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48  地下と王

「ここがセインか」

 ボスが周囲を見回しながら言う。

「うん。カンチ!」

 ミイナは頷き、移動魔法の使用で吐血したレイに回復魔法を掛けた。

「綺麗な国だねぇ。白い建物がいっぱいだぁ」

「白は神聖な色――、セインの色だからね」

 綺麗、と褒められて、ミイナは自慢げに胸を反らした。

「ミイナの防具も真っ白に戻ったな」

「うん!」

 染み抜きを頼んでいたミイナの防具は、職人の手により元通り真っ白な状態になって、ミイナの元に戻ってきた。

「じゃあ、とりあえず王様のところへ行く?」

 そう言いながら歩き出そうとするミイナに、

「ミイナ!?」

 ちょうど目の前にある建物から出てきた少女が気づいた。少女がミイナの元に駆けよって来る。

「あ、ただいま」

 呑気に挨拶をするミイナに、少女はいきなり捲し立てた。

「こんなところで何やってるの! 魔王退治は? 倒したわけじゃないでしょう? まさかやめて帰ってきちゃったとか?」

 違う違う、とミイナが笑って手を振る。

「まだ旅の途中だよ。それよりほら見て、私の下僕達!」

 ミイナが一緒に旅をしている仲間を紹介する。下僕、という言葉を聞いた少女が、尊敬のまなざしをミイナに向ける。

「凄い、ミイナ」

「まあ、私が本気を出したらこんなものよ」

 まだこの他にも二十人程下僕は居る、とミイナが自慢する。

「誰が下僕だ、小娘」

「じゃあまたね。お城に行かなきゃいけないから」

 文句を言ったボスを杖で突き、ミイナは少女に別れを告げる。

「またね、ミイナ。頑張ってね!」

 少女は手を振ってミイナ達を見送った。そして、

「お、ミイナ帰ってきたのか。魔王は?」

「退治中」

「早くしてくれよ」

 ミイナに気づいた人々が、次々に声を掛けてくる。ミイナは皆に手を振りながら、『下僕』達を従えて、城に到着した。

「王様は?」

 話しかけられた門番が目を見開く。

「ミイナ、魔王は?」

「退治中だって。それより王様は何処に居るの?」

「お部屋でお休みです」

「寝てるの?」

「心労で寝込んでおられるらしいです」

 門番の言葉にミイナが眉を寄せる。

「えー? 心労って、また仮病じゃないの?」

「いえ、今回は本当らしいですよ。数日姿を見ていません」

「そうなの?」

 あの王が心労で寝込むことなどあるのか。首を傾げながら、

「じゃあ、部屋に行ってみようか」

 ミイナはずかずかと城の中へと入っていく。そして王の部屋の前まで来ると、扉番をしている神官が、ミイナの姿を見て不自然なまでに驚いた。

「ミ、ミイナ?」

「王様に会える?」

「無理! 無理だ!」

 神官が激しく首を振る。その神官の態度にミイナが眉を寄せる。

「王様、本当に病気なの? かなり悪い感じ?」

「え、それは……。――あ、姫様!」

 神官がミイナの背後に視線を移して叫ぶように言う。姫、と聞いてミイナが振り向く。長い金の髪を背中に垂らし、白いドレスを身に纏ったこの国の姫がそこには居た。

「あ、姫様。お久し振りです」

 笑顔で挨拶をするミイナに、とてもあの王の娘とは思えない若く美しい姫は手招きをした。

「こちらへ」

 一言だけ言って、姫は踵を返して歩き出す。

「え?」

 あきらかにおかしな姫の態度に、ミイナ達は顔を見合わせた。

 王の具合が相当悪いのか、それとも別の事情でもあるのか……。

 ミイナが姫の後を追い、その後を他の勇者の子孫達が続く。姫は王の部屋から少し離れた場所にある自室に、勇者の子孫達を招き入れた。

「姫様、王様の具合はかなり悪いんですか?」

 勧められたわけでもないのに勝手に椅子に座りながら、ミイナが訊く。

「ミイナ、ちょうどいいところに帰ってきてくれました」

「え?」

 姫が縋るような目でミイナを見つめる。

「実は、父様はいません」

「いない?」

「魔物に連れ去られてしまったのです」

「……え?」

 予想だにしなかった言葉を聞き、ミイナがポカンと口を開けて思わず仲間の顔を見る。レイもガインもシータもボスも、驚いた表情をしている。

「連れ去られたって……、どういうこと?」

 姫は溜息を吐き、事件の起こった状況を思い出そうとするかのように額に手を当てて話し始めた。

「ゴリラカニ、という魔物を知っていますか? それが数日前の夜、突如王の部屋に現れて父様を攫い……」

「ゴリラカニ?」

