27 罠
勇者の子孫達は、戸惑いつつも荒らされた部屋の中を確認した。
「これ、穴が開いて濡れている。『ライウ』を放ったのかも」
ミイナがベッドのシーツを指さして眉を寄せる。ガインが唸った。
「ということは、ベッドの血は、刺された出血ではなくレイの吐血か?」
襲われて呪文を使ったはいいが、吐血して結局倒されたというところか。
「ねえ、レイは無事なの?」
見上げてくるミイナにガインが首を振る。
「分からない。荷物が荒らされているが、無くなったものはないか?」
勇者の子孫達は、それぞれの荷物とレイの荷物を点検した。
「大丈夫ぅ」
「うん、こっちも」
何も無くなってはいない。物取りの犯行ではないらしいが、では何が目的なのか?
「捜そう。呪文を使ったのだから、宿屋の人が何か見聞きしている可能性が高い」
ライウを放ったのなら、それなりに音が響いているに違いない。
勇者の子孫達は頷き、部屋から出て――と、そこにちょうど、宿屋の受付嬢が現れた。
「あ、お客様。手紙をお預かりしております」
「手紙?」
勇者の子孫達は顔を見合わせ、受付嬢が差し出した紙を受け取って広げた。そして目を見開く。
「これは……!」
手紙には、『仲間を帰して欲しければ西の空き地に来い』、とだけ書いてあった。当然ながら、差出人の名前は無い。
「罠……よね」
「罠だな」
「絶対罠ぁ」
どう考えても罠に違いない。しかし、レイを人質に取られている以上、行かなくてはならない。
「そうだ! ソビの兵に事情を話して助けてもらうってどう?」
そう提案するミイナに、ガインは首を横に振る。
「いや、通報するのは危険だろう」
相手が誰なのか、そして目的がなんなのか分からない状態で、下手なことをすればレイが危ない。
ミイナが地団太を踏む。
「もう、誰よ! 世界の為に戦っている品行方正で努力家な私達にこんなことをするのは!」
「恨まれるような覚えはないよぅ」
文句を言いながらもレイが心配なので、勇者の子孫達は西へと向かった。
「空き地って何処? 呼び出すなら地図くらい描いてくれなきゃ困るじゃない」
「宿屋の受付に訊いたらねぇ、ここを真っ直ぐ行ったところにあるって言ってたよぅ」
「シータ、この非常時に、なんでパンなんて食べてんのよ!」
杖でシータを叩くミイナをガインが宥め、多少揉めながら歩いて勇者の子孫達はそれらしき空き地に辿り着く。
「ここか?」
「そうみたいだねぇ。出てきたよぅ」
勇者の子孫達が空き地の中心に立つと、周辺に隠れていた黒ずくめの格好をした男達が現れた。
「レイは何処!?」
ミイナの問いかけに、男の一人が口角を上げて答える。
「連れて行ってやるよ。命が惜しければ抵抗するな。まずは武器を寄越せ。それから女は――アレも出せ」
ミイナが「ん?」と首を傾げた。
「『アレ』って何?」
「しらばっくれるな!」
男に怒鳴られたミイナが、ガインとシータに視線を向ける。
「ねえ、『アレ』って何?」
「さあ……、なんだ?」
「分からないねぇ」
男達が勇者の子孫達を囲み、ガインの短剣に手を伸ばした。
「早く武器を寄越せ!」
乱暴に引っ張られ、ガインは意思とは関係なく抵抗しながら眉を寄せる。
「いや、これは渡したくとも無理だ」
「何を言っている!」
苛つく男に、ガインは益々抵抗しながら説明した。
「無理だ。俺だってできれば渡したいが、呪われているから離れないのだ」
「呪われている? 嘘吐くな!」
「本当だ。このままでは――!」
ガインが短剣を抜き、男を斬りつける。
「うわぁ!」
「この野郎!」
突然暴れだしたガインに、男達は驚きながらもそれぞれの武器を手に持ち、向かって行った。
ミイナが溜息を吐く。
「あーあ、呪いが発動しちゃった」
「もうそのままやっちゃえばいいんじゃないかなぁ」
「でも――」
月明かりに照らされた、短剣を振りかざす男の影。飛びかう血と悲鳴。
「――この光景、殺人鬼が暴れてるみたいじゃない? 惨殺はさすがにまずいよ」
ミイナは血塗れで呻いている男達に向かって、回復魔法を唱えた。
「カンチ、カンチダ、カンチシロ! 悪そうな人達、大丈夫?」
男達がよろめきながら立ち上がり、悔しげに顔を歪める。
「くそ! 引くぞ!」
そして、走り出した。
「あ、逃げたぁ」
「しまった、レイを返してもらってないじゃない」
動けない程度に回復させておけば良かったとミイナが後悔し、漸く止まったガインが短剣を鞘におさめる。
「行っちゃうよぉ」
「追いかけなきゃ! ガイン大丈夫? カンチ!」
「ああ、すまない。行こう」
顔に跳んだ血を手の甲で拭いながら、ガインが走り出した。その後をミイナと、ミイナに引っ張られたシータが続く。
「あっちだ」
「あれ? カジノの方に向かってる?」
男達の背中と、間近に迫ってきたカジノの建物を、ミイナは交互に見た。どうも男達が、カジノに向かって走っているように感じる。
「ヒー! 早いよぅ」
「頑張ってよ、シータ!」
そして――、
「あそこに入ったぞ」
男達が逃げ込んだのはカジノ――、その裏口だった。
「なんでカジノに?」
「カジノの関係者、か?」
眉を寄せて話しながら、ミイナが裏口のドアのノブを引っ張る。
「ちょっと、ドアに鍵がかかってるじゃない! シータ、壊して!」
「えぇ? おいらがぁ? それに中から危険な気配がするよぅ」
「いいの! 正面突破するんだから!」
シータは乱れている呼吸を整え、両手でドアノブを握った。
「出来るかなぁ……。うりゃぁ!」
気合の声を上げながらシータがドアノブを引っ張ると、ガコンという大きな音と共にドアが外れた。
シータは『引きちぎり』の技を覚えた。
ガインが頷く。
「よし、行こう」
勇者の子孫達は裏口からカジノの中へ入り――、しかしすぐに立ち止まった。勇者の子孫達を待ち伏せていた男達が、掴んでいたモノを見せる。
「待て。こいつがどうなってもいいのか?」
「レイ!」
血塗れで細く息をするレイの喉に、男の一人が剣を当てた。
「大人しくしな。ボスがお会いになるそうだ」
「ボス……?」
勇者の子孫達が顔を見合わせる。
レイを見捨てて抵抗するわけにもいかず、勇者の子孫達は男達に囲まれて、建物の奥へと進んだ。




