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魔王なのに光属性しか使えないダークエルフですが、アンデッドの部下が成仏しそうで困ってます。どうすればいいですか?

作者: 八海クエ

挿絵(By みてみん)


 魔王城、玉座の間は、やたらと明るかった。


「……眩しい」


 漆黒のドレスを身にまとい、死神の大鎌をはべらせるダークエルフが、目を細める。


 魔王、ルミナ・ノクスヴァール。


 最近の彼女は、魔王城内で半ば公然とこう呼ばれている。


——浄化の魔王、略して浄王。


「誰が浄化だ! 私のどこが浄化だ!」


 ルミナは玉座の肘掛けを叩いた。すると、叩いた指先から「ぱちり」と小さな光が弾けた。


 その白い光点が宙に舞い、勝手に天井のシャンデリアに吸い込まれていく。


 シャンデリアは元々、禍々しい骨細工で作られていた。が、なぜかいまは神々しく光っている。


 魔王城は本来、闇に沈み、湿り、苔むし、コウモリが舞うべき所である。しかし。


「浄王様……今日もここは、清掃の行き届いた礼拝堂みたいですね……」


「浄王、言うな!」


 背後から、参謀のヴァンパイアロード、グレグ・ブラッドヴェイルが申し訳なさそうに言う。


 言いながらも、彼は玉座の間の床に獣の血を撒いていた。少しでも、ここを魔王城らしくするために。


「いつも面倒をかけるな、グレグ……」


「魔王様の光属性、城の壁紙まで漂白しますからね」


「漂白って……」


「しかし聖女…あ、しまった! 魔王様!」


「せ、聖女って、なんだ!」


「すみません……最近は、みんながそう言い始めてて……」


「ギリ、浄王はいい。でも、聖女はやめて。私、泣いちゃう……」


 涙目のルミナが、立ち上がって歩き出した。


 靴の踵が、コツコツと石床に爽やかな音を立てる。石床は常に乾いていて、湿気がない。魔王城なのに。


 廊下を曲がると、地獄の兵士たちが整列していた。黒鎧に骸骨の兜。見た目はそれっぽい。


 だが全員、サングラスをかけている。明るすぎて目が痛いから。


「魔王様、ご機嫌麗しゅう」


 隊長が敬礼した。筋が通っていて美しい。


「麗しいって言うな。魔王は恐ろしいんだぞ!」


「恐ろしく……麗しいです」


「しつこい!」


 ルミナは舌打ちしたつもりだった。しかしなぜか小さな鐘の音みたいに「ちりん」と響いた。


 誰だ、私の舌打ちまで清らかにしたやつ。


「……本題だ。”冥約の間”はどうなってる?」


 魔王城の地下、最深部。そこにあるのが、アンデッドの召喚と使役を行う冥約の間だ。


 魔王である以上、アンデッド軍団を従えるのは夢——いや、義務である。


 闇の王の象徴。


 スケルトンがずらり、ゾンビがうごめき、リッチが冷笑し、無数に転がる骨がカタカタと忠誠を誓う。完璧だ。


「それが……」


 隊長の声が濁った。


「近づいてくれません」


 ルミナは眉間に皺を寄せた。


「なにが」


「アンデッドが」


「……今日も?」


「今日もです」


「昨日も?」


「昨日もです」


「一昨日も?」


「一昨日もです」


「……いつも?」


「はい……」


「はぁ……」


 魔王ルミナは深く息を吐いた。


 闇の吐息——のはずなのに、吐いた瞬間「ふわっ」と白い湯気みたいなのが出て、周辺にいる兵士たちの冷えた身体を温める。


 ほっとした顔をする地獄の兵士たち。


「温泉みたい……」


「誰が温泉だ!」


 ルミナは地下へ向かった。


 階段を降りるほど、空気は冷たく湿り、魔王城らしさが戻ってくる。よし、ここなら私も魔王っぽ——


「魔王様、足元にお気をつけて。転ぶと危ないので」


「気安く魔王の身体に触れるでない!」


 それでもルミナは足を踏み外し、転びそうになり、反射的に壁に手をついた。


