003:なら、眠ってしまいなさい。
「はっ、蔑ろにしただと? 俺はこれ以上ないくらいに丁重にもてなしてやったがな。何せ、俺の正妻だ。大切に決まっている」
これは本心だ。ただし、政治的な方面のみでの。感情の方から見れば全く持って忌々しい存在だ。
あの女は父親を使い、男の想い人を他の貴族へと嫁がせて自分を売り込みに来たのだから。
「それよりも、お前はいつから俺より偉くなった?」
「儂は建国の王との契約により、代々の王に助言を行うだけじゃ。この国が滅ぶまで。儂に身分の優劣など関係は無い。建国の王と儂との契約、これだけが全てじゃ」
魔術も使えぬ小童がほざくようになったの。
完全に嘲りを含んだ良い様にピシリ、と空気が凍った。
「じゃあ何だ? お前は魔術が使えるとでも?」
「言ったはずじゃ、儂は建国の王と契約をなしたと。……我が名はツェツィーリア。お主とて、この名はしっておろう? 歴代最強と謳われた魔女の名じゃ」
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『お前はこの国の妃になるのだ』
幼い頃から言われた言葉。でもなりたくなんて無かった。私にはまだ見ぬ夫となる男性よりも、私を想ってくれている幼馴染の方が愛おしかった。
それなのに。
『あの男なら戦死した』
『……お父様、貴方が無理やり彼を激戦区へと送ったのですね……っ』
『言ったはずだ! お前はこの国の妃になると!!!』
もういや。何も考えたくない。
国王陛下は恐ろしい方。私ではない方を寵愛していらっしゃったのに、なぜ私を正妻に?
なぜ憎しみの籠った目を向けるの?
私だって、好きで嫁いだわけではないのに……。
《なら、眠ってしまいなさい。後の事はアタシに任せて。アナタは何も心配いらない。アタシが、全てを引き受けてあげる。》
あなたは誰?
≪アタシはアナタ。アタシはアナタを護るためだけにいる。アナタが全てを受け止めるその時までアタシがアナタの代わりになってあげるから≫
受け止めたくなんて無い。
≪なら、眠ってしまいなさい。次に目覚めるときはきっと……≫