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52  捧げる

 勇者の子孫達は、救出した王を連れてセインの城へと戻った。

「ねえ、どうしよう。やっぱり『お兄ちゃん』とか呼んだ方がいいのかな?」

 ミイナが困惑の表情でガインを見上げて訊く。

「さあ……」

 ガインが眉を寄せて首を振る。

 はっきりしない返事に舌打ちしたミイナは、シータとボスに視線を移した。

「うーん、どうかなぁ」

「知らん」

 頼りない答えしか返って来ないことに、ミイナが苛立つ。

「もっと真剣に考えてよ!」

 杖を振り回すミイナを鬱陶しげに見つめ、ボスが鼻を鳴らした。

「今更兄と呼ばれても、レイも困るのではないか?」

 ボスの意見に、シータも頷く。

「そうだねぇ。散歩に行ったきり戻って来ないしぃ……」

 いろいろあったが、とりあえず王をセインに送り届けた勇者の子孫達は、王が数日ぶりの食事を終えるのを、城の一室で待っていた。

 王から余計な情報を与えられ、ぎこちない態度をとってしまうミイナとレイ。そんな状況にいたたまれなくなったのか、レイは散歩に行くと呟いて部屋を出て行ってしまった。

「あーあ、本当にあのくそじじぃ、何考えてんのよ」

 ミイナが頭を掻きむしる。昔からそうなのだ、セインの王は。悪気が無いのが、更にたちが悪い。

 王の話を聞いた時のレイの態度から考えると、レイは以前から二人が兄妹だということを知っていたようだ。

「……本当に、何してくれたのよ」

 ミイナが呟く。それは王に対してなのか、それとも幼い頃に亡くなった、記憶の中に残る母に対してなのか……。

 王は全てを話したわけではない。だが、何があったかはだいたい分かった。レイは、全てを知っているのだろうか? どうして何も言わなかったのだろうか? どうして――。

 ミイナが自分の思考の中に深く入り込もうとした時、ノックの音がする。ミイナはびくりと肩を揺らした。

 ドアを開けて、レイが姿を見せる。

「ただいま。ボス、構成員さん達が荷物を運んできてくれたよ」

 いつもと同じ、穏やかな口調でレイが言う。レイの後から、大きな荷物を抱えたボスの組織の構成員達が部屋の中に入ってきた。

 構成員達は、少しよろめきながら部屋の真ん中に大きな荷物を置くと、ボスに告げた。

「装備品です」

 構成員の言葉に、ボスが口角を上げる。

「やっと出来たか。ご苦労」

 開けろ、という視線に頷いて、構成員達が荷を解く。すると中から、革鎧やローブ、杖などが出てきた。

「これ、おいらのぉ?」

「立派な鎧だな」

「この杖、貰っていいのかい?」

 シータとガイン、レイが荷物の中から自分達の装備品を見つけて手に取る。

「着替えたいよぅ」

「ああ、そうだな」

「ミイナ、少し外で待っていてくれるかい?」

 レイがミイナに向かって微笑んで言った。

「う、うん」

 ミイナが部屋の外に出る。中から聞こえる歓声をなんとなく聞きながら暫く待っていると、皆が出てきた。

「見てぇ。いい感じぃ?」

 新しい装備を身に付けたシータがミイナの前で両手を広げて見せる。

「うん。いい感じ」

 ミイナがそう言うと、シータは嬉しそうに笑った。

 と、ちょうどそこへ、王が食事を終えて祭壇へ向かったと女官が知らせに来る。勇者の子孫達も、祭壇へと向かうことにした。

 ガインとレイが新しい装備品のことを話しながら先を歩き、その後をシータ、そしてミイナと聖なる欠片が入った袋を手に持ったボスが歩く。

 レイの態度は、以前と変わらない感じに戻っていた。

「うーん……」

 レイの背を見つめてミイナが小さく唸ると、シータが振り向いて囁いた。

「お互い忘れよう、的なやつじゃないかなぁ」

 ボスが鼻を鳴らす。

「お前も忘れろ。これからの旅の支障になっては困るからな」

 シータとボスの顔を見上げ、それからレイの背をまた少し見つめてからミイナは頷く。

「……うん、そうだね。じゃあそうしようかな」

 それが、お互いの為なのかもしれない。そう思い込むことにして、ミイナはこの件に関して、これ以上何も言わないことにした。

 祭壇がある地下まで行くと、宰相を連れた王が既に待っていた。

「おお、ミイナ。何だか元気がないようじゃが、どうかしたか?」

 王が笑顔でミイナに問う。

 小さく舌打ちし、ミイナは答えた。

「いいえ。なにもないですよ」

 王が愉快そうに笑いながら、祭壇に通じる扉を開けた。

 後で絶対に殴ってやろうと、ミイナは杖を両手で握りしめる。

「ほれ、あれか?」

 王が指し示す場所に、ボスの背中に描かれているのと同じ祭壇が確かにあった。

 勇者の子孫達が頷く。

「同じだな」

「同じだねぇ」

 祭壇は見つかった。では、それと聖なる欠片の関係は何なのか。

「ボスの背中の絵は、この祭壇に頭蓋骨を捧げていた感じだったよね。……祭壇に置いてみる?」

 勇者の子孫達は視線を交わした。

「……欠片は一部が足りていないから、やめた方がいいかもしれない」

 レイの言葉に、ガインが小さく唸る。

「残りの欠片が何処にあるかも分からず他に手掛かりもないのだから、とりあえず置いてみてもいいのではないか?」

「何か分かるかもしれないしねぇ」