 ぱぁん。


 壁に触れた手のひらから、祝福の光が爆発する。


 地下の苔が一瞬で枯れ、壁のカビが消え、階段の手すりがキラキラと新品みたいに輝いた。


 隊長が小声で言う。


「……まるで、礼拝堂ですね」


「黙れ!」


 冥約の間に入ると、そこは本来、死臭と冷気と怨嗟が満ちる場所——のはずだった。


 だが、入口に掲げられた看板がまずおかしい。


『本日の冥約の間 大変明るくなっております 目の弱い方はご注意ください』


「誰がこんな看板を……」


「え、僕ですけど」


「お前か、グレグ」


 参謀グレグは誇らしげだった。


「みんな目が痛いって言うので」


「なんて優しいヴァンパイアだよ……」


 ルミナは部屋の中央に立った。


 円形の魔法陣。黒い蝋燭、骨の山。そして血のついた儀式用の短剣。完璧な舞台だ。ここで私は——


「アンデッドたちよ! 我が名に従え!」


 詠唱すると、ルミナの身体から光が溢れた。溢れすぎた。天井に届いた。壁に反射した。蝋燭が勝手に白い火で燃え始めた。


 それでも、死霊の気配が泡のように「しゅわしゅわ」と立ち上がり……


 出てきた!


 スケルトンが。


「おお!」


 ルミナは胸を張った。ついに! ついに私のアンデッド軍団が!


 しかし、スケルトンは一歩前に出た瞬間、ぴたりと止まった。そして、こう言った。


「すみません、眩しいので離れてもらってもいいですか」


「喋った!?」


「最近は喋るんです。アップデートで」


 参謀がさらっと言う。


「アップ? なんだそれは」


 スケルトンは両手で眼窩を覆う仕草をした。目、ないだろう。


「魔王様、光、強すぎます。骨が焼けそうです……」


「焼けないでしょ、骨」


「心が」


「心まであるのか! それ、アンデッドなのか?」


 続いてゾンビが召喚された。よろよろと出てきて、ルミナを見るなり顔を背け、壁際へ移動し始めた。


「待て! こちらに来るのだ!」


 ゾンビは首を振る。腐りかけの肉が「ぷるん」と揺れる。ちょっとかわいい。


「……無理です。浄化されます」


「なんか、ごめん……」


 最後に、霧のような影が凝って、ローブを纏ったリッチが現れた。古代の大魔導士、不死者の王、知恵の象徴。


 奴は期待できる。


 リッチは……ルミナを見て、丁寧に一礼した。


「魔王様、お招きいただき恐悦至極にございます」


「イメージと違う……」


「光、非常に結構。ですが……」


 リッチは慎重に距離を取りながら言った。


「その光で、こちらの怨念が落ち着いてしまいまして。モチベーションが出ません」


「モチベーションとか言うな! 落ち着くでない!」


「落ち着いてしまうのです。こう……人生を振り返って、別に悪くなかったなって……」


「それ、成仏ギリギリだろ!」


 ルミナは頭を抱えた。


 魔王であるはずの自分が、アンデッドを使役しようとするたび、彼らを癒してしまう。


「ねえ、私、どうすればいいの?」


 思わず本音が漏れた。


 スケルトンが遠くから手を挙げた。


「魔王様、サングラスかけてくれません?」


「私が?」


「せめてフードとか」


 リッチも頷く。


「ご尊顔が光源ですからね」


「太陽みたいに言うな!」


 参謀が、ここぞとばかりに一枚の紙を差し出した。


「魔王様、対策案をまとめました」


「誰が頼んだ?」


「僕が自主的に」


 紙には、こう書かれている。


1. 玉座の間の採光を落とす(魔王様が歩くと壁が光るため難しい)

2. 魔王様に“闇属性っぽい演出”を付与する(黒マント、スモーク、BGM)

3. アンデットに“光耐性”を付ける(ただしコスト高)

4. 諦めて“光のアンデット”という新ジャンルを開拓する(発想の転換)


