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59  最終決戦

 鎖に繋がれた大きな魔物。

 頭には二本の角が生えていて、毛が濃く、若干バランスが悪いながらも後ろ足で立っている。

 魔物が振り向く。

「ナパーン! 今度こそ貴様を――」

 言葉を途中で止め、魔物は勇者の子孫達をじっと見る。勇者の子孫達も魔物を見つめた。

「…………」

「…………」

 短い沈黙の後、魔物は訊く。

「……ナパーンは何処だ?」

 勇者の子孫達は顔を見合わせた。

「ナパーンって何?」

「人の名前……、じゃないかい?」

「誰だ?」

「さあ?」

「知らないぃ」

 首を傾げる勇者の子孫達に、苛立ったように魔物が咆哮する。

「きゃあ!」

 禍々しい気が満ちる。

 勇者の子孫達は、漸く気づいた。

「まさか、これが魔王なのか?」

「魔王じゃないかい? ……たぶん」

「魔王と言っていいと思う」

「おそらく魔王だな」

「魔王っぽいぃ」

 魔物は足を踏み鳴らして再び吠えた。

「我に瀕死の重症を負わせたナパーンは何処だ! お前達、微かだがナパーンと同じ臭いがする。ナパーンの関係者か? 関係者だな!」

 勇者の子孫達が首を横に振る。

「いや、ナパーン知らないし」

「我が回復に時間がかかったからか? まだ決着はついていない! ナパーンよ、そしてこのような場所に我を閉じ込めた憎き同胞よ! 天才だ、人類の進化だと喜んでいたのに、何故急に我の研究を否定した。強くなることを否定した。強さとは魅力、我はこんなに魅力的になったのにどうして――、散々利用しておいて貢がせておいて……! そして生意気なナパーンよ、今一度我と戦え! 何が世界一のモテ男だ! ふざけるな!」

