3話:皇帝との会話
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次話は10日19時予定。
皇帝は、静かに僕を見つめ続けている。
その視線は、幼子を見るものではなかった。
未来を、見極めようとする目だった。
「アルト」
低く、はっきりと名を呼ばれる。
今の僕は、記憶を失った幼い子供だ。
そう振る舞うと決めている。
「はい」
「私はそなたの父シクタルン帝国皇帝だ」
皇帝と名乗る今世の僕の父は威厳に満ちていた。
空気をも支配するほどの圧力を皇帝から感じる。
「名をレオンハルト・シクタルンという」
「ちち?」
「そうだお主は私とここにいるレイラの子だ」
「れぃら?」
「お主の母、この国の王妃だ」
僕は目を豪華な服を着た女性に向ける美しい顔をしていた、地球なら1000年に1人の美女と言われるレベルの美女だ。
彼女はどこか不安げな顔で僕を見ていた。
彼女を見ていると彼女と目が合う、すると彼女は僕に話しかけてきた。
「アルト私が貴方の母よ、本当になにも覚えてない?」
少し落ち着いたのか僕の今世の母は静かに僕に聞いてきた。
「はは?」
「そうよあなたの母よ、貴方は私とここにいる陛下のたった1人の子なのよ」
「ぼくが子?」
「そうだなお主はアルト・シクタルンこの帝国の皇太子にして次期皇帝だ」
「こうたいし?」
僕が首をかしげると、皇帝――レオンハルトは小さく息を吐いた。
「皇太子とは、この帝国で皇帝の次に立つ者のことだ」
「つぎ……?」
「そうだ。いずれ、この国を治める立場になる」
「……ぼくが?」
「他に誰がいる」
皇帝は当然のように言い切った。
「この国には、厳格な身分制度がある」
「皇帝を頂点に、皇太子、皇族、貴族、騎士、平民、隷民」
「その序列は、絶対だ」
「どうして……?」
僕の問いに、皇帝は即座には答えなかった。
代わりに、一歩前へ出てきたのは王妃――レイラだった。
「それはね、アルト……」
彼女は少し言葉を選ぶように間を置く。
「この国では、力がすべてだからよ」
「ちから?」
「ええ」
皇帝が、再び口を開く。
「この世界にある“魔力”だ」
「まりょく……」
「魔力は、生まれながらに持つものではない」
その言葉に、側近たちが一瞬だけ緊張するのが分かった。
「魔力を持つのは、皇帝ただ一人」
「……ちちさまだけ?」
「ああ」
「そして、皇帝が与えた時にだけ、他者にも魔力は宿る」
「もらう……?」
「そうだ」
皇帝の視線が、僕を真っ直ぐ捉える。
「魔力を与えられた者は、身分を得る」
「貴族となり、騎士となり、国を動かす力を持つ」
「じゃあ……」
僕は小さく拳を握った。
「ぼく、まだない?」
「今はない」
皇帝は、はっきりと言った。
「皇太子であっても、魔力は与えられていない」
「どうして?」
「それは――」
皇帝は一度、言葉を区切る。
「魔力を与えるには、体が最低でも五歳になっていなければならないからだ」
「……ごさい?」
「そうだ」
「それより幼い体では、魔力に耐えきれない」
「無理に与えれば、肉体が崩れ、命を落とすこともある」
王妃の表情が、わずかに曇る。
「過去に……失敗した例があるのよ、アルト」
「……」
「だから、どれほど特別な立場であっても例外はない」
皇帝が静かに頷く。
「皇太子であろうと、余の子であろうとだ」
「じゃあ……」
僕は恐る恐る尋ねた。
「ぼく、まだ……まつ?」
「ああ」
「成長するまで、力は与えられぬ」
「それまでは、ただ学び、生きる」
「……わかった」
そう答えると、皇帝の表情がほんの僅かに和らいだ。
「それでいい」
「力とは、急ぐものではない」
「耐えられる者にのみ、与えられる」
その言葉は、未来の僕に向けられたもののように感じられた。




