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6   攻撃は最大の防御?

 釈放されたガイン、それにミイナとレイは裏口から目立たぬよう城の外へと出た。

「さて、これからどうしよう」

 レイが顎に手を当てて言い、ミイナはガインに視線を向ける。

「この国で魔王退治を手伝ってくれそうな人はいない?」

 ガインは首を横に振った。

「魔物から国を守るのに精一杯で、そんな余裕はないだろう。それにこれだけ騒ぎを起こしておいて頼むのも気が引ける」

「この国には他に勇者の子孫は居ないの?」

「俺の母が勇者の子孫だが、剣など持ったことがないごく普通の主婦だ」

 ガインの言葉に、レイが「そういえば……」と思い出す。

「お母さんが倒れたと聞いたが、会いに行かなくていいのかいい?」

「ああ。こんなに迷惑をかけて、両親に合わせる顔など無い。俺が旅立ったことは陛下から伝えてもらうことにした」

「……そうか」

 レイは励ますようにガインの背中を軽く叩いた。ミイナが唸る。

「それじゃあレイ、他に『勇者の子孫情報』は無いの?」

「うーん、僕は知らないな。ガインは何か知ってるかい?」

 ガインが「ああ……」と頷いた。

「それならホーダイ国に勇者の子孫が住んでいると聞いたことがある。確か格闘家だとか言っていたな」

 格闘家の勇者の子孫――。

 あっさりもたらされた有力情報に、ミイナが歓声を上げた。

「格闘家! 即戦力になりそう! レイ、さっそく移動魔法でホーダイに行こうよ!」

 笑顔のミイナに、しかしレイは困ったように頭を掻いた。

「うーん、それは無理なんだ」

「え?」

 ミイナが首を傾げる。

「それってもしかして、体に負担がかかるから? それなら大丈夫だよ。死にかけてもちゃんと回復してあげるから」

「いや、そうじゃなくて……」

 レイは申し訳なさそうに笑い、ミイナの頭を撫でた。

「一度行ったことのある場所にしか、移動魔法では行くことは出来ないんだ」


「…………」


 一瞬遅れて言葉の意味を理解し、ミイナが目を見開く。

「ええ!? そんな、どうするの?」

「地道に馬車で行くしかないね」

 ミイナは眉を寄せ、口を尖らせた。

「……う、地道……いや、仕方ないか。でも魔物に襲われたら魔法でやっつけてね」

「ああ、分かっているよ」

「じゃあ出発!」

 兵の手により既に裏口に回されていた馬車に乗り、勇者の子孫達はウォル国から出る。

 御者席には『せめてそれくらいは役に立ちたい』と立候補したガインが座っていた。

「ところでホーダイ国って何処ら辺にあるの?」

 ミイナの質問に、レイが荷物の中から地図を取り出す。

「ここがウォル国。ホーダイはウォルから北東の方角、セインのずっと北にあるんだよ」

「へー。どんな国?」

「さあ? 僕も行ったことがないから詳しくは――」

 その時、御者席から鋭い声がした。


「魔物が現れたぞ!」


 馬車が停止し、ミイナとレイが御者席に集まる。

 馬車の前には、長い毛の生えた大きな体と大きな口、それに短い四本足の魔物が一頭いた。

「あれ何? なんか強そうじゃない?」

「『ケダラケカバ』だ」

「よく知ってるね、レイ」

 即座に答えたレイにミイナが感心する。レイは荷物の中から一冊の本を取り出した。

「この『世界魔物全集』で勉強したんだ」

 レイがパラパラとページを捲り、ケダラケカバについて書かれた箇所を見せる。本には魔物がイラスト付きで分かりやすく紹介されていた。

 ふーん、と唸りながらミイナが目の前の魔物と本に描かれた魔物を見比べる。

「あれ? でも、ちょっとこの絵より体つきががっしりしているしロン毛だよね」

「うーん、もしかして魔王が力を取り戻しつつあるから魔物も強くなっているのかもしれないな」

「嘘、それ困る。……ってそれよりレイ、魔物がこっちに突進して来た! 魔法をお願――え!?」

 ミイナの言葉が終わるより早く――。


「ガイン!?」

「ガイン!」


 ガインが短剣を鞘から抜いて馬車から飛び降り、魔物に向かっていく。

「ガイン、どうしたの!?」

 ミイナの叫びに、ガインは振り向かずに答えた。

「体が勝手に動く……!」

「え!?」

 鞘から抜いてなくても呪いは発動するのか。やはり簡単にはいかなかったとミイナが顔を顰める。

「根性で何とかならないー!?」

 両手を口元に当てて大声で訊くミイナに。ガインは同じく大声で返した。

「やってはいる! だが……!」

 ガインが両手で短剣を握り、魔物を刺す。魔物も大きな体でガインに体当たりして鋭い牙でガインの肩を噛んだ。ガインが刺す。魔物が蹴る。ガインと魔物の体から血が飛び散った。

「うわ、うわわわわ……」


 ガインは『メッタ刺し』の技を覚えた。


 攻撃されてもひたすら魔物を刺しまくるガインの姿に、ミイナが思わず一歩下がる。魔物が圧し掛かられたガインが呻き、地面に血が広がった。

「ぼ、防御! 防御しないと!」

「で、出来ない!」

「そうだ! レイ、魔法で援護して!」

 ハッとレイの存在を思い出してミイナが振り向く。すると――。


「うげえ!」


 馬車の中も血の海だった。

「なんで吐血してんのよ! カンチ! ほら魔法唱えて!」

 ミイナが蹲るレイの襟首を掴んだその瞬間――。


「カバァァァん……」


 魔物の咆哮が聞こえた。

 ミイナが視線を向けると、魔物は地面に倒れ、その横でガインが肩膝を付いて荒い呼吸を繰り返していた。

「だ、大丈夫!?」

 声をかけるとガインが立ち上がり、よろよろと馬車に戻ってくる。

「カンチダ!」

「……ありがとう」

 馬車に乗り、崩れるように座り込むガイン。

「…………」

「…………」

「魔物を見た途端、体が勝手に動いて短剣を抜いていた」

「うん。呪いだね」

 ガインが額に手を当てる。

「……やはり一緒に行くのは迷惑がかかるな」

「うん、いやでも、戦力にはなるよ。少なくとも肝心な時に吐血するレイよりは」

 ミイナとガインの視線がレイに集まる。レイは「ごめん」と小さな声で謝ると、荷物の中から布を取り出して汚れた床を拭き始めた。


「…………」

「…………」


 ミイナは大きく息を吐き、ガインの肩を叩く。

「一緒に行こう、ね」

「……ありがとう」

 不器用な笑顔を見せるガインにミイナも笑う。

「しかし……防御が出来ないのはキツいな」

「怪我は治癒してあげるから気にせずやろう」

「ああ。分かった」


 ガインが御者席に戻り、勇者の子孫達は旅を再開させた。


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