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情けは人の為ならず4

 情けは人の為ならず4


「アハハハ。これは夢ね。なんだ。夢だったんだ。

 ネオナチみたいな格好をしたやたら暴力的な目つきの悪い少女がいたり、変身する女殺し屋がいたり、山賊たちの目も当てられないような死体が転がっていたりするなんて現実にありえるわけないよね。おまけに空飛ぶ巨大昆虫ですって。異世界ですって。そこまでくると笑えてきちゃうわ。ないない。

 あー、可笑しい。

 でも、なんだかとてもお腹がすいたわ。夢の中なのに。

 そうだ。夢から覚めたら、ダイエットを気にせずにトッピングで山盛りのピザを注文しちゃおうっと。もし出勤日で注文できなくても、お昼にターキーが一杯詰まったクラブハウスサンドをかぶりつく。コレステロールなんてわたしは気にしないわ。これ、決定事項。それからそれから、『崖っぷちの女たち』のDVDもレンタルしなきゃ。あれ、シリーズ途中までしかTVで見ていなくて気になっていたんだよね。あと……。

 ギャー。イタイタイタ、タタタ。み、耳引っ張らないで!」

「これも夢なんだろう。痛いわけ無いじゃないか。サラ・レアンダー。

 現実逃避するのは勝手だが、団体行動している以上、パニックに陥って他人に迷惑をかけることはよせ。それに」

 耳をねじりあげられて涙目になっているサラをマリアカリアが容赦なく叱責する。

「生きる以上、日々、選択の連続だ。手で目を覆い立ち止まっている暇などない。常時、問題点を正確に分析し、柔軟な発想で最善手を選択し実行する。日常生活なんてこれの繰り返しにすぎない。仮に選択に失敗したとしても、自分で選択した以上反省はしても後悔などありえないはずだ。現実逃避して選択すらしないなど愚かにもすぎると知れ。このたわけが!

 あと。とある事情からわたしはやむなくTOKYOで私立高校の生徒をしているが、本来は26歳の女性だ。17歳の少女などではない。おまえよりも年長であって、年下呼ばわりはするな。いいな」


 サラには不幸なことだが、説教癖があって根が威張りたがり屋なマリアカリアはとにかく他人を精神的に攻撃しないと心の平穏を保てない。現状では精神安定剤代わりにサラに犠牲になってもらうしかない。


「われわれがナニナニの街へ行くことは既に決定事項であるが、街での行動目的について確認しておきたい。

 エスター中尉。君はマルグリットからもとの世界への帰還方法について説明を受けたかね?」

「いいえ。受けておりません」

「では、送り込まれるに際してなにか受け取らなかったか?ひも状の緊急脱出キットらしきものを」

「いいえ。受け取っておりません」

「なるほど。わたしもリリスに異世界へ渡る旅行キットもオリンポスへのチケットもすべて取り上げられている。

 これで街での行動目的は決まったな。帰還方法の情報収集だ。

 復唱しろ。エスター中尉」

「はっ。われわれのナニナニの街での行動目的はもとの世界への帰還方法もしくは方法を知る人物の情報収集であります」

「サラもその中にいる自称美女も協力すること。おまえたちも永遠にこの世界に島流しになっているわけにもいかないだろう。

 わたしは必ず帰還してあの二人をぶっ飛ばす!」

「エエッ?!それじゃ普通には帰れないということじゃない、わたしたち」


 事の重大さを知り狼狽するサラをよそにマリアカリアは左拳を掲げて復讐を誓った。


 そんなマリアカリアをエスターはジト目で見ている。

 彼女は、マリアカリアが今回、急に美女との戦争状態を宣言したり自分たち精霊防衛隊を呼び寄せサンフランシスコへ出張ったりしたのもみんな通販で大人買いした大量の少年漫画の影響だということをシルヴィアから聞いて知っていた。他人の妄想は嫌うくせに漫画の影響からマリアカリアは妄想で暴走しているのである。そして、帰還方法を探し出すためにきっとマリアカリアの暴走は加速する……。

 マルグリットが故意でしたのかどうかは分からないが、そんなマリアカリアの暴走という火に油を注ぐ真似だけはしてくれるなというのがエスターの正直な気持ちである。

 エスターには30年毎に幼い孤児の女の子を養女として引き取って育てるという決まりがあり、現在、その養女ミシェルの5歳の誕生日と幼稚園の参観日が近づいていて内心、気が気でないのだ。


 まったく。大概にして欲しいわ。こっちは事を手早く片付けて早く帰りたいんだけれども。(マリアカリアの暴走のせいで)余計なことが起こる不安で一杯だわ。


 彼女はそっとため息をついて、マニュキュアで光る爪で頭を掻いた。



「ナニナニの街までの移動方法であるが。エスター中尉。君がサイド・カーになれ」

「大尉殿。それはできません」

「君は抗命するつもりなのか。エスター中尉」

 軍法会議にかけることも辞さないとばかりにマリアカリアはエスターを鋭く睨みつける。

「いえ。大尉殿はお乗せすることができても、サラ・レアンダーのような精霊でもない、一般人を乗せることは不可能だということであります」


 マリアカリアは精霊になりかけであって、未だ人間として人に対して暴力をふるったり、精霊として他の精霊などのエネルギー体を蹴り飛ばすことなどができる便利な存在である。しかし、サラはただの人である。精霊は意識せずに人に物理力を行使することなどはできない。気を抜いていると人と握手することすら叶わない。電磁気力を物理力に変換する必要があるのである。エスターが気を張ってサラを乗せたとしても、時速80キロの高速で移動中に何らかの理由で気が抜けたりでもしたらサラは放り出されて最悪、死んでしまう。


「なるほど。分かった。

 それにしても君はエリザベス伍長より使えないヤツだな。残念だよ。エスター中尉」

「クッ。……自分も残念であります。大尉殿」


 たった3人しかいないのに不協和音がビンビンと響く。この先、一行はどうなってしまうのだろうか……。


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