43 巻き込まれは必須
「何処ー! 遺跡何処ー!」
砂嵐を前に、ミイナが叫ぶ。
暴風遺跡があるらしい場所までやって来た勇者の子孫達だが、目の前には全てを拒むような砂嵐があるのみだった。
「それらしいものが全然見えないんだけど?」
ミイナが振り向いてレイに訊く。レイは小さく唸り、攻略日記を広げて皆に見せた。
「ここなんだけど……」
皆が攻略日記を覗き込み、レイが解読した内容を伝える。
「『砂と共に巻き込まれ必須』と書いてあるけど、どういう意味なのか……」
「え? 巻き込まれ必須?」
ミイナが首を傾げ、ガインが眉を寄せて顎に手を当てる。
「嫌な予感しかしないな」
「予感がするぅ」
ボスが舌打ちをして、荷物の中からフード付きのマントを取り出してそれを着る。
「どう考えても、ここに入って行かなきゃならないんだろう? 行くぞ」
もたもたするな、と言われてガインがレイを背負い、ミイナとシータも文句を言いつつマントを着て準備を整えた。
「こんなとこ、行くの嫌よ」
「嫌だよぅ」
「うるさい。行くぞ」
歩き出そうとしたボスの袖をミイナが引く。
「ヒヒタロウ達は?」
ボスは一瞬馬を見て、鼻を鳴らした。
「先に進むことを頑なに拒否している。連れては行けそうにないからここに残すしかないな」
「えー……。ヒヒタロウ、一緒に行こう?」
ヒヒタロウに手を伸ばすミイナ。しかしヒヒタロウは「ヒン!」と一声鳴いてそっぽ向く。
「そんな……。馬車無しで進んで行かなきゃならないの? ヒヒタロウ達もちょっとくらい頑張ろうって気にはならないの? だいたい――」
「行くぞ、小娘」
ミイナの言葉を遮って、ボスがフードをかぶって歩きだす。
「あ、ちょっと待ってよ」
その後をミイナ、そしてシータとレイを背負ったガインが続いた。
激しい砂嵐が勇者の子孫達を襲う。勇者の子孫達は、顔を下に向けて更に手で目を庇う。
「やだ、無理。引き返そ――え?」
不意に砂嵐が少しだけ和らぎ、ミイナは顔を上げた。すると、ボスの組織の構成員達が、勇者の子孫達をぐるりと囲んでいた。
「お前達……」
目を見開くボスに、構成員達は『任せろ』と言うように頷いて見せた。
「ボス、我々が壁になります」
ミイナが感心した表情でボスを見上げた。
「ボスの仲間達って偉いねー――うげ、ペッペッ砂が口に……!」
「黙って遺跡を探せ、小娘」
ミイナが顔を顰めて口を閉じる。
それから勇者の子孫達と構成員達は、ひたすら歩き続けた。しかし遺跡は一向に見付からない。
砂嵐の中遺跡を探して彷徨い、ついに勇者の子孫達は立ち止まった。ボスが周囲を見回す。
「何処だ? 何処にある?」
目の前には砂嵐のみ。ミイナが小さな声で訴えた。
「もう無理……。ずっと砂嵐しか見えないじゃない。本当にここに遺跡はあるの?」
ガインが額の汗を拭う。
「砂に足を取られるな……。レイ、大丈夫か?」
レイを背負っているガインは、皆より疲労している。そしてレイはもう返事をする力が無いようで、青い顔で小さく頷いた。
「ボスぅ、休憩ぃ……」
若干甘え声で言うシータを、ボスが睨んだ。
「こんなところでか?」
「……無理だねぇ」
長時間立ち止まっていれば、それこそ身動きが出来なくなってしまう。
探すしかない、と勇者の子孫達は気力を振り絞って足を前に出した。と、そこで、
「ん?」
「なんだ……?」
ボスとガインが同時に右方向に視線を向ける。二人つられるように、ミイナとシータも右方向に視線を向けた。激しい渦が砂を上空高くに巻き上げながら、驚くほどの勢いでこちらに向かってきている。
もしかして、とミイナが首を傾げる。
「……竜巻?」
「竜巻だねぇ」
「こっちに向かってきている?」
「来ているねぇ」
「…………」
ボスが叫ぶ。
「逃げろ!」
それを合図に、勇者の子孫達と構成員達は一斉に竜巻に背を向けて走り出した。
「きゃああ! あれは駄目だって!」
命の危険を感じてミイナが悲鳴を上げる。
「走れ、走れ!」
気持ちは焦るが、足が砂に取られてしまってまともに走ることが出来ない。
竜巻が勇者の子孫達のすぐ背後まで迫る。そして、
「うわぁ!」
一番後ろを走っていたシータが、竜巻に巻き込まれて悲鳴を上げながら飛んでいった。
「嘘! シータ?」
勇者の子孫達が走りながら振り向く。
空に舞い上がる巨体を、信じられないといった面持ちで見つめるミイナ。助けたくてもどうすることも出来ず、シータはそのまま竜巻の中に消えた。
「ど、どうしよう。シータが――」
ミイナがボスに向かって言ったその時、
「ああ!」
構成員達が悲鳴を上げた。
「え、何?」
今度は構成員達が、足元の砂の中に次々と消えていく。
何が起こっているのか分からず戸惑うミイナに、ボスが叫ぶ。
「流砂か!? 小娘、掴まれ!」
ボスがミイナに手を伸ばしたのと、ミイナの身体が沈んだのは同時だった。
「きゃあああ!」
ミイナがボスに向かって手を伸ばす。しかし二人の手は繋がらない。
「小娘!」
ミイナが飲み込まれていく。そこに、
「魔物だ!」
砂の中から巨大な魔物が現れ、ガインが叫ぶ。
「リクイカだ……」
レイが魔物の名を呟いた。
陸に生息する巨大なイカが触手を伸ばし、ガインとレイ、そしてボスを一気に投げ飛ばす。
「あああ!」
「うわああ!」
勇者の子孫達はバラバラになった。