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11  緑繁る洞窟

「ホーダイから三十ロウドっていうと、だいたいここら辺だと思うけど……」


 レイが眉を寄せて言う。

「じゃあ、降りてみようか」

 勇者の子孫達は、ホーダイから三十ロウドらしき場所で馬車から降りた。

「で、何処?」

 見上げてくるミイナに、レイは首を傾げる。

「何処と言われても、うーん、『緑繁る』って言うくらいだから緑が繁っているところなんだろうけど……。攻略日記には具体的な場所までは書いてなかったんだ」

 頼りない回答に、ミイナが頬を膨らませた。

「もう! じゃあシータ、ここら辺に来たことはないの? 洞窟の噂を聞いたことがあるとかない?」

「ないよぅ。だいたいこんな場所までホーダイの国民は来ないよぅ」

「…………」

 益々頬を膨らませたミイナの頭をレイがぽんぽんと叩く。

「仕方ないよ。ここら辺を探してみよう」

「うーん、まあそうだね」

 勇者の子孫達は、周辺を探索しながら進んだ。そして一時間後――。


「あそこじゃないか?」


 ガインの言葉に、少し離れた場所に居たミイナ達が集まる。

「あ!」

 ミイナが思わず声を上げた。ガインが指差す場所は、周囲に比べてあきらかに緑が繁っている。

「不自然なくらい緑いっぱいだよ、きっとそうだ。行こう!」

 勇者の子孫達はレイの体力を考慮して、馬車に乗って少し先にある緑が繁っている場所に移動した。そしてミイナが首を傾げる。

「……ここって洞窟?」

 植物がびっしり生えていて、洞窟なのかどうか分からない。レイが小さく唸って杖を掲げた。

「とりあえず燃やしてみようか。モウカ!」

 呪文を唱えると大きな火球が現れて植物を燃やしていき、レイが吐血する。

「カンチ」

 ミイナが回復魔法を唱え、そして――。


「あぁ、洞窟だねぇ」


 洞窟の入り口が現れ、シータが緊張感のない口調で言う。ミイナはホッと息を吐いた。

「やっと見つかった。じゃあ行こうよ。ヒヒリーヌは待っててね」

 入り口に馬車を残し、勇者の子孫達は洞窟内へと入っていく。洞窟内はまるで昼間のように明るく、木や蔦などの植物が沢山生えていた。

 ガインが壁を触って眉を寄せる。

「妙に明るいな。この岩が光っているのか?」

 レイも同じように岩肌を触り、小さく唸る。

「光る岩なんて始めて見た。特に害はなさそうだけど、この先もし危険を感じたら、すぐ外に出よう」

 レイの言葉に皆が頷く。

 勇者の子孫達はガインを先頭にして、邪魔な植物はレイが燃やし、洞窟内をゆっくり進んだ。

 入り口から少し離れた場所まで来た時、ミイナが斜め後ろを歩くシータに話しかける。

「少し下ってるよね」

「んー、そうだねぇ。下り坂になってるねぇ。地下深いところまで行かなきゃいけないとかだったらいやだなぁ」

「ええ? やめてよ。なんだかもう帰りたい――」

 文句を言いつつ振り向いたミイナは、そこで「ん?」と眉を寄せて立ち止まり、地面を凝視した。ミイナの様子に異変を感じたシータと前を歩いていたガインとレイも立ち止まる。

