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女の危機10

 女の危機10


 マリアカリアたちと入れ違いにナニナニの街に入ったポランスキーたちは、酒場の扉に貼られた手配書らしき一枚の紙に目が釘付けとなる。


「俺、真ん中の似顔絵の女を知っている気がする」(ポランスキー)

「わたしも」(向蓮蓮)

「俺が知っているのは、左手にナックルをはめてギャングとか殺し屋とかの強面をボコボコにする女なのだが」(ポランスキー)

「わたしが知っているのは、右手のサーベルで林姉の針をすべて撥ね飛ばし、怒号を上げながら左手の拳銃を撃ちまくる精霊」(向蓮蓮)

「どう考えても同一人物だよな、それ。

 それにしても、あいつ、なにやったんだ?」(ポランスキー)

「読んであげるね。

『上記の者たちは代官役宅を放火せり凶悪犯罪者なり。

 発見し捕縛した者には金貨300枚を贈ることをここに約する。

                      代官ホウカ男爵

 なお、被捕縛者の生死は問わない』と書いてあるわ。

 ふーん。ふたりとも変な知り合いがいるのね」(ゲンセンカ)

「放火?いずれは(犯罪者に)なるとは思っていたが、異世界で放火犯か。まあ、殺人とか騒乱罪を犯すよりはましか」(ポランスキー)

「ねえねえ、向ちゃん。このひと、どんなひとなの?」(ゲンセンカ)

「……名前はマリアカリア・ボスコーノ。あまり知らない方が幸せ」(向蓮蓮)

「そういうこった。できることなら(マリアカリアに)関りにならない方がいい。

 気をつけろよ、お嬢ちゃん。こいつみたいになったらもうお終いだからな」(ポランスキー)


 風で貼られている手配書が揺れ、マリアカリアの似顔絵が凶悪な笑みを浮かべたように見えた……。


  *       *         *         *


 その頃、セルマ修道院本山とナニナニの街との丁度中間にある城塞都市ウルペンの街にマリアカリアたちは到着した。

 先頭は南仏のカマルグ馬に似た白馬にまたがるマリアカリア。続いてアラブ種のような黒馬に乗ったエスター。最後尾は2頭立ての百姓馬車を御すサラ。


 城門をくぐると居並ぶ建物の奥から剣呑な無数の目が彼女たちを迎える。

 しかし、そんなものには無頓着にひとの行きかう大通りの真ん中を彼女たちは馬を進めた。


 彼女たちが進めば進むほど、往来の様子が急速に悪化する。

 買い物に出ていた女たちが慌てて手近かな建物へ逃げ込んだ。往来でまだ遊んでいる子供を近所の人が抱きかかえて家に駆けこむ。露天の店が急いでたたまれ姿を消す……。


 やがて大通りから人影が完全になくなった。


 鋳掛屋のまえを通り過ぎると、戸口で腕を組んで様子を見ていた親方が忌々しい感じで地面に唾を吐く。向かいの鍛冶屋では、熱い鉄片を打っている上半身裸の兄弟が手を休めずに横目でこちらをぎょろりと睨む。


 やがて無人のはずの大通りを松葉杖をついた男がひとり、こちらへ向かってくる。男はこの陽気にもかかわらず厚手のマントを羽織っている。うつむき加減で表情はまったく分からない。


 ヒュー。

 マリアカリアたちと男の間を風が吹き抜ける。


 やがて男と彼女たちは交差し、何事もなく分かれる。


 と。

 彼女たちの背後に回った男はマントをはねあげて振り返り、隠し持った弩を放つ。

 同時に両側の建物から得物を手にした強面の男たちが群がり出てきてマリアカリアたちに襲いかかる。


 だが、次の瞬間には男たちはみな血反吐で汚しながら地面をのたうち回ることになる。

 一瞬で、右腕を鞭に変えたエスターに胸をしたたか打ち据えられ、サラから入れ替わったアリステッドに魔術で両足を粉砕されたのだ。


 マリアカリアは背後から撃たれた石矢を振り向きもせずに右手で掴み取っていた。相手が弱すぎてホルスターに手を伸ばす様子さえない。


「つまらない」

 そう呟いたのはアリステッドか。それともエスターか。


 マリアカリアは右手に少し力を込めて石矢をピシリと折ると、何事もなかったかのように酒場の前まで馬を進めた。


 馬から降り、手配書の貼られている扉をくぐったマリアカリアはシガレットを口にくわえた。


「遠慮してくれ。ここはノー・スモーキングなんだ」

 酒場のオヤジが注意する(この世界では紙巻きはないけれども葉巻に似たものが存在するらしい)。

 

 マリアカリアは構わずエスターに火をつけさせる。そして。


 ふうー。

 オヤジの顔に煙を吹き付け、ニヤリとする。


「もうスモーキング・フリーさ。ここは。いろんな意味できな臭くなる」


 このとき、酒場は一個中隊約200名の兵士たちと30人のセルマ修道士に囲まれていた。



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