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17  微かな希望

 宿屋の小さな部屋で、身を寄せ合って数枚のビスケットを分けながら、勇者の子孫達は次の目的地について相談していた。

「次は何処に行くの?」

 膝にこぼれたビスケットの屑を人差し指で拾って舐めながら、ミイナがレイに訊く。

「えーと、『氷点下の塔』かな。世界の最北端にある」

「氷点下? 最北端? 絶対寒いじゃない」

 ミイナが唇を尖らせ、ガインが眉を寄せた。

「防寒具を買わないといけないな」

「お金が要るねぇ」

 シータの言葉に、皆が項垂れる。

「薬店で貰った薬、売る?」

 ミイナの提案に、レイは首を横に振った。

「それだけでは足りないだろうね」

 ガインが唸る。

「塔までは距離があるし、魔物を倒して毛皮や牙を売り、稼ぐしかないか」

「そうだねぇ。頑張れぇ」

「シータも戦いなさいよ!」

 怒るミイナを宥め、レイが地図を広げた。

「氷点下の塔の手前には、ラブリン国がある」

「ラブリン? 随分可愛い名前ね」

「そこで色々売って稼ごう」

 勇者の子孫達は頷きあい、立ち上がる。

「出発しよう」

「ラブリンに美味しいものはあるかなぁ」

 宿屋から出て、ザイシャから北へ、魔物を倒しながら馬車で進む。

 数日経つと、馬車の隅には倒した魔物の毛皮が何枚も重なって置かれるようになった。

「北に行くにしたがって、毛に覆われた魔物が増えているね。寒い国だし、毛皮は売れると思う。積極的に狩ろう」

 レイの言う通りだろう。だが――。ミイナが溜息を吐いた。

「ガインがメッタ刺しするからボロボロだね」

「……すまない」

 ガインが申し訳なさそうに頭を下げる。

「仕方ないよ、質より量で勝負しよう。あ、また魔物だ」

 短剣を抜いて、ガインが馬車から飛び出し、レイが魔物図鑑を広げた。

「クマンテだ」

 手がやたら大きな熊型魔物がガインに襲いかかる。

「あぁ、クマンテが仲間を呼んだよぅ」

「あれは、クビナガウサギだ」

 耳も長いが、それより首が長い魔物が現れた。

「ツラララ! うげ!」

 レイが馬車の中から魔法で攻撃する。

「カンチ! 無傷で捕まえる魔法ってないの?」

 レイは口元の血を拭いながら首を横に振った。

「ごめん、無いよ」

「そっか、残念」

 ガインがクマンテに止めを刺し、二匹の魔物の死骸を担いで馬車に帰ってくる。

 丁度昼頃だったのでミイナ達も馬車の外に出て、そのまま昼食にすることにした。

「じゃあシータお願い」

「はーいぃ」

 シータは鼻歌交じりに魔物の毛皮を器用に剥ぎ取って、肉を捌く。

「今日のお昼は何がいぃ?」

「寒くなってきたから、温かいものがたべたいな」

 北に向かっているのだから当然ではあるが、気温は下がり、少し足先が寒い。

「鍋にしようかぁ」

「いいね、それ!」

 ミイナがわくわくしながら、シータから受け取った毛皮を馬車の中に運ぼうとしていると――。


「あれぇ!?」


 驚いた声を上げたシータに、皆の視線が集まる。

「どうしたの?」

 ミイナが訊くと、シータが指先に摘まんだ何かを見せてきた。

「ほらぁ、ピカピカの石が付いた指輪だよぅ。クビナガウサギの胃から出てきたぁ」

「指輪!?」

 ミイナが毛皮を放り出し、シータの指先に飛びつく。ガインとレイも集まった。

「綺麗だな」

「魔物の中には、キラキラ光るものを好むものもいるらしいけど……」

 レイのその一言で、ミイナの目が怪しく光る。


「クビナガウサギを探して!」


 勇者の子孫達は昼食を後にして、必死にクビナガウサギを探して次々捌いたが――。

「無い……」

 指輪も宝石も、見付からなかった。

「う、何で?」

 項垂れるミイナ。レイが慰めるように、その頭を撫でた。

「偶然食べてしまっただけなのかもしれないね」

「そんな……。宝石がたくさんあれば、贅沢な旅ができたかもしれないのに……」

 手の中の指輪を見つめて溜息を吐くミイナに、シータが声をかける。

「元気だしなよぅ。ほら、クビナガウサギ鍋が出来たよぅ」

「……うん」

 ミイナは指輪をポケットに入れて、ガインからお椀とスプーンを受け取った。

「いただきます。――美味しい、プロの味だね」

 鍋は温かく、ミイナの顔にも笑顔が戻る。レイも同意する。

「本当に美味しいね。店を出したらはやるんじゃないかな?」

 店……、と口の中で呟き、ミイナは思い付いた。

「ねえ、馬車を改造して、軽食の移動販売とか出来ないかな?」

 ガインが頷く。

「ああ、いいかもしれないな。どうだ、シータ」

「んー? そうだねぇ。でもそれなら、ミイナの回復魔法で商売したほうが儲かるんじゃないかなぁ」

 回復魔法が使える者は少ない。怪我や軽い病気なら、医者にかかるより、ミイナの回復魔法の方が早く簡単に治る。

「そっか、そういう手もあるね」

 自分の能力の使い道に気付いたミイナは目を輝かせた。

「俺も、力仕事なら出来る。工事現場で働けるな」

「僕は勉強を教えてあげられる」

 ガインとレイも、それぞれの得意分野を生かす道を思い付く。


「私達、いけるかもしれない!」


 勇者の子孫達に、微かな希望が見えた。



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