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情けは人の為ならず3

 情けは人の為ならず3


「頭の中、ウジでも湧いているのかよ。オレはなにも悪くねえ。こいつら山賊はみんな賞金首だ。殺したって罪にはならねえよ」

 美丈夫が口を尖らせる。

「死人の持ち物を漁って金貨をカバンやポケットに詰め込んでいるのはなんと説明する。

 貴様は最初から山賊の財宝を奪うつもりでこいつらを殺したんだろう?違うのか。

 貴様のやったことをもとの世界で例えるなら、金欲しさにヤクザの事務所に殴りこみをかけ皆殺しにしたうえ金庫をこじ開けて札束を強奪してくるのと変わりがないのだぞ。

 悪い奴だから殺しても構わないというのであれば、わたしから見れば貴様は十分悪い。

 もうこんなグダグダな会話はいいな。貴様も殺されることに充分、納得できただろう。こっちは顔を見るのもうんざりしているんだ。さっさとわたしに襲いかかってきて早く死ね!

 それとも、しゃべりたりなくて、『人を殺してなんで悪いの?』という史上最低の質問でもするつもりなのか?願い下げだぞ」


 冒険者風の美丈夫がゆらりと奥から出てきてマリアカリアと対峙する。

「おまえ。ぶっ殺す!」


 殺気が渦巻く周りの様子にサラの目が大きく見開かれる。


 と。


「迫真の演技だとは思いますが、観客(美女)はちっとも感動していないみたいですよ。大尉殿」

 対峙していた美丈夫が黒革のコートを羽織ったポニーテールの女性へと姿を変える。


「ふうむ。しぶといな。(美女は)サディストだから興奮して出てくると思ったのだが。

 それにしても、なぜここにいる?エスター中尉」


 エスターはポケットから取り出したシガレットケースをマリアカリアに勧め、自分も一本、口に咥えて火をつけた。もちろんホルスターに吊っていたルガー08型のライターで。


「フウー。(世界から美女が消えて)暇になったんなら大尉殿のサポートでもしてきなさいと長官(マルグリット)に言われまして」

「フン。マルグリットも気が利かない。こんな殺し屋を送ってくるくらいならなぜエリザベス伍長を送ってこないのだ。彼女の方がよっぽど役立つというのに」

「ひどいこと言いますね。大尉殿も。

 わたしは美女の思考を読み取れますし、美女の術の行使も邪魔できる。仮に美女がそこの女の(サラ)から抜け出たとしてもどこまででも追跡できる。

 エリザベス君より大尉殿のお役に立てるはずですよ。大尉殿」

「美女が出てきさえすれば、わたしでも美女の術の行使を邪魔できるさ。エスター中尉の役立ち度はそんなに大きくはない。

 マルグリットは認識していないかもしれないが、エリザベス伍長はわたしにとっては必要不可欠な従卒なのだよ。早い話、あの天才デザイナーならそばにいるだけでわたしに兵員輸送車なり快適なセダンやスポーツカーなりといった移動手段を提供してくれる。君にそういったことができるのかね。エスター中尉」

 エスターは肩をすくめてみせた。

「それにだ。エリザベス伍長はわたしのことをよく理解している。こういったこと(山賊の惨殺)を彼女なら絶対にしない。

 エスター中尉。わたしの指揮下にいるのなら、わたしの気に入ることだけをしろ。二度とするな」

「はっ。申し訳ありません。大尉殿。二度と致しません」


 マリアカリアももと情報将校だけあって、秘密工作の活動資金集めがこういうものに偏るのは知っている。だが、彼女はどうしても馴染めないし許せない。


「撤収する。金貨は現場に捨てておけ」


  ✽      ✽       ✽       ✽


 マリアカリアたち一行はエスターの先導でナニナニという街を目指す。


「大尉殿のご想像通りここは剣と魔法の異世界ですよ。文明の程度は低く、どの国のどの時期を指しているか知れませんが、いわゆるヨーロッパ中世もどきの世界です。

 ただ気をつけなければいけないのは、ここは半分は巨大昆虫の楽園でもあるということです。ほら」


 エスターの指摘で一行が見上げると、遥か遠くの上空をトンボとムカデをミックスしたような巨大な生物が何体も泳ぐようにしてどこかへと渡っている。


「フン。ジェット機もないのか。時化た世界だな。つまらん」


 マリアカリアはそう吐き捨てた。



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