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9   勇者の遺品

 朝、目覚めると、食べ物に囲まれていた――。


「……何これ?」

 ミイナが眉を寄せ、枕元にある団子を手に取る。

「おはよう。朝ごはんだよぅ」

 声のした方を見ると、朝っぱらから昨日の祭りの残り物らしき肉の塊に噛り付いているシータと目が合った。

「……おはようシータ。この家では人が寝てる枕元に朝ごはんを置くの?」

「食べ物の匂いで目が覚めると、嬉しいよねぇ」

「シータはそうでも私はそうじゃないの」

 変なのが仲間になったと思いつつ、ミイナは起きる。

 昨夜一緒に雑魚寝した仲間達は皆起きており、既に着替えて身なりも整えて、やはり祭りの残り物とおぼしき物を食べていた。

「おはよう、ミイナ」

 レイが微笑む。

「おはようレイ。あれ? ガインその服どうしたの?」

 昨夜までボロボロの服を着ていたガインがまともな格好をしているのを見て、ミイナが首を傾げた。

「シータが痩せていた頃の服をくれたのだ」

「へえ、良かったね。シータって昔は痩せてたんだ」

 シータが頷く。

「おいら、転職してから激太りしたんだよねぇ」

「……なんで転職なんてするのよ」

 ミイナは溜息を吐いて、みんなと一緒に朝食を食べ始めた。

「で、これからどうするの? 他の勇者の子孫が何処にいるか知ってる?」

 ミイナの言葉に、レイとガインが首を横に振る。

「ごめん、知らない」

「知らないな」

「おいら、妹がいるよ」

 ミイナ達が「え?」とシータを見た。

「本当に?」

「うん。飲食店経営現在妊娠中だよぅ」

「……それじゃ駄目じゃない」

 はぁ、と溜息を吐き、ミイナはシータに訊いた。

「じゃあこの国に、魔王退治に協力してくれそうな強者と、あと解呪が出来る人はいる?」

「解呪?」

 首を傾げるシータに気付く。そういえばガインが呪われていることを教えていなかった。

 ガインが苦い顔でシータに説明する。

「実は、俺は呪われていて……」

 シータは一通り話を聞き終わると、「へー」と頷いた。

「それは大変だねぇ。でもこの国には解呪できる人は居ないと思うよ。それと魔王退治に協力するような強者も知らないなぁ」


「…………」


 ガインが肩を落とし、そんなガインの背中を励ますようにレイが叩く。

 ミイナが唸り、頬杖をついてレイに視線を向けた。

「どうするの? とりあえず世界の中心に向かってみる?」

「いきなりは危険だよ」

「じゃあどうするの?」

「それは……他国を巡って情報収集と仲間集めをするしかないね」

「ええー?」

 唇を尖らせて、ミイナが不満げな声を出す。と、その時――。


「あ、そうだぁ」


 シータがパンッと手を叩き、巨体を揺らして部屋の隅にある棚に向かう。

「なに? どうしたの?」

 訝しげなミイナ達に、シータは一冊の本を棚から取り出して見せた。

「こんなのがあるけど、役に立つかなぁ?」

「本?」

「伝説の勇者が残した本らしいよぅ」


「え!?」


 ミイナ、レイ、ガインが目を見開く。

「勇者の本!?」

 悲鳴のような声を上げるミイナに、シータは頷いて本を渡した。

「うちに代々伝わってる代物なんだけど、でも何が書いてあるか分かんないんだよぅ」

本を受け取ったミイナが中をペラペラと捲り――眉を寄せる。

「これって古代文字かな?」

 本には何かが書かれているのだが、その文字は現在使われている文字ではない。ガインも本を覗き込んで唸る。

「読めないな」

「こんな読めない本渡されたって――」

 文句を言いつつ本を閉じたミイナ。そのミイナの手から、レイが本を取り上げた。

「レイ?」

 レイは表紙に書かれている文字を、指でなぞる。


「魔、王……攻……日、上」


 ミイナは大きく口を開けて驚いた。

