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愛の牢獄5

 愛の牢獄5


 とある異世界―


「そこまでよ。あなた方の悪事はこのブルー・ナイトが許しません」


 青いマスクで目元を隠し派手な飾りのついたつば広の帽子を被った女騎士がポーズを決めて黒装束の盗賊風な男を指さした。


「悪の秘密結社とはいえ、普通に金を稼がなきゃ飯が食えねえんだ。見逃してくれよ」

「いいや。ダメです。同族会社の内紛に付け入って株の買い占めをするなどといったスケールの大きい話ならいざ知らず、骨肉の争いをしている女社長の言動を面白おかしくブログに書いて閲覧件数を稼ぐなんてみみっちい悪事は許しては置けません。天に代わって正義の鉄槌を撃たせてもらうわ」

「……どんな理屈だ。

 しかし、どうやっても戦うというのなら、こちらも生活防衛のため意地を見せてやる。かかってこいや」


 こうして悪と正義の戦いが始まった。

 悪の秘密結社の幹部らしい男が必死になってムチをふるうが、女騎士は涼しい顔でひらりひらりと身を躱す。女騎士は剣を抜きもしない。

 そこで、一向に攻撃の有効ポイントの入らない男は業を煮やし、突然、口から緑の光線を吐いた。

 だがー


「きゃあ〜。マントが汚れちゃったではないですか。魔法騎士に向かって汚いものを吐くなんて無礼は断じて許せません」

 男の窮余一策が女騎士の怒りを買ってしまう。あとはボコボコである(退屈な展開なのでその後は省略)。


 男が悔しそうな表情を見せて対峙している女騎士の前でついに膝をつく。

「ハア、ハア、ハア。くっそう。たとえここでオレを倒したとしても、第二、第三の悪の幹部がー。

 うわあああ。何すんの。あんた」

「邪魔です。どきなさい」


 男は突然現れたエリザベス伍長に突き飛ばされた。


「お武家様。お武家様。

 わたすは通りすがりのただの百姓娘ですが、あちらで強い軍人様があなた様にお話したき儀があるそうで。へえ」


 エリザベス伍長の指差す方向にはいつの間にやら建った居酒屋風のボロい建物が戸口を開けており、中で眼光を鋭くしたマリアカリアが座っているのが見える。

 女騎士は眉を寄せた。


「何者ですか。わたくしを呼びつけるのは」

「なんでも意地の悪いことを平気でするとても強くて偉い軍人さんだそうで。へえ」

「ふうむ。強いものが惹かれあうというのも当然のことですか……。

 どちらが強いか示してみるのも一興かも。ちょうど出てくる敵が弱いのばかりでわたくしも退屈していたところだし」


 女騎士は剣帯を締め直して居酒屋風の建物へと向かった。

 うしろで「オレはどうなんの?えっ。放置ですか」と男がわめいていたが、「モブのお仕事は終わりました。速やかに退場してください」とエリザベス伍長に切って捨てられた。


  ✽         ✽         ✽        ✽


「うーむ。これで834人目か。この世界にも強い奴がいない、か。これではひとりも獲得できないじゃないか」


 居酒屋風の建物の中でシガレットに火をつけながらマリアカリアが不満を漏らす。


「大尉。ハードルの上げすぎだ。サブマシンガン程度に下げたほうがいいのではないのか?」

 戸口の陰でPM1910重機関銃(マキシム機関銃)の銃把を握ったシルヴィアが忠告する。

「馬鹿な。それでは自称美女との戦いでは使えない。戦力ではなくお荷物を抱え込んでどうするのだ」


 マリアカリアが密かに考えていたもうひとつの方策とは、他の世界から腕の立つ連中を連れてきてそいつらに悪い魔女との戦いを任せ自分は何もしないというものだった。そして、腕が立つかどうかの確認は、適当に目星をつけた人物をエリザベス伍長に呼び止めさせてこの居酒屋風建物の中へと誘い込み戸口の陰に隠れたシルヴィアに機関銃を撃たせ銃弾を浴びせかけてみる、というものだった。つまり、真の強者であれば重機関銃の毎分550発の弾幕も平気であろう、というテストである。

 さすがにマリアカリアもシビアな軍人であり、発想はいいのだが、今までこのテストをクリアーできた者はいなかった。


「だいたい、どうしてやつらはノコノコと戸口をくぐってくるのだ。理解できん。

 妙な話なのだぞ。警戒して当然だろう。まったく。

 しかも、連中ときたら、殺気というものを感じすらできないらしい。お話にすらならん。

 これでは役に立たんじゃないか」


 マリアカリアは苛立ったように紫煙をふかす。



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