 勇者の子孫達が顔を見合わせる。

「え? こないだ遺跡の近くで見たのってゴリラカニじゃなかったっけ?」

 ミイナの言葉に、今度は姫が目を見開いた。

「知っているのですか?」

「い、いえ。たまたまこないだ見たってだけで……」

「お願いですミイナ、父様を助けてください!」

「いやそう言われても……」

 まさか王が魔物に連れ攫われているとは思わなかった。ミイナは「困ったな」と呟いて頭を掻き、それからふと城に来た目的を思い出した。

「そうだ姫様、地下にある祭壇の部屋に入りたいんですけど」

 急に話が変わり、姫が首を傾げる。

「地下? 祭壇?」

「知らないんですか?」

「それは父様を助けることと関係があるのですか?」

「まあ、あるような無いような……」

 言葉を濁すミイナ。それをどう捉えたのか、姫は頷いて侍女を呼ぶと、宰相を連れて来るように命じた。

 侍女が小走りで立ち去り、すぐに宰相は姫の部屋にやって来た。

「ミイナ、帰って来ていたのですか」

「宰相様、地下の部屋にある祭壇を見たいんだけど」

 王と共に歩んできた年老いた宰相に、ミイナが単刀直入に言う。宰相が首を傾げた。

「地下? 聖なる祭壇のことですか? あそこの部屋の鍵は王様が持っておられます」

「鍵? 王様が?」

「不思議な力で守られているので、王様が持っている鍵でしか開きません」

「ええ!?」

 祭壇の鍵は王しか持っていないのか。ミイナが思わず宰相に詰め寄る。

「予備は? 予備の鍵は無いの?」

「残念ながらありません」

「そんな!」

 ミイナは振り向いて後ろに立っている仲間達を見上げた。

「どうしよう?」

 ここまで来たのに祭壇の部屋には入れないのか。何故今、よりによってこのタイミングで王は攫われてしまったのか。

 困り果てるミイナを押し退けて、ボスが宰相に言う。

「一度、その地下の部屋に案内してくれ」

「行っても入れませんが」

「いいから案内してくれ」

 分かりました、と宰相が頷く。

「付いてきてください」

 宰相の案内で、勇者の子孫達と姫は地下の祭壇がある部屋のドア前までやって来た。

「こちらです」

 宰相がドアを手で示す。

 ボスは頷くと、ドアノブを握って本当に開かないことを確かめてから、懐から銃を取り出して構えた。

「な、なにを、やめてくだ――!」

 宰相の制止の声と銃声が地下に同時に響く。タマは狙い通りにドアの鍵の部分に飛んで行くが、

「ぎゃあ!」

 不思議な力に弾かれてしまった。

 すぐ横をタマが通過し、ミイナが悲鳴を上げる。

「危ないじゃない!」

 ミイナの文句を無視し、ボスはレイに視線を移した。

 レイは、ショックのあまり倒れそうな宰相と驚く姫を一瞬見て、少し迷いながら杖を掲げた。

「……いいのかな? モウカ!」

 大きな炎がドアを包み、しかしすぐに消える。

「いきなり炎とかやめてよ。カンチ!」

 ボスがシータに視線を向ける。

「今度は、おいらぁ?」

 仕方がないなぁ、と言いつつ、シータが大回転でドアに向かって突っ込んでいく。しかしこれも予想通り、簡単に弾かれてしまった。

「うわあぁ! 痛いぃ!」

 打ち付けた肩を押さえるシータに、ミイナが回復魔法を掛ける。

 ボスが顰め面でドアを見つめて呟いた。

「無理か……」

 ガインが小さく唸ってボスに言う。

「これは、セインの王を助けて鍵を入手するしかないのではないか?」

 ミイナが口を尖らしてボスを杖で突く。

「でもさ、どうやって王様を見つけるの? 魔物にどっかに連れ去られちゃったのに」

「やめろ小娘。――とりあえずゴリラカニを見かけたところにもう一度行くぞ」

 ボスがさっさと歩き出す。

「あ、待ってよ」

 ボスを追いかけようとするミイナに、姫が慌てて声を掛ける。

「ミイナ、父様を助けに行ってくれるのですか?」

「ドアは開きそうにないし、他に手掛かりがないので、仕方がないから王様を捜してみます」

 ミイナの答えに姫がほっと息を吐く。

「ああ、ありがとう。父様は少々わがままで口が軽く鬱陶しいところもありますが、それでも私の父であり国王なのです」

「うん。分かっています」

 ミイナは姫に笑顔を向け、ボスを追いかける。その後ろをガインとレイ、シータが続いた。

「お願いします、ミイナ!」

「ちゃんと連れて帰ってくるから――たぶん!」

 勇者の子孫達は、セインの王捜しに出発した。



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