「え? 読めるの!? 何が書いてあるの!?」

「待って、僕もそれほど詳しいわけではないんだ。えーと、確か辞書を持ってきていた筈……」

 レイは立ち上がり、荷物の中から古い辞書を引っ張り出す。それから本の表紙と辞書に書かれている文字を何度か見比べて、ようやく「分かった」と呟いた。

「何? なんて書いてあるの?」

 固唾を呑んで見守る仲間に、レイは真剣な表情で告げた。


「『魔王攻略日記・上巻』だ」


 ミイナ達が固まる。

「……は? 攻略日記?」

「うん」

 ミイナ達は顔を見合わせ、わっとレイに詰め寄った。

「攻略って、じゃあ魔王を倒す方法が書いてあるの!?」

「どうすればいいのだ?」

「うわぁ、大変なお宝だったんだねぇ」

 レイが慌てる。

「ちょ、ちょっと待って、解読してみるから」

 テーブルの上の皿を退け、レイは本と辞書を置き、一ページ目を開いた。そして辞書で調べながら、時間を掛けてゆっくりと書いてある文章を読んでいく。


「私は今日、魔王退治の旅に出た。魔王は強い。そして魔王の城は世界の中心の孤島にあり、周りを険しい山と『膜』に囲まれていて、容易に入ることが出来ない。そこで私は『聖なる存在』の力を借りることにした」


 ミイナが首を傾げてレイに訊いた。

「『膜』って何?」

「さあ……」

 レイが首を傾げる。

「『聖なる存在』って何?」

「……『人では無い者』と書いてある」

「じゃあ魔物?」

「分からない。とりあえず続きを読むよ」

「うん」


「聖なる存在に会うためには、世界に散らばる『聖なる欠片』を集めなければならない。その一つがあるとされる『緑繁る洞窟』に私は向かった」


 そこでレイは顔を上げて、みんなの顔を見回した。

「……どう思う?」

 ミイナが即答する。

「よく分かんない」

「同じくぅ」

 シータが同意する。

 レイはトントンと指で本を叩き、眉を寄せた。

「勇者が魔王を倒すために、聖なる存在とやらの力を借りようとしていたことは分かるね?」

「うん。まあ何となく。聖なる存在は何かわかんないけど、その力を借りれば魔王は倒せるのかな?」

 レイが髪をかきあげて唸る。

「まず、その聖なる存在が今も存在しているかが分からないし、緑繁る洞窟に今現在欠片があるのかも分からないな。それに――ちょっと気になるのは、この文字は勇者が活躍していた時代よりもっと古い時代の文字なんだ。何故勇者はそんな古い時代の文字を使っているのだろうか?」


「……………」


 勇者の子孫達は顔を顰めて、じっと攻略日記を見つめた。

 暫く無言で見つめ――ガインがふと気付き、シータに訊く。

「これは上巻となっているが、では下巻も存在するのか?」

「うちにあったのはこれだけだよぅ」

 ミイナがレイを指で突いた。

「ねえ、緑繁る洞窟って何処にあるの?」

 レイが攻略日記に視線を移す。

「えーと、洞窟は世界の東……」

 ミイナが怒鳴る。

「東って何処よ! 広すぎるわよ!」

「待って、ミイナ。ブダイ国から東に三十ロウド行った場所にあるらしい」

「ブダイ国って何処?」

「聞いたことがないな。地図を――」

 荷物から地図を取り出し調べようとするレイを、シータが制した。

「レイ、ブダイ国って、ホーダイ国の大昔の国名だよぅ」

「そうなのかい?」

 ガインが顎に指を当てる。

「ここから三十ロウドか、結構近いな。一度行ってみてはどうだろうか?」

 五十ロウドが馬車で約半日。洞窟までは、それ程遠い距離ではない。

 レイとミイナが頷く。

「そうだね」

「他に手がかりも無いしね」

 シータが拳を振り上げた。

「よーし、美味しいもの探しの旅に出発だぁ」

「シータ、違うでしょ!?」


 勇者の子孫達は、伝説の勇者の遺品『魔王攻略日記・上巻』を手に入れた。



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