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7   食は体の基本です。

 レイが呪文を唱えた。


「ライウ! ……う!」


 やたら元気な二足歩行のトカゲ型魔物、『トカゲンキ』に雷を伴う局地的大雨が降り注ぎ、レイが胸を押さえて倒れた。

「カンチ!」

 すかさずミイナがレイに回復魔法を唱える。

 飛び出したガインが、なりふりかまわず魔物に突っ込んだ。


「カンチ!!」



◇◇◇◇



「あ〜、疲れた」

 停車中の馬車の床にぐったりと寝そべり、ミイナは呟いた。

 防御の出来ないガインと体の弱いレイ。その二人への回復魔法の連続使用で、ミイナは疲れていた。

「こんなに魔法使ったのは初めてだよ」

 少々嫌気がさすが、かと言って回復魔法を使わなくてはガインもレイも大変なことになる。ひとり取り残されるのだけは、ミイナも避けたい。

 何もせずにごろごろと寝て魔法に必要な気力を回復させていると、外からレイの声が聞こえた。


「ミイナ、ご飯だよ」


「はーい」

 返事をして体を起こす。ミイナが休憩している間に、レイとガインの二人で協力して昼食の準備を整えてくれていた。

「今日の昼食は何かなー?」

 明るく言いながら馬車から飛び降りる。しかしすぐ傍で焚き木を囲んでいるレイとガイン、そしてその足元に置かれた料理を見て――途端にミイナは顔を顰めた。

「……またこれ?」

 今日の昼食のメニュー、いや、朝も昨日もその前の日も同じ料理を食べた覚えがある。


 魔物の肉を火で焼いただけのものと、堅いパン、薄いスープ――。


「もし良かったら、ミイナが作ってくれてもいいよ」

 レイに言われて、ミイナは頬を膨らませた。

「私が料理出来ないの、知ってるくせに!」

 ミイナはセイン国の城内にある食堂を思い出す。まだ離れてからそれ程日数が経ったわけではないが、黙っていても美味しい食事が出てきたあの頃が懐かしく感じられた。

「両親と住んでいたガインはともかく、レイは長年独り暮らししてたんだよね? それでこのレベル?」

 棘のある言葉にレイが苦笑する。

「僕は胃腸が弱いから、いつもこのスープを食べていたんだよ。だから他の料理は知らないんだ」

「…………」

 まさか魔王退治の旅にこんな落とし穴があるとは。溜息を吐いてミイナはガインに視線を向けた。

「ガインだって嫌だよね、こんな料理」

「いや、俺は肉が沢山食べられるので、それなりに満足している」

 満足なのか、これで。

「……ホーダイ国に着いたら美味しい料理を食べよう」

 それまでもう少し我慢するか、とミイナは座って肉を手にする。しかしその発言を聞いたレイが、真面目な表情になってミイナを諭した。


「お金は節約しないといけないよ」


「え?」

 口に肉を持っていこうとしていたミイナの動きが止まる。

「装備品を買わないといけないだろう? 一応僕たちは魔王退治に向かってるんだから」

 そう言われて、ミイナは自分の格好を改めて見た。防御力など無いに等しいごく普通の神官服に、長年愛用の神官用の杖。レイの格好も似たようなもので、ガインにいたっては牢に入っていた時のままの普段着で、しかもボロボロの上に、替えの服も下着も持ってはいなかった。

