表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/62

43  巻き込まれは必須

「何処ー! 遺跡何処ー!」

 砂嵐を前に、ミイナが叫ぶ。

 暴風遺跡があるらしい場所までやって来た勇者の子孫達だが、目の前には全てを拒むような砂嵐があるのみだった。

「それらしいものが全然見えないんだけど?」

 ミイナが振り向いてレイに訊く。レイは小さく唸り、攻略日記を広げて皆に見せた。

「ここなんだけど……」

 皆が攻略日記を覗き込み、レイが解読した内容を伝える。

「『砂と共に巻き込まれ必須』と書いてあるけど、どういう意味なのか……」

「え? 巻き込まれ必須?」

 ミイナが首を傾げ、ガインが眉を寄せて顎に手を当てる。

「嫌な予感しかしないな」

「予感がするぅ」

 ボスが舌打ちをして、荷物の中からフード付きのマントを取り出してそれを着る。

「どう考えても、ここに入って行かなきゃならないんだろう? 行くぞ」

 もたもたするな、と言われてガインがレイを背負い、ミイナとシータも文句を言いつつマントを着て準備を整えた。

「こんなとこ、行くの嫌よ」

「嫌だよぅ」

「うるさい。行くぞ」

 歩き出そうとしたボスの袖をミイナが引く。

「ヒヒタロウ達は?」

 ボスは一瞬馬を見て、鼻を鳴らした。

「先に進むことを頑なに拒否している。連れては行けそうにないからここに残すしかないな」

「えー……。ヒヒタロウ、一緒に行こう?」

 ヒヒタロウに手を伸ばすミイナ。しかしヒヒタロウは「ヒン!」と一声鳴いてそっぽ向く。

「そんな……。馬車無しで進んで行かなきゃならないの? ヒヒタロウ達もちょっとくらい頑張ろうって気にはならないの? だいたい――」

「行くぞ、小娘」

 ミイナの言葉を遮って、ボスがフードをかぶって歩きだす。

「あ、ちょっと待ってよ」

 その後をミイナ、そしてシータとレイを背負ったガインが続いた。

 激しい砂嵐が勇者の子孫達を襲う。勇者の子孫達は、顔を下に向けて更に手で目を庇う。

「やだ、無理。引き返そ――え?」

 不意に砂嵐が少しだけ和らぎ、ミイナは顔を上げた。すると、ボスの組織の構成員達が、勇者の子孫達をぐるりと囲んでいた。

「お前達……」

 目を見開くボスに、構成員達は『任せろ』と言うように頷いて見せた。

「ボス、我々が壁になります」

 ミイナが感心した表情でボスを見上げた。

「ボスの仲間達って偉いねー――うげ、ペッペッ砂が口に……!」

「黙って遺跡を探せ、小娘」

 ミイナが顔を顰めて口を閉じる。

 それから勇者の子孫達と構成員達は、ひたすら歩き続けた。しかし遺跡は一向に見付からない。

 砂嵐の中遺跡を探して彷徨い、ついに勇者の子孫達は立ち止まった。ボスが周囲を見回す。

「何処だ? 何処にある?」

 目の前には砂嵐のみ。ミイナが小さな声で訴えた。

「もう無理……。ずっと砂嵐しか見えないじゃない。本当にここに遺跡はあるの?」

 ガインが額の汗を拭う。

「砂に足を取られるな……。レイ、大丈夫か?」

 レイを背負っているガインは、皆より疲労している。そしてレイはもう返事をする力が無いようで、青い顔で小さく頷いた。

「ボスぅ、休憩ぃ……」

 若干甘え声で言うシータを、ボスが睨んだ。

「こんなところでか?」

「……無理だねぇ」

 長時間立ち止まっていれば、それこそ身動きが出来なくなってしまう。

 探すしかない、と勇者の子孫達は気力を振り絞って足を前に出した。と、そこで、

「ん?」

「なんだ……?」

 ボスとガインが同時に右方向に視線を向ける。二人つられるように、ミイナとシータも右方向に視線を向けた。激しい渦が砂を上空高くに巻き上げながら、驚くほどの勢いでこちらに向かってきている。

 もしかして、とミイナが首を傾げる。

「……竜巻?」

「竜巻だねぇ」

「こっちに向かってきている?」

「来ているねぇ」

「…………」

 ボスが叫ぶ。

「逃げろ!」

 それを合図に、勇者の子孫達と構成員達は一斉に竜巻に背を向けて走り出した。

「きゃああ! あれは駄目だって!」

 命の危険を感じてミイナが悲鳴を上げる。

「走れ、走れ!」

 気持ちは焦るが、足が砂に取られてしまってまともに走ることが出来ない。

 竜巻が勇者の子孫達のすぐ背後まで迫る。そして、

「うわぁ!」

 一番後ろを走っていたシータが、竜巻に巻き込まれて悲鳴を上げながら飛んでいった。

「嘘! シータ?」

 勇者の子孫達が走りながら振り向く。

 空に舞い上がる巨体を、信じられないといった面持ちで見つめるミイナ。助けたくてもどうすることも出来ず、シータはそのまま竜巻の中に消えた。

「ど、どうしよう。シータが――」

 ミイナがボスに向かって言ったその時、

「ああ!」

 構成員達が悲鳴を上げた。

「え、何?」

 今度は構成員達が、足元の砂の中に次々と消えていく。

 何が起こっているのか分からず戸惑うミイナに、ボスが叫ぶ。

「流砂か!? 小娘、掴まれ!」

 ボスがミイナに手を伸ばしたのと、ミイナの身体が沈んだのは同時だった。

「きゃあああ!」

 ミイナがボスに向かって手を伸ばす。しかし二人の手は繋がらない。

「小娘!」

 ミイナが飲み込まれていく。そこに、

「魔物だ!」

 砂の中から巨大な魔物が現れ、ガインが叫ぶ。

「リクイカだ……」

 レイが魔物の名を呟いた。

 陸に生息する巨大なイカが触手を伸ばし、ガインとレイ、そしてボスを一気に投げ飛ばす。

「あああ!」

「うわああ!」

 勇者の子孫達はバラバラになった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