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12  割れた茶碗のようなもの

 植物を薙ぎ倒しながら、洞窟の奥へ奥へと転がるシータ。

「待って!」

 ミイナとレイを背負ったガインがシータを追いかけるが、更に加速しながら進むシータになかなか追いつけない。そして――。

「止まったぞ」

 突き当たりの壁に衝突し、やっとシータが止まった。

「大丈夫? カンチ!」

 ミイナに回復魔法をかけてもらい、シータが頭を振りながら体を起こす。

「うぅ、回転しすぎてクラクラするよぅ」

「シータったら何してんのよ、もう」

 文句を言いつつ周囲を見回し、ミイナはガインの背中からおりたレイに視線を移した。

「ねえ、ここってたぶん……」

 レイが頷く。

「きっと最深部だね」

「あ、やっぱり?」

 洞窟の最深部は意外に広い空間になっていて、そして植物が一本も生えていなかった。レイが顎に手を当てる。

「もしかして聖なる欠片があるかもしれない。探そう」

「聖なる欠片ってどんなのかなぁ?」

 復活したシータが立ち上がりながら訊き、レイが眉を寄せて答えた。

「えーと、確か『割れた茶碗の欠片みたいなもの』って攻略日記に書いてあった」

「割れた茶碗ん?」

「……なにその表現?」

 首を傾げるシータとミイナ。そこに少し離れた場所から声がかかった。


「もしかして、これか?」


 ミイナ達の視線が声のしたほうに集まる。ガインが何かを左手に持って立っていた。

「あ、割れた茶碗の欠片みたいなやつだ」

 ミイナは思わず呟いた。手に持っているもの、それはどう見ても割れた茶碗の欠片だった。

「何処にあったんだい?」

「そこの台の上に」

 ガインの指差す場所には、洞窟には似つかわしくない細かい細工が施された台があった。レイが台に近付く。

「人工物、だね。祭壇のような感じだけど……それしてもこの細工、ガインの短剣の鞘の細工に似ていないかい?」

 ミイナが「ええ?」と顔を顰めた。

「ちょっと、まさか呪い系?」

 欠片を持ったガインの動きが止まる。また安易に触れて呪われてしまったのだろうか。レイがガインの持つ欠片に顔を近づけて目を眇めた。

「うーん、僕じゃ分からないな。ミイナ、確認してくれないかい?」

「ええー? 仕方ないなあ」

 渋々ガインの元に向かうミイナ。しかしそこでふと、勇者の子孫達は異変に気付いた。

「植物が生えてきてるよぅ」

 それまでこの場所には一本も生えてなかった植物が地面から次々生えてきている。それは驚くほどのスピードで成長し――。

「……なんか、一つに纏まったね」

 太い一本の、鋭い牙が生えた大きな口のある木になった。

「植物系の魔物なのか?」

 ガインの右手が短剣の柄を握る。

「これは『タベテクリ』だ! イガ栗をイガごと食べさせてくるから気をつけるんだ!」

 レイが叫んだと同時に、ガインが飛び出す。魔物は立派なイガ栗が実った枝をガイン目がけて伸ばした。

「カマイタチ! う」

「カンチ!」

 レイが枝を切り落とし、ミイナが回復魔法を唱える。ガインが木の幹――魔物の胴体をメッタ刺しにするが、短剣では多少の傷が付く程度で、あまり効果はなさそうだ。

「やだ、強い! どうするの!?」

「戦うしかないよ、モウカ!」

「カンチ!」

 火球は魔物を燃やすが、また新しい芽がすぐに生える。

「弱点は火っぽいよね。レイ、もっと凄い火系の魔法を使ってよ!」

「でもガインが……」

「今更多少の火傷を気にしたって仕方ないでしょう? 回復はするから!」

 そう言っても躊躇しているレイにミイナは舌打ちする。そして――。


「頑張れぇ!」


 応援しているだけのシータに、益々イライラが募る。

「シータも戦ってよ!」

 ミイナはシータの肩の贅肉を掴んだ。

「え? 戦えと言われても、無理だよぅ」

 首を横に振るシータ。ミイナは苛立ち紛れに贅肉を引っ張り――そこでハッと思いついた。

「そうだ! さっきみたいに転がってみればいいじゃない!」

 先程シータは、転がりながら植物を薙ぎ倒していった。シータの巨体はそれだけで十分凶器になる。

「えぇー?」

「いいから行け! 勢いよく転がって!」

 ミイナがシータを突き飛ばし、更に杖でつつく。

「うわぁ、ミイナ、やめてくれよぅ」

「早くして。ガインとレイが出血多量で死んじゃうよ!」

「うぅ、分かったよう。せーの!」