「回復担当のミイナは倒れられると困るから出来るだけいい防具が必要だし、ガインも防御が出来ないからいい防具が必要だ」

 レイの言葉にミイナは素直に頷く。

「そうだね。少なくとも防具は揃えたいね。でもそれって、いくらぐらいするのかな?」

 レイが眉を寄せて唸った。

「うーん、ピンからキリまでだろうけど……、出来れば腕のいい装備品職人さんのオーダーメイドで作りたいな」

「オーダーメイドか。腕のいい職人さんって何処に居るの?」

「ごめん、知らない」

 ミイナはガインに視線を移す。

「俺も知らない」

「…………」

 装備品職人も探さなくてはならないのか。うんざりとするミイナに、レイが追い討ちをかける。

「その前に、お金をもう少し稼がないといけないよ。装備品だけじゃなく、世界の中心の孤島に行く為の船も要るからね」

「…………」

 ミイナが、がくりと項垂れた。

「そんな……。お金なんてどうやって稼ぐの?」

「魔物の毛皮を売ったりするしかないかな? だからお金は出来るだけ節約しよう」

「……うん。これから大変だね」

 はあ、と大きな溜息を吐いて、ミイナは肉に齧りつく。不味い。

「ホーダイに着いたら、せめて調味料くらいは買ってもいいよね?」

 眉を寄せて訊くミイナに、レイは笑った。

「勿論」

「やった! じゃあ早く食べて出発しようよ」

 勇者の子孫達は昼食を急いで食べ、馬車に乗って移動する。そして――。


「あれがホーダイ国ではないか?」


 ガインの言葉に、ミイナとレイが御者席に集まる。

 夕日の中、まだ小さい影ではあるが、確かに国らしいものが見えた。

「ホーダイ国のようだね」

 レイが肯定し、ミイナが笑顔で指示を出す。

「急げ、ヒヒリーヌ!」

 レイとガインが首を傾げた。

「ヒヒリーヌってなんだい?」

「この馬の名前だよ。今付けた」

「へえ、ヒヒリーヌか」

 ガインがヒヒリーヌを手綱で叩き、馬車がスピードを上げる。

 それから休憩も無くひたすら走り、日が暮れてすっかり暗くなった頃、勇者の子孫達はホーダイ国に辿り着いた。


「やけに賑やかだが、どうなっている?」


 着いて早々、ガインは眉を寄せた。

 国中にかがり火が焚かれ、笛や太鼓の音が響いて国中が異様に明るい雰囲気に包まれている。

「うーん、なんだろ?」

 疑問を抱きつつも勇者の子孫達は馬車から降りた。

「あ! 屋台が出てるよ」

「何があったか訊いてみようか」

 馬車を引いていき、ミイナがすぐ近くの屋台の店主に話しかける。

「あの、すみません。なんでこんなに賑やかなんですか?」

 屋台で長いソーセージを焼いていた店主が顔を上げた。

「ん? あんたたち旅人かい? 『食の国ホーダイ』にようこそ。祭り開催中だよ!」

「祭り?」

 首を傾げるミイナに、店主はソーセージを高々と掲げて答える。


「『魔王復活! もうどうにでもなれ大食い祭り』だよ!」


 満面の笑顔の店主に、ミイナは唖然とした。

「……何それ」

 ガインも唸る。

「この国はヤケになっているのか?」

 店主はソーセージをミイナに差し出した。

「ほら、お嬢ちゃん達も食べていきな」

 目の前の肉汁滴るソーセージに、ミイナが唾液を飲み込む。昼に食べた肉とは比べ物にならないほど美味しそうだ。

 食べたい。

 受け取ろうか一瞬迷って、ミイナは悔しそうに首を横に振った。

「でも私達お金が……」

 無駄遣いは出来ない。しかし店主は豪快に笑ってミイナの手にソーセージを持たせた。

「大丈夫。このお祭りに出ている料理は全部タダで食べ放題だよ。もうすぐ魔王にみーんな殺されるから、金なんて持ってても仕方ないだろ?」

 店主がウィンクをする。レイが眉を寄せて呟いた。

「……明るく諦めているのか」

 どうやらホーダイ国は、魔王に殺される前に国を挙げてどんちゃん騒ぎをするという選択をしたようだ。

「凄いよホーダイ国。ところでおじさん、この国に勇者の子孫っていませんか?」

「ああ、いるよ」

「何処にいるか分かります?」

「んー、たぶん……」

 店主はソーセージで、かがり火によってオレンジ色に輝く城を指した。


「城の前で行われている、大食い大会に参加していると思うよ」


「……え?」

 大食い大会?

 勇者の子孫達は顔を見合わせた。


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