているそうだ。なんでも異世界人の頭の中にあるアニメという絵物語にちなんだそうだ。

 理解できん。

 まあ、亀の恥ずかしい名乗りなんかどうでもいい。私の経験から言うと、あれだな。幼児性のある奴には天才が多い。御多分にもれず亀はある種の天才だった。亜空間通信の仕組みを開発すると同時に異世界人をこの世界へと送り込む仕組みまで解明してしまった。動機が自分のことを愛してくれる美少女のコピーを作るという残念なものだったがな。その失敗作が例のシルビアで、シルビアはマルグリットに記憶を操作され私を狙うように仕向けられた。マルグリットがそのように仕向けたのは私に早く精霊としての力を目覚めさせたかったためで……。


「ふ、不公平だ。こんな不公平あってたまるか」


 私が過去の追憶に浸っていると、ナカムラ少年が逆切れしていた。


「フ。やっぱり馬鹿だな、お前は。

 魂とか人格の価値とかいう意味以外、人間皆生まれ落ちたときから平等ではない。

 選びようがない環境とういうやつさ。誰もが不公平にあえいでいるんだ。なにをわけのわからない駄々をこねている。

 チョット状況が悪くなると、いつもお前たちは皆そんな駄々をこねる。覚悟のない奴はやはり美しくないねえ。

 ただ、魂や人格なんて評価のしようがないから平等に扱わざるをえない。これがすべての基本だ。こいつを侵害された時だけは抗議していい。

 それをおまえは同じ口で転生前も今も他人の人格を貶め続けてきたわけだ。レッテル張りをして差別の増産に励んできたわけだ。

 そんなおまえが平等に扱えだと。オカシイことを言う。

 死ぬ前に攻撃される側にまわって差別されて殺されるなんて新しい体験ができてよかったじゃないか。ウジ虫野郎。生きてりゃ勉強になることばかりだな。

 ついでに、もうひとついいことを教えておいてやろう。

 よく聞けよ。

 お前の本体は今現在も元の世界でネット三昧の生活を送って人の憎悪を煽り続けているはずだ。

 お前は本体のコピーにすぎない。

 送り手がこの世界のおまえの母親の中の胎児の一部をつくりかえたというわけだ。

 おまえはトラックに轢かれたわけでも白い空間で神様に会ったわけでもない。

 常識から考えてそんな神様がいるわけないだろう。

 人間、死ねば終わりだ。死んだ後に天国へ往ったり地獄へ堕ちたりすることもない。そこでお終いだ。

 お前は本体のコピーとして適当に記憶をいじられたにすぎんのさ」


 私やシルビアと同様に、な。


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