 顎に手を当てて考え、ボスが頷いた。

「そうだな。何か手がかりが得られる可能性もある。――俺が置こう」

 ボスは袋の中から聖なる欠片で作られた頭蓋骨を取り出し、ゆっくりと祭壇へ近づく。そして頭蓋骨を祭壇の上に置いた。

「…………」

「……何かあるの?」

 ボスが後ずさりをするように、ゆっくりと祭壇から離れる。

「……何もないのか?」

「何もないねぇ」

 特に、何も起こる気配はない。

 勇者の子孫達は落胆とも安堵ともとれる溜息を吐いた。

「なんだ、何も起こらないんだ」

「何か分かるかと思ったのだが」

「何もないのぉ?」

「やっぱり、欠片が足りていないからじゃないかい?」

 では、これからどうするか。もう手がかりはない。闇雲に探すには、世界は広すぎるし時間も無い。

 ミイナが両手を挙げて首を横に振った。

「もうやめちゃう?」

「馬鹿か小娘。それでは世界が滅びる」

「じゃあどうしろっていうのよ!」

 ミイナとボスが口論を始めた時、

「…………?」

「……え?」

 突然強い光が目の前に溢れ、勇者の子孫達が驚く。

「眩しいよぅ!」

 光はまるで生き物のように揺らぎ、求めるように一か所――頭蓋骨が置かれた祭壇へと集まる。

「何……?」

 光は一度塊となり、縦に伸びていく。

 目を眇めて光を見上げる勇者の子孫達。何かが起こっている。それは魔王を倒す手がかりか、それとも――。

「な、なんじゃこりゃー!」

 王の狼狽えた叫び声。その声に反応したかのように、光が震えた。

「ははひをよひはふといふほほは、まほうはふっはつひたのへすね」

 勇者の子孫達が驚愕する。

「え、光から何か聞こえる?」

「なんだ?」

「呪文のようにも聞こえるけど……」

「呪文ってぇ、なんの呪文?」

 光は謎の呪文を唱え続ける。

「じゅほんへははりあへん!」

 空気を切り裂くような叫び。光は消え、そして――。

「何か、どろっとした変なの出てきた!」

 ミイナも叫ぶ。光だったものは、赤黒いどろどろの液体のようなものに変化していた。

「動いてる! ねえ、あのどろどろ動いてこっちに来てるよ!」

 ミイナが悲鳴を上げてボスの腕を掴む。

「腐乱した魔物か?」

「気持ち悪いぃ」

 どろどろの液体は、勇者の子孫達の前で止まると、集まってミイナと同じくらいの大きさになった。

「倒すか?」

 銃を取り出そうとするボス。しかしそれをレイが止めた。

「待って。ガインの呪いが反応していないから魔物じゃない」

「じゃあ、あれは何よ!」

 説明して、と怒り始めるミイナ。レイはどろどろの液体をじっと見つめて言う。

「もしかして、欠片が足りなかったから不完全な状態になっているのかもしれない。ミイナ、回復魔法をかけてみてくれないかい?」

 レイの言葉に、ミイナが目を見開いた。

「回復魔法って……これに?」

 レイが頷く。ミイナは仲間の顔を見回し、それから覚悟を決めて杖を掲げた。やってみるしかなさそうだ。

「どうなってもしらないよ。――カンチ!」

 ミイナの回復魔法がどろどろに向かって唱えられる。すると一瞬だが、どろどろが固まったように見えた。

「今、翼のようなものが見えなかったか?」

「鳥型の魔物ぉ?」

「ミイナ、もう一度回復魔法を」

 ミイナが頷き、魔法を唱える。

「カンチダ!」

 また、どろどろが一瞬固まる。

「あ、いま手みたいなものが見えたぁ」

「カンチシロ!」

 ミイナが強力な回復魔法を唱えると、やっとどろどろは不安定ながらも固まって、一つの姿を現した。

「……人型の魔物か?」

 人間と同じように、頭と胴体と手足、それからどろどろしていて今一つよく分からないが顔のようなものがある。ただ一つ、人間と違うのはその背に翼が生えていることだろう。

「これ何? やっぱり魔物なんじゃないの?」

 ミイナが眉を寄せ、ボスとガインが身構える。しかしレイはどろどろをじっと見つめ、呟くように言った。

「まさかとは思うけど……、もしかしてこれが『聖なる存在』なんじゃないかい?」

「え? まさか」

 違うでしょ、とミイナは即座に否定したが、どろどろはレイの意見を肯定するように縦に頭を動かした。

 勇者の子孫達が顔を見合わせる。

「ええ? 本当にこれが『聖なる存在』? こんなにどろっとしているのに?」

「これがぁ?」

「信じられないが……」

「しかし頷いているように見えるぞ」

 どろどろが、もう一度縦に頭を動かす。

「そふてふ、ゆふしゃはちよ、わはひのせひのひなはい」

「え? 何? もっとちゃんと喋りなさいよ」

 それじゃあ分かんないでしょ、とミイナが言うと、どろどろが身体を激しく震わせた。

「今度はなんだ?」

 勇者の子孫達の目の前で、どろどろが大きくなる。

「……巨大化しはじめたが、大丈夫か?」

「あ、天井を突き破ったねぇ」

 大きな音を立てて崩れた天井、それが勇者の子孫達目がけて降ってくる。

「――逃げろ!」

 ボスが叫び、ミイナの腕を掴んで走り出す。ガインがレイを抱えて走り、その横をシータが転がっていく。腰の抜けた王を、宰相が必死に引っ張っている。

 勇者の子孫達は、地下から逃げ出した。


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