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10  意外な特技

 勇者の子孫達はホーダイ国から東へと進み、緑繁る洞窟へと向かっていた。


 馬車の前に魔物――巨大な蝶が現れた。レイが魔法を唱える。

「ツラララ! ……うげ!」

 氷柱が魔物に降り注ぎ、レイが吐血する。

「カンチ!」

 すぐさまミイナが回復魔法を唱え、ガインが自分の意思とは関係なく魔物の前に飛び出した。

 ガインは魔物をメッタ刺しにするが、同じくらいやられてもいる。レイが息も絶え絶えにガインに忠告した。

「それは『カン蝶』だ! 太い指でカンチョーしてくるから気をつけるんだ!」

 ミイナがガインに回復魔法を唱える。

「カンチダ!」

 そんな中、シータは「頑張れぇ」と呟きながら、荷物の中から饅頭を取り出した。

 ミイナが思わずそのシータの頭を杖で叩く。


「少しは戦え!」


 シータが頭を押さえて振り向いた。

「そんなこと言われても、おいらは大食いチャンピオンだから食べることしか出来ないよぅ」

「元は格闘家でしょう!?」

「こんなに太ったら、体なんてもう動かないから無理ぃ」

「…………」

 思った以上に役にも立たないシータに、ミイナの頬が引きつる。

「馬車の中は狭くなったし、戦闘にも参加しない。おまけにその間延びした口調は何? イラっとするんだけど!」

「口調は仕方ないじゃないかぁ」

 ミイナは戦闘を終えて馬車に戻ってくるガインと吐血で汚れた床を拭くレイを指差した。

「みんな血塗れで頑張ってるじゃない! シータもちょっとは血塗れになってみなさいよ!」

「そんなの嫌だよぅ」

 なおもシータに食い下がろうとするミイナを、レイがやんわりと止める。

「ミイナ、昼食にしよう」

「…………」

 レイに促されて、渋々ミイナは馬車から降りた。

 ガインが周辺から集めてきた枯れ枝に、レイが火をつける。


「キョウカ」


 杖の先から出た強めの火が枯れ枝に移り、レイはコホコホと咳をした。

「カンチ」

「ありがとう。でもこれくらいの魔法なら回復がなくても大丈夫だよ」

「そんなこと言って、倒れても知らないよ」

 まだ不機嫌なミイナの頭をレイが撫でる。そしていつものように、ガインが肉を焼き始め、レイがスープを作り出す。

「また焼いた魔物の肉と薄いスープ?」

 眉を寄せるミイナに苦笑するレイ。とその時、ミイナの背後からも不満の声が上がった。


「ええ!? 焼いた肉とスープだけ? しかもそんな量じゃ、おいら足りないよぅ!」


 ミイナが後ろを振り向く。

「戦闘に参加しないシータが、なんでそんな文句言うのよ!」

「だってぇ」

「うちは貧乏なんだから――」

 そこでふと、ミイナはあることを思い出した。シータは大食い大会で優勝した時、確かホーダイ国の王様から賞金を貰っていた筈だ。

 ミイナがシータの胸倉を掴む。

「シータ、昨日の大食い大会の優勝賞金はどうしたの?」

 シータが首を傾げた。

「賞金? ちょっと早いけど出産祝いとして妹にあげたよぅ」

「…………」

 ミイナがシータから手を離して項垂れる。賞金があれば、これからの旅の資金になったのに。

 しかしこればかりは仕方が無い。ミイナは力なく地べたに座る。ガインがそのミイナの前に、焼けた肉を置いた。

「ホーダイ国は天国だったな」

 思わず呟いたその時――。


「なにすんのよ!」


 ミイナの横からシータが手を伸ばし、肉を奪っていった。

「ちょっと、私の肉よ!」

 美味しくなくても取られれば腹が立つ。しかしシータは憤るミイナをよそに、肉を一口齧った。


「……美味しくないよぅ」


 顔を顰めるシータから肉を奪い返す。

「仕方が無いでしょう!?」

 そして怒りのままに肉に噛り付こうとしたミイナを、シータが止めた。

「うーん、ちょっと待っててぇ」

「え? なによ」

 訝しげなミイナに背を向け、シータは巨体を揺らして馬車に戻り、大きな袋を持って帰って来た。

「よいしょ」

 息を切らせながらシータが袋から取り出したのは――。

「これって……」

 ミイナと、そして二人のやり取りを見ていたガインとレイも目をパチパチとさせて驚く。袋から出てきたのは、調理道具一式だった。

「すぐに美味しいご飯を作るからねぇ」

 シータはガインから肉を貰い、レイから作りかけのスープも引き継ぐ。

「えーと、このお肉に合うソースはぁ……」

 鼻歌まじりに手際よく料理を作っていくシータは、最後にふわふわのパンケーキまで付けて呆然とするミイナ達の前に置いた。

「はい、どうぞぉ。食べて」

 笑顔で言われて、ミイナは皿に盛られた良い香りのする肉を一切れ口に入れる。そして次の瞬間、目を見開いて叫んだ。


「美味しい! なんで!?」


 材料は同じなのに、味も食感も格段に良くなっている。

 信じられないという感じで目を見開くミイナに、シータは照れながら言った。

「おいら、美味しいものが大好きだから自分でも料理するんだ」

 ガインとレイも料理を口にして、思わず唸った。

「美味いな」

「美味しい」

 ミイナがシータの肩を叩く。

「素晴らしい! まさかの才能で、急激にパーティーのレベルが上がった気がするよ。これで戦ってくれたらもっといいんだけど」

「そこは期待しないでよぅ」

「うーん、残念」

 ミイナがパンケーキを口に入れる。


 お荷物と思われたシータの意外な特技で、パーティーの食事の問題が解決した。


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