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主人公の女 1

 主人公の女1


 私はこの物語の主人公であるマリアカリア大尉だ。

 誰が何と言おうとも、これだけは譲れん。皆が忘れないようにここで宣言しておく。

 題名からして『マリアカリア大尉の異世界冒険譚』なのだ。私が主人公であることは決定事項である。そこのところを間違えないようにしてくれ。


 私が何故苛立っているかって?

 それは秘密警察長官のマルグリットに衝撃的なことを告げられたからだ。 部屋に入ってくるなり、あのアマ。自分の喉へ軽いチョップをくれながら、『ワレワレハセイレイダ』とぬかしやがった。

 お前は子供か!

 今思い出しても腹が立つ。

 そして結局、その言葉がすべての答えなのにも一層腹立たしい。

 クソ精霊めが!エルフ以上に腹立たしい存在にはじめて出会ったわ。


 なにを言っているのか分からないって?

 簡単にいえば私が私であることを否定されたんだよ、あのクソ精霊に。

 それから、私の今までの行動すべてがあのクソ精霊の手の上で踊らされていたことにも気付かされた。

 なんて奴だ。

 湖で通行料をセビリとった時点からずっと私を支配してきたんだそうだ。 これほどコケにされて腹を立てずにいられるか!


 普段の私なら絶対に気付くはずのことが分からなくされていた。今から思えばオカシイことだらけだ。

 まず、私はメラリア王国の国家義勇軍大尉だ。夢渡りしたとき、国はザールラントとの同盟を破棄して中立宣言を出そうかどうかという大変な状態だったはずだ。なのに、なんでこんなところで私は暢気に精霊たちと公安警察ごっこをしているんだ?

 夢渡り自体もオカシイ話だ。以前の私なら全否定だ。

 体の方も変だ。

 毎食おいしく食べるはずの私がたまにしか食事を受付けなくなった。月のものも他人から見ればかなり軽い方だが、あの時以来、軽いどころかそのものがない。当然、私は妊娠などしていない。

 それから砂漠で受けた傷も消えている。

 変な能力も備わってしまった。


 どう考えてもおかしい。


 それをあのクソ精霊が一発で説明しやがった。

 『ワレワレハセイレイダ』と。


 余計何をいっているのかが分からないって?

 オイ、これだけ説明しても分からないってか!それは他人事だから軽く考えているせいじゃないのか、コラ!真剣味が足りんぞ!返答しだいによっては容赦はせん!私が両手利きで愛銃をいつも二丁携帯していることをわすれるな!

 チクショーメ!


 ……。……。


 あ、すまん。一般市民相手につい興奮してしまった。すべて八当たりだ。許してくれ。

 私がどれだけショックをうけたかどうかなんて世間様には関係ない話だな。興奮しかつ混乱したダークエルフ女の短い説明で理解しろという方がどうかしているな。いや、本当にすまん。