 シータの太い足が地を蹴り、巨体が転がる。


 シータは『大回転』の技を覚えた。


「凄い、シータ! 行けー!」

 迫り来るイガ栗を弾き飛ばし、シータは魔物の本体へと転がっていく。そのままシータは魔物の体に衝突した。

 地響きのような音が洞窟内にこだまし、衝突したシータは魔物に弾かれて、なおも転がり続ける。そしてその場で魔物と戦っていたガインは――。


「あ、巻き込まれた」


 シータの大回転に巻き込まれたガインが、シータと一緒に転がって魔物から離れる。

 ミイナは地面に片膝を付いて荒い息をしているレイに指示を出した。

「今だよレイ。凄い魔法やって!」

 レイが目の前の状況に唖然としながらも頷く。

「あ、ああ。――カエンチュウ!」

 巨大な炎の柱が現れ、魔物を燃やす。


「クリィィィー! クリィィィー!」


 魔物は叫び声を上げながら、燃えるイガ栗を猛烈な勢いで投げ始めた。

「きゃあ! 何すんのよ!」

 ミイナが杖でイガ栗を必死に打ち返す。打ち返された魔物は、更に憤ってイガ栗を投げた。

「もう、しつこい!」

 ミイナが大きく振りかぶり、渾身の力でイガ栗を打ち返す。燃える栗は低く飛んでいき……。


「あ、引火した」


 まだ転がるシータとガインに当たり、二人の服が燃え上がった。ミイナがしまったと顔を顰め、レイに視線を移す。

「レイ、シータとガインが燃えちゃった――ああ、レイ! カンチシロ!」

 強力な魔法を使ったレイは、虫の息で地面に倒れていた。

「しっかりして、レイ」

 ミイナがレイの腕を掴んで起き上がらせている間に、炎を上げて高速回転するシータとガインが魔物に突っ込んでいく。


「ク、クリリリィィィー!!」


 ドーンという衝撃音と共に、魔物が薙ぎ倒された。

「……え? 倒した?」

 ミイナが目を見開き、死の淵から蘇ったレイがよろめきながら立ち上がる。

「倒したみたいだね。モウウ! うげ」

 レイが魔法を唱えると雨が降り、シータとガインの炎が消える。

「カンチシロ!」

 ミイナがシータとガイン、レイにも回復魔法をかけた。


「うぅー……、酷いよミイナぁ」


 のろのろと体を起こしたシータとガインにミイナが謝る。

「ごめんね」

「ごめん」

 レイも一緒に謝った。ガインが眉を寄せる。

「服が燃えたな」

 シータもガインも、すっかり全裸になっていた。ミイナがえへへと笑う。

「えーと、でもなかなかいい体してるよ、ガイン」

「……ありがとう」

「あ、ところで聖なる欠片は?」

 ガインが左手を持ち上げる。戦闘中も回転中も離さず、聖なる欠片はガインがしっかりと握っていたようだ。

「ミイナ、確認できるかい?」

 レイの言葉にミイナが頷く。

「うん、じゃあ見せて」

 ミイナは右手で股間を隠すガインの元に行き、聖なる欠片をじっと見つめて唸る。

「うーん、何か魔力のようなものを感じるけど、まがまがしい感じはないよ」

「じゃあ呪われてはいないのかい?」

「たぶん大丈夫」

 ホッと胸を撫で下ろすガイン。レイが微笑んだ。

「良かった。聖なる欠片が攻略日記に書かれた場所に今も存在することも分かったし、それを手に入れることもできた。……帰ろうか」

 ガインが頷き、ミイナがこちらに背中を向けてごそごそと動いているシータに声をかける。

「シータ、何してんの? 行くよ」

「待って、その前に焼き栗を拾うから」

「焼き栗?」

 ミイナ達が周りを見回すと、先程魔物が投げていたイガ栗が、レイの魔法でこんがりと焼けていた。

「あ、美味しそう。拾ってから帰ろう」

 勇者の子孫達は焼き栗を拾い、最深部の部屋から出る。

「あれ? 植物がなくなってるよ?」

 ミイナが首を傾げた。あれほど繁っていた植物が、一本も見当たらなくなっていた。

「親玉がいなくなって撤退したのかな? これで帰りは安全だね」

 レイが胸を撫で下ろす。ミイナの隣にいたガインが、後ろに一歩体を引いた。

「ミイナとレイは先に歩いてくれ。俺達は後ろを行く」

「うん」

 両手いっぱいに焼き栗を抱えたシータが注意する。

「ミイナ、振り向かないでよぅ」

「振り向かないわよ!」

 シータの裸なんて見たくないよ、とブツブツ言いながら、ミイナは歩いていく。その後を、レイとガインとシータが続いた。


 勇者の子孫達は、一つ目の聖なる欠片を手に入れた。



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