「どうしたんだい、ミイナ?」

「レイ、植物が……」

 ミイナの視線を追って地面を見たレイが目を見開く。

「これは……」

 地面から植物の新芽が次々と出て、みるみる成長していく。

「凄いねぇ。なんでこんなに成長が早いんだろう?」

「シータ、のんきなことを言っている場合ではない。ミイナ、俺の後ろに」

 ガインが短剣の柄を握って一歩踏み出す。そこに――。


「――きゃあ!」


 急激に成長をした植物が枝を伸ばして、ミイナの足に巻きついた。ガインが短剣を抜き、植物に斬りかかる。しかし植物は更に成長し、ミイナを洞窟の天井まで吊り上げた。

 レイが呪文を唱える。

「カマイタチ! うげえ!」

 杖の先から現れた風の刃はミイナの足を掴む枝を切り裂き、落ちてきたミイナをガインが受け止める。

 衝撃に顔を歪めながらミイナはガインにしがみつき、引きつった顔で斬られてもなお成長し続ける植物を見つめた。

「な、なにこの植物。危険だよ。――カンチダ」

 蹲っていたレイが立ち上がり、口元の血を袖で拭う。

「いったん戻って対策を練ろう。モウカ! げほ!」

「カンチ」

 炎が植物を焼く。が、勇者の子孫達は次の瞬間驚いた。先程よりもあきらかに早いスピードで、新芽が出て大きく成長していく。

「レイ、移動魔法で外に出ようよ」

 ミイナがガインの腕からおりて、レイの袖を引く。しかしレイは首を横に振った。

「無理だ。移動魔法は屋内では使えないんだ」

 ミイナが目を見開いて大きく息を吸った。

「え、そんな、どうするの!? 私達洞窟に閉じ込められちゃうよ!?」

 まさか移動魔法にそんな制約があるなど思いもしなかった。そういう重要なことは先に言ってほしかったとショックを受けるミイナ。そのミイナの肩に、ガインが手を置いて提案した。

「レイの魔法で燃やしながら全速力で出口に向かおう」

「全速力? それはレイには無理じゃない?」

 体の弱いレイは走れない。ましてや呪文を唱えながらなどできるわけがない。その通りというようにガインが頷いた。

「だからレイは俺が背負う。その後ろをミイナが走りながら回復魔法、最後にシータだ」

「ええ? おいら走れるかなぁ」

 唇を尖らすシータに「頑張れ」と言いながら、ガインがレイに背を向けてしゃがむ。

「ごめん、ガイン」

 他に良い方法も思い浮かばないと、申し訳なさそうに背中にへばりついたレイの足を、ガインはしっかりと掴み立ち上がった。

「では行こう。レイ」

 レイが杖を掲げる。

「モウカ!」

「走れ!」

 勇者の子孫達は外に向かって走り出した。

「カンチ!」

「モウカ!」

「カンチ!」

「モウカ!」

 攻撃と回復を繰り返し、植物を燃やしながら勇者の子孫達は突き進む。レイの吐いた血が、ガインの後頭部と背中を汚していく。

 後ろから荒い息が聞こえ、ミイナは走りながら振り向いた。

「シータ、大丈夫?」

 まだ少ししか走っていないというのに、シータは既に遅れていた。

「だ、大丈夫じゃ……」

 と、その時、シータが地面から生えてきた植物に躓く。


「うわぁ!」


 前のめりにこけたシータに、ミイナが悲鳴を上げた。悲鳴に気付いたガインも立ち止まって振り向く。

「シータ! 何こけてるのよ! ほら立って、急いで!」

「う、うん」

 シータに駆け寄ったミイナが、シータの腕の贅肉を掴んで何とか立ち上がらせようとする。

「頑張って立って、出られなくなるよ!」

 ガインも駆け寄り、片手でレイを背中に固定し、もう片方の手でシータの贅肉を掴んだ。二人に引っ張られ、シータがなんとか起き上がる。

「うん、よいしょぅ!」

 巨体を揺らし、シータはホッと息を吐いた、が。


「あれぇ?」


 シータの体が、後ろに傾く。

「シータ!」

 慌ててミイナとガインが贅肉を強く引く、が、シータの重い体重を支えられるわけもなかった。


「う、うわぁぁぁぁ!」


 シータが後ろ向きに、まるで手からうっかりこぼれた饅頭のように、ころころと転がっていく。

「ちょ、シータ!」

「シータ止まれ!」

「シータ! うげぇ」

 シータは植物を薙ぎ倒しながら、洞窟の奥へ奥へと転がる。

「待って!」

 ミイナ達はシータを追いかけた。




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