25 ぼったくりではありません
「わあ!」
娯楽の国ソビ国に着いた途端、ミイナは歓声をあげた。大勢の人と、建物に施された華やかな装飾。今まで訪れた国とはあきらかに違う、豊かで、そして少しだけ妖しい雰囲気を、この国は醸し出していた。
レイが感心したように小さな溜息を吐いて、周囲を見回す。
「大きな国だね」
まずは宿屋に馬車を預けよう、ということになり、勇者の子孫達はすぐ近くの宿に入った。そしてガインが受付で微笑む女性に訊く。
「泊まりたいのだが、いくらだ?」
「四名様ですか?」
「ああ、四人と馬車――馬が二頭だ」
「一晩、五万エンになります」
「…………!」
勇者の子孫達は、衝撃を受けた。
「そんなに高いのか?」
「嘘、なんで!?」
「もう少し安くならないかい?」
「ぼったくりぃ?」
身を乗り出して言う勇者の子孫達に、受付嬢が頬を引きつらせる。
「四名様と馬車に馬が二頭ですので、その金額になります」
「素泊まりでいいのだが」
「それでは四万六千エンになります」
「…………」
勇者の子孫達は一歩後ろに下がり、額を突き合わせて相談した。
「四万六千……」
「今までの国の十倍だねぇ」
「さすがにこの料金は……」
「やっぱ、ぼったくりじゃない?」
勇者の子孫達の言葉に、受付嬢がピクリと眉を動かす。
「この国ではこれが相場ですよ」
ガインが額に手を当てて、溜息を吐いた。
「……早めに装備品職人を探そう」
仕方がない。勇者の子孫達は頷き合い、さっそくレイが受付嬢に尋ねる。
「装備品職人の、バッチという男を知りませんか?」
「いえ、知りません」
受付嬢が首を振り、レイは小さく息を吐いて財布を取り出した。
「そうですか」
やはり、そう簡単にはいかないのか。
料金を支払い、勇者の子孫達は指定された部屋へと向かう。ドアを開けると、高いだけあって、今までにない広く豪華な部屋だった。
ミイナが歓声を上げる。
「うわ、四人分のベッドがある! ――ところで、レイ、大丈夫?」
ミイナはレイの顔を覗き込み、眉を寄せた。
「うん、まあ……」
微笑んで曖昧に頷くレイの顔は、いつもに増して白い。
ガインが唸る。
「疲れているな」
「カンチじゃ疲れにはあまり効かないからね。装備品職人探しは私達に任せて、レイは部屋で休んでて。あ、そういえばソビで高く売れるって薬を貰ったよね。それも売ろうよ」
そうだな、とガインが頷き、レイが礼を言ってベッドに寝る。どうやら本当に限界だったようだ。
レイと荷物を置いて、高く売れるという薬を持ち、ミイナ達は外へと出た。
「どうするの?」
「まずは、装備品職人が行きそうな場所を回ってみよう」
「酒場とカジノかなぁ」
ミイナが周りを見回して、小さく唸る。
「酒場、多いね」
とりあえず酒場を順番に回ろう、ということになり、レイを除いた勇者の子孫達は、一軒一軒酒場を覗いては人をつかまえて尋ねた。
「装備品職人のバッチという男を捜しているのだが」
しかし、誰もが知らないと首を振る。
「ちょっと、『知らない』ばかりじゃない」
「そうだな」
酒場ではないのか。ガインは顎に手を当てて――ふと気づいた。
「シータは何処に行った?」
「え?」
ミイナも気づく。いつの間にか、シータの姿が見えない。
「ええ? いつの間に居なくなったの? シータ!」
「シータ!」
シータシータと何度も呼んだが、シータは現れない。
「……どうしよう」
ミイナが顔を顰めてガインを見上げた、その時、
「おーい、ミイナぁ、ガイン」
シータが路地裏から出てきた。
「シータ! 何処に行ってたの!?」
駆け寄ってきたミイナとガインに、シータは小さく首を傾げた。
「んー? 可愛い女の子と遊べる酒場だよぅ」
「え?」
「お金がそこそこあったなら、そういう酒場に出入りすると思ってぇ」
笑うシータに、ガインが渋い顔をする。
「成る程。しかし勝手にいなくなっては困る。心配するだろう」
「えぇ? だってガインはそういうの好きじゃなさそうだしぃ、ミイナを連れては行けない場所だったからぁ」
「それでも一言言ってから行動してくれ。……で、何か分かったのか?」
うん、とシータは頷いた。
「以前はその酒場に時々来てたってぇ。でも最近は全然来なくなったらしいよ。お金が無くなったんじゃないかって、女の子達は言ってたぁ」
「ふむ、そうか」
小さく唸るガインをミイナが杖で軽く突く。
「ねえ、もしかするとイッテツ国に帰ったんじゃない?」
「すれ違いか。その可能性はあるな。だがまだそう判断するのは早い。――カジノに行ってみよう」
「カジノって、あそこだよね」
ソビ国の中心にそびえる、ひときわ高い建物。一目でそれがカジノだとミイナにも分かった。
「お城と同じくらい目立ってるねぇ」
ソビ国の城は国の北にあるが、これもまた大きく立派な城である。
「お金がありそうだよね、この国。後でちょっと寄って援助をお願いしてみる?」
「そうだな」
どう言えばたくさん援助してくれるだろうか。そんなことを話しながら、勇者の子孫達はカジノへと向かった。