5 釈放
レイとガイン、看守と王もミイナの発言に固まる。
ミイナは目を眇めて短剣を見つめた。
「微かにまがまがしい魔力を感じるから、呪われてる……と思うよ。レイは分からない?」
「…………」
レイが柵越しに、短剣に顔を近づける。
「変な気は感じていたから、もしかして何らかの魔法がかかっているのかと思っていたんだけど……、そこまでは分からなかったよ。ミイナ、解呪魔法は?」
ミイナは口を尖らせた。
「そんなこと出来ないよ。呪われた武器なんて見るのも初めてだし、解呪魔法が使える神官も、私の知るかぎりではいないよ」
レイが眉を寄せ、顎に手を当てた。
「短剣を抜くと暴れる、のか? では短剣を抜かなければ普通に生活出来るのでは?」
「うーん、こればっかりは分からないけど、そんな簡単にいくかな?」
「解呪魔法以外に、何か方法は無いかい?」
「短剣が折れたら呪いも解けると思うけど……そうそう簡単には折れないと思う」
「…………」
レイが無言で短剣を見つめ、ガインが呟く。
「俺は……呪われているのか?」
ミイナは頬に右手を当てて頷いた。
「うん、たぶんね。呪われた装備品で現存するものって聞いたことがないから、ある意味貴重なお宝なんだけど……。困ったな、魔王退治を手伝ってもらおうと思ってたのに、呪われてるんじゃね」
溜息を吐くミイナ。
ガインがショックを隠しきれない様子で目を閉じ、王がよろめき膝をついた。
「ちょっと王様、さっきからちょこちょこ鬱陶しいんですが」
ミイナが王にツッコミを入れ、看守が王の体を支えた時――。
「ガイン、一緒に行こう」
レイの発した言葉に、ミイナたちは驚いた。
「え? ちょ、レイ。呪われてるんだよ?」
レイは振り向き微笑む。
「世界は広い。もしかすると、旅先で解呪が出来る人が見つかるかもしれない」
「でも……」
渋るミイナの頭をレイは撫でた。
「勇者の子孫同士、困った時は助け合おう。それにガインは強いから、うまく呪いが解けたら強力な戦力になるよ」
「…………」
ミイナはガインを見上げた。確かに鍛え上げられた体は、通常ならば強力な戦力になるのだろう。しかし……。
ひたすら見つめていると、ガインが戸惑い視線を彷徨わせた。そして――。
「ミイナ殿! 余からも頼む。どうかガインを連れて行ってやってくれ!」
「王様うるさいです。いきなり大声出さないでください」
ミイナが王の方を振り向いて眉を寄せる。王は看守を支えにして立ち上がり、ミイナに訴えた。
「このままではガインは一生を牢屋で暮らす羽目になる。同じ勇者の子孫として、不憫には思わないか?」
「勇者の子孫ってだけで『魔王退治に行って来い』と国を追い出された私も、相当可哀想だと思いません?」
「可哀想な者同士、身を寄せ合って頑張るがよい!」
「……王様ってやつは、どうしてこんなに身勝手なんだろう」
育てられ方が悪かったのかな、と毒づきながら、ミイナはガインに視線を戻して息を吐いた。
「……うん、でもそうだね。とりあえず一緒に行こうか。解呪出来る人を探そう」
ミイナが笑顔で言う。しかしガインは沈んだ表情で首を横に振った。
「いや、駄目だ。それは迷惑がかかる」
「まあ、どうなるか分かんないけどいいよ。『魔王退治』ってのがそもそも無茶苦茶なんだもん。それ考えたら呪いくらい大丈夫な気がしてきた」
「…………」
レイがガインに微笑む。
「ガイン、行こう」
「……本当にいいのか?」
レイは頷き、ミイナが看守に指示を出す。
「看守さん、牢屋の鍵開けて」
牢屋の扉が開けられ、ガインは出てきた。レイが励ますようにガインの肩を叩く。
王がガインの前まで行き、重々しく言った。
「呪われていたとはいえ、暴れた事実は変わらない。国をあげて大々的に送り出すわけにはいかないが、せめてこれを持っていくがよい」
王は自分の腰に佩いていた剣をガインに差し出した。ガインが驚く。
「王様、これは王家に伝わる剣ではございませんか! いけません」
「よい。呪いが解けたら、必ず返しに来るのだぞ」
「王様……」
ガインの目に涙が浮かび、レイと看守も目頭を押さえた。
涙の別れ――だがそこでミイナが王の服を引っ張った。
「王様、私も何か欲しいな」
王が振り向く。
「うむ、そうか。だが……すまんがこの国はそれほど豊かではない」
「ええー」
不満顔のミイナをレイが小声で諌める。
「ミイナ」
「はーい。もう、仕方ないなあ」
ミイナが頬を膨らませ、レイが苦笑した。
「さあ、行こう」
「うん」
「ああ」
ミイナが歩き出し、他の者も後に続く。
伝説の勇者の子孫、呪われた戦士ガインが仲間になった。