 激昂する魔物。

 ミイナは眉を寄せて小さく唸った。

「なんかよく分かんないんだけど、魔王でいいんだよね?」

 ボスが頷く。

「魔王だろう。それよりガインが既に飛び出している」

「魔王で決定ぃ」

 ガインは短剣を握りしめ、正面から魔物――、いや、魔王に向かっていく。ガインに背負われたままのレイの体が、がくがくと揺れていた。

「我は世界を変える。そして我は新しい世界を支配するべき――」

 ミイナが杖を掲げる。

「まだ何か言ってる……」

 ボスが両手銃を構え、シータが体を揺らして軽く伸びをする。レイも震える手で杖を掲げた。

「行くぞ。攻撃開始だ」

「はーい」

 ボスの合図と共に、勇者の子孫達は魔王に一斉攻撃を仕掛けた。

「モウカセンプウ」

「カンチ!」

「メッタ刺し!」

「カンチ!」

「大回転からのぉ、引き千切りぃ」

「カンチ!」

「くらえ、連続射撃!」

「カンチ!」

 いきなり攻撃してきた勇者の子孫達に、魔王が驚愕する。

「うおお! 不意討ちとは卑怯な! お前達は間違いなくナパーンの関係者だな!」

 魔王が苦しみの表情を浮かべて体を捩る。

「効いてるぞ!」

「ダイカマイタチ、ツララララララ!」

「メッタ刺し、メッタ刺し!」

「引き千切りまくりぃ」

「カンチ、カンチダ、カンチシロ!」

 魔王は両手を振り回して、己の持てる力を解放する。

「おのれ、ナパーンの関係者共よ。我の恐ろしさを思い知れ!」

 禍々しい気が勇者の子孫達に襲い掛かる。

「きゃああ!」

 骨が軋むほどの衝撃を受け、勇者の子孫達は顔を歪める。しかし、ここで怯むわけにはいかない。こんなところで死にたくなどない。

 レイが叫ぶ。

「氷結化獣!」

 レイの体が巨大な獣へと変化する。

「カンチシロ!」

 獣に変化したレイは、大きく息を吸い込むと、

「うげっ……!」

 吐血した。

「見ろ! レイが吐血攻撃をしている!」

「魔王がひるんでる!」

 予想外の攻撃に、魔王が一瞬怯んだ。目の中に入った血液を、もがきながら必死で取り除こうとしている。そこに隙が生じた。

「今だ!」

 勇者の子孫達は弾丸を叩き込み、あらんかぎりの力で刺し、魔王の毛を毟り取り、体当たりする。

「カンチシロ、カンチシロ、カンチシロ!」

 狂ったように回復魔法を唱えるミイナ。

 瀕死になるまで血を吐くレイ。

 そして――。

「うおおおおおー!」

 魔王の絶叫が響く。

「こんなところで、またか。我は世界を支配する存在なのだ。世界中の――、うぐあああああー!」

 大きな音を立てて、魔王が前のめりに倒れた。

「……た、倒したの?」

「倒したのか?」

 ミイナとボスの声が重なる。

 レイが元の姿に戻り、荒い息を繰り返す。

 ミイナとボスは、ゆっくりと魔王に近づいた。と、その瞬間、

「きゃあ!」

 突然襲ってきた魔力の塊。咄嗟に手で顔を庇うと、腕輪から盾が現れてその塊を弾いた。

「な……、何今の?」

 魔力が凝縮した塊、それは魔王の手から放たれていた。

 呆然とするミイナの腕を引っ張って後ろに下がりながら、ボスが叫ぶ。

「まだだ、まだ生きているぞ!」

 勇者の子孫達は、気力を振り絞って総攻撃を仕掛けた。

「モウカ! カエンチュウ!」

「熱々フライパンアタックぅ!」

「連続射撃!」

「メッタ刺し!」

「解体ショーぅ!」

 繰り返し繰り返し、魔王を攻撃する。魔王も力を振り絞り反撃をしていたが、やがて、

「…………」

「…………」

「今度こそ、……終わった?」

 魔王は動かなくなった。

「終わった、の? ねえ、レイ、魔王生きてる?」

 レイが震える手で、魔王の呼吸と目と脈を確かめる。

「……終わったようだね」

 吐息と共にレイが言う。

「…………!」

 倒したのか、魔王を。

「……なんか、意外とあっさり倒せたね」

「……そうだな」

「…………」

「…………」

 帰るか、とボスが呟く。

 もうここには用はない。魔王は倒した。後は、

「帰るって……。緊急脱出口……、何処?」

 どこかにあるらしい出口を探さなくてはならない。

「城のどこかにあるのだろう?」

「どこかって……」

 広い城内を探さなくてはいけないのか。

 果たして、出口は見つかるのだろうか。勇者の子孫達がそっと溜息を吐いた、その時――。

 ゴゴゴ、という音が聞こえた。

「ん?」

「なんだ、この音は?」

 訝しげに周囲を見回していると、

「…………!」

 城が激しく揺れ始めた。

「城が崩れているんだ!」

 いち早く、レイが音と揺れの正体に気づき叫ぶ。ボスが舌打ちをした。

「破壊しすぎたか」

「に、逃げなきゃ! ぎゃあ!」

「ミイナ!」

 バランスを崩したミイナが、顔面から派手に転ぶ。

「ミイナ、大丈夫かい?」

「小娘、立てるか?」

 痛みに呻きながら、差し出されたボスの手を掴もうとするミイナ。と、そこでふと床を見て違和感を覚える。

「…………」

「どうした、小娘。早くしろ。とりあえず城の外に出るぞ」

 動きを止めたミイナをボスが急かすが、ミイナは床を見つめたまま動かない。

「小……」

「――ねえ」

 ボスの言葉を遮り、ミイナは床に指で触れた。

「ここ、この床。ここだけ微妙に色が違う。少し隙間があるし……」

「隙間?」

 勇者の子孫達はミイナの手元を覗き込む。確かに、よく見ると色が微妙に違うような気もするし、細い物なら差し込めそうな隙間もある。

「これを差し込んでみるか……?」

 言いながらガインが長剣を鞘から抜いて、剣先を隙間に差し込む。

「…………?」

 変化はない。特に何がある、というわけでもないのかと思いながら、ガインが剣を動かしてみる。すると、

「あ、取れた……?」

 床の、色が微妙に違った部分が剥がれるように取れた。

「これ……」

 床の下には、淡い色合いの板のようなものがあり、そこに古代文字で何かが書かれていた。

 レイがそれを解読し、目を見開く。

「『脱出口』って書いてある……」

「へ? これが?」

 この板のどこが脱出口なのか、とミイナが首を傾げて板に触れると、

「わ……!」

 板がふいに消えた。

 消えた板の先には、真っ暗な空間だけが見える。脱出口と書いてあったが、果たしてそれは本当なのか。本当だとして、何処に繋がっているのか。

 しかし、勇者の子孫達に迷っている時間はなかった。

「揺れが激しい、飛び込め!」

 ボスがミイナの手首を掴んで闇の中に飛び込む。その後を、レイを抱えたガイン、シータが続いた。


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