 ウン。今は分からなくてもいいさ。どのみち物語の進行上説明していくことになる。


 ああ、そうそう。今現在、例の墜落死したオギワラ少年の事件から一か月が経とうとしている。

 私は相変わらず保安局で異世界人の尋問をしている。

 これからは私のターンだ。




 保安局B棟206号室の内で、私と相対しているのはケーリー・グラントという金髪の17歳の少年である。

 少年は保守派過激派の一組織である愛国騎士団の幹部で街頭でいわゆるヘイト・スピーチを大声あげてなさっている御仁である。

 今も軍服まがいの制服に身を固め、自分では強面を気取っていなさる愉快なやつだ。外見上は。


「どういう理由で俺が保安局になんかに呼ばれなくちゃならないんだよお。ええ、大尉さんよお。あんまり舐めた真似してっとよう、街宣カーまわすぞ。こらあ」


 当然のことだが、今の発言後のキッカリ20秒後、少年は血まみれで床に転がった。

 私の虫の居所が悪かったのが、この少年の不運だ。自分の不運を呪え。


「こ、公職に就いている者がそんなことしてい、いいのかよ」

「うん?もうワンクールしてほしいのか?さすが強面を気取るだけあるな。よし、やってやろう」

「ま、待て。待ってください。口のきき方が間違ってました。俺が悪かったです。謝りますから許してください」

「え、なんだって。謝ってもらうことなんか何にもないよ。ただ、君が疲れていそうだったから、お姉さんが軽く肩たたきしてあげただけじゃないか。ね」


 私は少年にニッコリ笑いかける。


「ああ、そうですね。暴力行為なんかここでなかった。誰もそんなもの見てないし、聞いてもいませんね。俺の顔から血が出ているのもキット蚊にでも食われたんでしょうよ」


 年少者が礼儀を知るのはいいことだ。ストレス発散にもなるし。


「口のきき方が治ったところで、本題に入ろう。お前をここへ呼び出したのは尋問するためではない」

「そりゃ当然だ、い、いや、当然ですよね。だって僕、愛国騎士団の幹部で異世界人に反対する立場にあるんですから。へへへへ」

「尋問するためではなく確認するために呼んだのだ。転生者君」

「は、はあ?い、いやだなあ。ご冗談ばっかし」

「現ケーリー・グラント君の転生前の名前はナカムラ・タツヤ。

 高校中退で家に引きこもってネット・ゲーム三昧の生活。記憶ではコンビニへアイス買いに出かけた途中、車道へ飛び出た子猫を発見。思わず自身も車道に飛び出た結果、居眠り運転のトラックにはねられ即死。

 気付いたら白い空間で土下座する神様に遭遇。神様の言うことでは、誤まって処理されたとのこと。

 元には戻らないとの説明を受け、チートをもらって転生することを承諾。 転生後、いつまでたってもチートの発現がないことから騙されたことに気付き、保身のため愛国騎士団に入団。現在に至る。

 これで間違いはないか?」

「で、でたらめだ。でっちあげだ。お、俺は転生者なんかじゃないぞ。誰かが俺を陥れようと嘘の密告をしたんだ」

「手間を取らせるな。こっちは転生前のお前が小学校へ上がる前まで寝小便の癖が治らなかったことも、異常な怖がりで特に歯医者が怖くていつも治療前から涙ぐんでいたことまで把握しているんだぞ。

 まだ無駄な抵抗するというのであれば、今ここでお前がネットでどんな恥ずかしいサイトを閲覧していたかも暴露してやろうか」

「なんでそこまでわかるんだよう。お、お前ら、まさかあの神様の一味か?それとも、U.S.A?」

「不思議か?少しは頭を働かせてみろ。

 保安局の別名は精霊防衛隊。構成員は全員が精霊なんだ。全員な。

 お前が街頭でヘイト・スピーチをやっているとき、側を通った精霊がたまたまお前の頭の中の記憶を読んだ。

 ただ、それだけのことだ。

 この世界では精霊には不可能なことは何もないんだよ。何もな。

 だから自白を引き出そうと尋問する必要はない。確認するためだけにお前をここに呼んだ。

 理解できたか?転生者君」

「チ、チートじゃねえか、それじゃよお。お前らだけチートでなんで俺には何もないんだ。不公平すぎる!」

「馬鹿か、お前は。誰が何のためにお前の妄想実現のために力を貸す理由があるんだ?」

「そ、それは……」

「こないだ確認したやつみたいに心やさしいからです、とか、前世で善根を積んだからです、とかと真顔で言いだすんじゃないんだろうな。

 言うんだったら場末の演芸ホールへでも行け。ここではお笑いは禁止だ。受けがとれないからな。

 精霊はなあ、二人の例外を除いてユーモアの感覚がないんだよ」

 一人はマルグリットで、もう一人が私だ。そう私も精霊なのだ。


 正確には精霊に体を乗っ取られつつある状態の私。……。



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