24 ゲッツ
「おい、荷物と有り金、全部置いていけ」
勇者の子孫達は、肉を持ったまま固まった。
「え? 何この人達」
西の方から猛スピードで走ってきた馬車は、食事中の勇者の子孫達の前に停まり、その馬車の中から出てきた男達が、下卑た薄笑いを浮かべながら剣を振りかざして言う。
ガインが小さく唸り、肉を置いた。
「盗賊ではないのか?」
レイが同意する。
「ああ、盗賊みたいだね」
「盗賊、初めて見たなぁ」
ミイナが感心したように男達――盗賊を見上げた。
「へー、盗賊なんだ」
のんき、とも取れる勇者の子孫達の態度に、盗賊達は苛々として剣を振った。
「早くしろ!」
鼻先に剣を突き付けられたミイナが、レイを見る。
「レイ、お願い」
「モウカ」
杖の先から出た炎が、盗賊達をこんがりと焼く。
「うわぁ!」
「カンチ」
叫び声をあげる盗賊と吐血したレイに、ミイナは回復魔法をかけた。
「こ、この野郎!」
憤る盗賊達に、ミイナは首を振る。
「やめた方がいいよ。これ以上やると、敵とみなされて、ガインにメッタ刺しにされるよ。――シータ行って」
「ええ!?」
不満げな声をあげつつ、シータが「よいしょ」と立ち上がり、大きな体を丸める。そして大回転の技を繰り出し、盗賊達を薙ぎ倒した。
「うぅ……、このやろ……」
呻きつつもなおも立ち上がる盗賊達に、レイが止めを刺す。
「トップウ」
「うわぁ!」
強い風が吹き、盗賊達は遠くに吹き飛ばされた。
「カンチ」
レイにもう一度回復魔法をかけ、ミイナが眉を寄せる。
「弱いのに、なんで盗賊なんてやってるのかな。」
そして食事を再開させようとして、ミイナはふと、盗賊達の馬車がまだ残されていることに気づいた。ミイナの視線につられるように、皆の視線も馬車に集まる。
「ねえ、あの馬……」
ガインが頷いた。
「立派な牝馬だな」
「…………」
「…………」
勇者の子孫達は、馬を一頭と小金を手に入れた。
「良かったね、ヒヒタロウ。ヒヒリーヌと仲良くね」
喜んでいるかのように大きく嘶いたヒヒタロウの鬣を、ミイナが撫でる。
「ヒヒリーヌ、かい?」
首を傾げるレイに、ミイナは頷いた。
「新しい馬の名前だよ」
ガインが苦笑する。
「何処かで聞いたことがあるが、まあいいか。ヒヒリーヌも盗賊達と共に居るよりは、我々と共に旅をする方がまだましだろう」
「そうそう。なんて言ったって、勇者の子孫の魔王退治に同行できるんだからね」
新しい仲間のヒヒリーヌをヒヒタロウの隣に立たせた、ちょうどそこで、シータが皆に声を掛ける。
「デザートが出来たよぅ」
「わーい!」
シータから配られたデザートを一口食べたミイナが、蕩けるような笑顔をシータに向けた。
「んー! 美味しい!」
シータも笑う。
「良かったねぇ。これでおいらが痩せなくても大丈夫だねぇ」
「何言ってんの? シータは重すぎなんだから、ちょっと痩せた方がいいに決まってるじゃない」
「ええー? だから無理だって」
心底嫌そうな顔をするシータの肩をガインが叩く。
「食べたらすぐに出発しよう」
馬が一頭増えたことで、ヒヒタロウの負担も半分になり、馬車のスピードも上がるに違いない。そう何日もかからずに、ソビ国に辿り着けるだろう。
思いがけない幸運で、勇者の子孫達の馬車は、二頭立てとなった。