第46話 帝国軍進発
次話は明日19時に投稿予定です。
一週間後。
帝国の空は、まだ朝の薄い光に包まれていた。
だが――
魔王国に接する国境には、すでに大軍が集結していた。
重い鎧の音。
馬のいななき。
旗が風に揺れる。
帝国軍。
第一軍団。
第二軍団。
第三軍団。
三つの軍団が並び、広い平原を埋め尽くしていた。
その先頭に立つのは――
アルノー公爵。
帝国軍務大臣であり、全軍団長の総帥。
黒いマントを翻しながら、前方を見つめている。
その横にはアルト。
そして――
レグナ。
レグナは遠くを見ていた。
「……懐かしいですね」
小さく呟く。
「この先に魔王国があります」
俺は頷いた。
「一週間で終わらせます」
レグナは苦笑する。
「帝国は本当に恐ろしい国ですね」
その時。
アルノー公爵が振り返った。
「準備は整った」
低い声だった。
「第一軍団、第二軍団はここから進軍」
「第三軍団はすでに海から動いている」
俺は聞く。
「海軍は?」
アルノー公爵は短く答える。
「すでに出ている」
レグナの目がわずかに動いた。
アルノー公爵は続ける。
「第三軍団は海から上陸する」
「王都ヴァルディアの港を押さえる」
レグナは静かに頷く。
「それなら王都は孤立します」
アルノー公爵は言った。
「その通りだ」
そして地図を指す。
「第一軍団が北」
「第二軍団が東」
「海軍が南」
「三方向から包囲する」
俺は言う。
「逃げ場はないですね」
アルノー公爵は短く答えた。
「ない」
その時、伝令が駆けてくる。
「公爵閣下!」
アルノー公爵が振り向く。
「何だ」
「全軍、進軍準備完了です!」
アルノー公爵はゆっくりと前を見る。
魔王国へ続く大地。
その先にある国。
そして言った。
「進軍」
低い声だった。
だが――
その一言で軍が動いた。
無数の兵が歩き出す。
旗が揺れる。
地面が震える。
帝国軍は国境を越え、進み始めた。
魔王国へ。
七日で終わる戦争が――
今、始まった。
軍が動き始めてから、数時間。
帝国軍はすでに魔王国の領内へと深く入り込んでいた。
だが――
戦闘はまだ起きていない。
アルノー公爵が前方を見たまま言う。
「静かすぎるな」
低い声だった。
周囲には広い平原が広がっている。
魔王国の国境防衛軍の姿はない。
俺は言う。
「内乱の影響でしょう」
横にいるレグナも頷いた。
「今の魔王国には、国境を守る余裕はありません」
レグナは遠くを見ながら続ける。
「多くの兵は王都周辺に集まっています」
「第一王子と第二王子」
「互いに軍を集めている」
アルノー公爵は小さく息を吐いた。
「ならば好都合だ」
その時、後方から伝令が駆けてくる。
「報告!」
馬を止めながら叫ぶ。
「第二軍団より報告!」
アルノー公爵が振り向く。
「言え」
「魔王国の地方貴族軍と接触!」
空気が少し変わる。
「敵兵およそ三千!」
アルノー公爵は即座に聞いた。
「戦闘は」
伝令は答える。
「すでに終了しています!」
一瞬の沈黙。
「敵軍は降伏!」
レグナが小さく息を吐いた。
「やはり……」
アルノー公爵が短く言う。
「続けろ」
伝令は報告を続ける。
「敵指揮官および関係貴族を拘束!」
「現在、帝国軍が制圧中!」
アルノー公爵は頷いた。
「予定通りだ」
そして前を見た。
「進軍を続ける」
帝国軍は止まらない。
王都ヴァルディアへ。
そこに――
内乱の中心がある。
進軍開始から二日。
帝国軍はすでに魔王国の中央部に達していた。
街道のあちこちで、貴族軍の残党が現れる。
だが――
戦いと呼べるものではなかった。
帝国軍が現れた瞬間、降伏する者も多い。
抵抗したとしても、短時間で制圧される。
報告が次々とアルノー公爵の元へ届く。
「第二軍団より報告!」
伝令が叫ぶ。
「敵貴族軍を制圧!」
「敵将および関係貴族を拘束しました!」
アルノー公爵は頷くだけだった。
「次」
別の伝令が前に出る。
「第一軍団より報告!」
「東部貴族軍、降伏!」
「文官数名を拘束!」
レグナが小さく呟く。
「……もう崩れ始めていますね」
俺は前を見たまま答える。
「内乱の国は外敵に弱い」
アルノー公爵が低く言う。
「王都まであと二日」
その時。
また伝令が駆けてくる。
今度は海軍の旗を付けていた。
「第三軍団より報告!」
アルノー公爵が目を向ける。
「言え」
伝令ははっきりと言った。
「王都ヴァルディアの港を制圧!」
空気が変わる。
「海軍、上陸成功!」
「港湾地区を完全掌握しました!」
レグナの目が大きく動いた。
「……早い」
アルノー公爵は静かに言う。
「これで逃げ道はない」
王都はすでに――
包囲され始めていた。