「光のアンデッド? なにそれ?」


 参謀は真顔で言った。


「需要あります。光のアンデッド。匂わない、怖くない、優しくて頼りになる」


「それ、もう天使なんじゃないの?」


 その時、冥約の間の扉が激しく叩かれた。


「魔王様! 緊急事態です!」


 隊長が駆け込んできた。


「勇者一行が城門前に!」


「来たか……」


 ルミナは身構えた。魔王らしく戦ってやる。


「でも、様子が……」


 隊長が言い淀む。


「花束を持っております」


「え?」


「あと、寄付の箱も」


「寄付?」


 ルミナは急いで玉座の間へ戻った。


 魔導鏡を覗くと、そこにいたのは確かに勇者一行。甲冑の青年、僧侶、魔法使い、盗賊。


 そして彼らは笑顔で手を振っている。なんでだよ。


 勇者が叫んだ。


「魔王様! いつも街道のアンデッドを浄化してくださってありがとうございます!」


「私は浄化してない! うまく召喚できないだけだ!」


 僧侶が続けた。


「あなたの光のおかげで、迷える魂が救われています!」


「救ってない!」


 魔法使いが叫ぶ。


「ぜひ、王都の大聖堂で講演を!」


「こ、講演!?」


 盗賊が箱を掲げる。


「支援金集めました! 魔王様の活動資金に!」


「活動ってなに!?」


 ルミナは額を押さえた。魔王なのに、勝手にファンが増えてる。怖い。怖いよ。


 参謀が横から囁く。


「魔王様、いま世間では“癒し系魔王”がトレンドです」


「トレンドってなによ?」


 その瞬間、玉座の間の奥からカタカタ音がした。さっきのスケルトンが、恐る恐る入ってきている。


「魔王様……」


「なに」


「勇者たち、講演って言ってましたけど……」


「言ってたね」


「もし講演するなら、僕らも聴いていいですか」


「なんで」


 スケルトンは照れたように言う。


「……僕らも、光の下を歩いてみたいんです。暗くない世界って、どんな感じか知りたいんです」


 ルミナは言葉を失った。


 自分の光が、彼らの”未知”をも照らしていた。


「……近づけないのに?」


「辛くても、魔王様に近づいてみたいんです」


 リッチも優しく頷いて


「魔王様。私もまだ、成仏しません。私も、あなたとお近づきになりたいので。あなたの光は厄介ですが」


「ごめん。厄介は否定しない」


 ゾンビも、壁際からそろそろと手を振った。遠い。遠いけど、確かにそこにいる。


 ルミナは笑ってしまった。


「……わかった。講演でも何でもやってやる。部下の望みを叶えてやるのも、魔王としての責務だろう」


 参謀が即座にメモを取る。


「タイトルはどうします?」


「魔王の威厳にふさわしいのを」


 参謀は書いた。


『魔王なのに光属性しか使えないダークエルフですが、アンデッドの部下が成仏しそうで困ってます。どうすればいいですか?』


「長いよ」


「サブタイトルです」


「メインは?」


 参謀、グレグが胸を張る。


『聖女様、ご降臨!』


「だから聖女、言うな——!」


 ルミナの叫びは、玉座の間いっぱいに響いた。


 響いた音が清らかすぎて、城門前の勇者たちは感動して涙を拭っていた。


「なんて澄んだお声……!」


 魔王城の空は、スッキリと晴れている。この魔王がいる限り、ずっとだ。


 アンデッドたちは距離を保ちながらも、少しずつルミナの光に慣れていく。


 魔王ルミナは、ため息をつきながら玉座に腰掛けた。


「魔王って……何だっけ」


 参謀がにこやかに答えた。


「光です」


「違うだろ」


「すみません。魔王がどうとか、わかりません。でもルミナ様は、確かにみんなの"光"なのです」


「……はぁ」


 そうして魔王は今日も光り続ける。


 不本意に。


 ものすごく、不本意に。



ランクインしました。

ブックマークや評価をいただいたおかげです。


◼︎ 日間・ハイファンタジー・短編 18 位(2026/1/2)

◼︎ 週間・ハイファンタジー・短編 44 位(2026/1/8)


本当に、ありがとうございます。


八海クエ

Xアカウント https://x.com/yakkaikue



他のランクイン作品もお楽しみいただけたら幸いです。


▶︎『チート無し転生村人A、剣と魔法の世界を終わらせる。』(短編/約2,000字)

https://ncode.syosetu.com/n5118lo/

・日間・異世界転生・短編 10 位(2025/12/31)

・週間・異世界転生・短編 24 位(2026/1/6)


▶︎『ナゲットを食べる音が告白となる場合は実在する』(短編→連載中)

https://ncode.syosetu.com/n3728lp/

・日間・現実世界・恋愛・完結済 3 位(2026/1/10)

・週間・現実世界・恋愛・完結済 13 位(2026/1/12)


▶︎『初恋を論文にしたら、なぜか査読が通らない件』(代表作/約22万字)

https://ncode.syosetu.com/n7354kx/

・日間・現実世界・恋愛・完結済 3 位(2025/12/17)

・週間・現実世界・恋愛・完結済 6 位(2025/12/24)

・月間・現実世界・恋愛 ・完結済 21 位(2026/1/11)

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― 新着の感想 ―
いいですね…!聖女系魔王! 笑 尊すぎてご来光差してる!? そりゃ魔族達は近づけませんね… だけどみんな慕ってる。めちゃくちゃいい人なんだろうな… ほっこりしました。 こんな魔王がいてもいいですね!!
とても面白かったです。 光属性の魔王というジャンルは斬新すぎますね!
こちらでは初めまして! とても面白かったです!最後は爆笑してしまいました。 最初から魔王様と一緒に突っ込んでしまいましたが、光のアンデッドにやられました。言葉のセンス……! 彼らは無事に光のアンデッド…
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