第43話:帝国側の作戦会議④
次話は明日19時投稿予定です。
会議室は静まり返っていた。
アルトの言葉が終わった後、誰もすぐには口を開かない
やがて、最初に口を開いたのはラインハルト公爵だった。
腕を組み、静かに言う。
「……確かに」
その一言に、空気がわずかに動く。
「理にはかなっていますね」
視線がアルトへ向く。
「海洋国の港」
「魔王国の海軍」
「そして帝国の軍」
ゆっくりと言葉を並べる。
「この三つが合わされば」
「帝国は海の力を手に入れる」
否定ではない。
むしろ、認めていた。
モンテリオ公爵も小さく頷く。
「造船技術の話も興味深い」
「魔王国の船は確かに優れている」
そして言葉を続けた。
「だが」
その一言で空気が締まる。
アルノー公爵が低く言った。
「問題がある」
鋭い視線がアルトへ向く。
「魔王国は長く帝国と対立してきた国家だ」
「そんな国を簡単に編入できると思いますか」
沈黙。
アルノー公爵は続ける。
「魔王国の貴族が黙って従うとは思えませんしね」
「反乱が起きる可能性もある」
さらに言う。
「そして海軍だ」
「魔王国の海軍を帝国軍に組み込むとして」
「誰が指揮を取る」
会議室の空気が重くなる。
モンテリオ公爵が静かに口を開いた。
「造船技術も同じです」
「技術というものは簡単には渡らない」
指を机の上で軽く叩く。
「職人」
「ギルド」
「利益」
「様々な問題が出てくるでしょう」
ラインハルト公爵も続ける。
「そして経済」
視線が鋭くなる。
「魔王国を編入すれば」
「税制度」
「通貨」
「交易」
「すべて調整が必要になる」
静かな声だった。
「国家を一つ取り込むというのは」
「そう簡単な話ではない」
三公爵。
帝国の柱たちが並べたのは、現実だった。
沈黙。
重い沈黙が部屋を満たす。
やがて皇帝がゆっくりと口を開いた。
「アルト」
視線が向く。
「答えられるか」
短い問いだった。
だがその意味は重い。
帝国の現実。
それすべてに答えられるか。
俺は――
小さく笑った。
「もちろんです」
会議室の空気が、わずかに揺れた。
俺は三公爵を見渡す。
「確かに問題はあります」
「魔王国は敵国だった」
「貴族の反発もあるでしょう」
「制度の違いもある」
一度言葉を切る。
「ですが」
俺は静かに続けた。
「海洋国も同じでした」
ラインハルト公爵の目がわずかに動く。
「海洋国も帝国と対立していた国家です」
「それでも」
「今は帝国に編入されています」
沈黙。
俺は肩をわずかにすくめた。
「もちろん問題は色々出るでしょう」
「貴族の反発」
「制度の違い」
「軍の再編」
指を軽く机に置く。
「ですが」
「国家を一つ編入するというのは」
「そもそもそういうものです」
静かな声で言った。
「問題が出るのは当然」
「ですが」
三公爵を見渡す。
「帝国は今までそれを乗り越えてきた」
そして言う。
「今回も同じです」
「問題は出る」
「ですが」
「どうにかなります」
静かな沈黙が落ちた。
だがその沈黙は、先ほどとは少し違っていた。
アルノー公爵がゆっくりと息を吐く。
「……随分と楽観的ですな」
低い声だった。
俺は肩をすくめる。
「楽観はしていません」
「帝国の力を信じているだけです」
アルノー公爵は俺を見つめたまま言う。
「仮にだ」
「魔王国を編入したとして」
「魔王国の海軍は誰が指揮する」
「帝国軍か」
「それとも魔王国か」
鋭い問いだった。
俺はすぐに答える。
「当然、帝国です」
「最終的な指揮権は皇帝に統合します」
モンテリオ公爵が腕を組む。
「では造船技術はどうする」
「魔王国の職人が帝国に技術を渡す保証はない」
俺は頷く。
「無理に奪う必要はありません」
三公爵がわずかに動く。
「技術は奪うものではなく」
「広がるものです」
モンテリオ公爵が目を細める。
「ほう」
俺は続けた。
「帝国の資金」
「帝国の資源」
「そして魔王国の技術」
「それを合わせれば」
「彼らにとっても利益になる」
ラインハルト公爵が静かに口を開いた。
「つまり」
「利益で動かすということか」
俺は頷く。
「商人も」
「職人も」
「国家も」
「最終的には利益で動きます」
会議室に再び沈黙が落ちる。
やがて。
ラインハルト公爵が小さく息を吐いた。
「……なるほど」
その声には、わずかな感心が混ざっていた。
アルノー公爵が腕を組み直す。
「理屈は分かった」
「だが」
「まだ一つ問題がある」
その言葉に、視線が集まる。
アルノー公爵はゆっくりと言った。
「その第四の公爵に第3王子は賛成するのですか?」
部屋の空気が、再び張り詰めた。
俺は少しだけ考えるように視線を落とし――
そして言った。
「賛成するでしょう」
三公爵の視線が集まる。
俺は静かに続けた。
「そもそも」
「王になるために帝国の力を求めてきたのは、彼の方です」
指を机の上に置く。
「帝国の支援で王になる」
「その代わり帝国に従う」
「話としては、むしろ分かりやすくなります」
アルノー公爵が低く言う。
「王ではなく公爵だぞ」
俺は頷く。
「ですが」
「帝国の公爵は」
「そこらの王より強い」
会議室が静まり返った。
三公爵は何も言わない。
だが、その沈黙は否定ではなかった。
皇帝がゆっくりと椅子に背を預ける。
「……なるほど」
低く呟いた。
そして三公爵を見渡す。
「意見はあるか」
三人はしばらく黙っていた。
やがてラインハルト公爵が小さく息を吐く
「問題は多い」
「だが――」
一度アルトを見る。
「不可能ではない」
アルノー公爵も腕を組んだまま言う。
「……少なくとも」
「話を聞く価値はある」
モンテリオ公爵も静かに頷いた。
皇帝はそれを見て、ゆっくりと笑う。
「よかろう」
その一言で、空気が変わった。
「では」
皇帝は言った。
「魔王国第三王子を呼べ」
帝国の未来を決める話が――
今、始まろうとしていた。




