36話:魔王国からの使者
次話は明日19時に投稿予定。
三公爵と皇帝との会談を終えた翌日。
俺は、自室に隣接する執務室で山のように積まれた書類を確認していた。
海洋国編入の後処理、晩餐会の準備。帝国が大きく動いた直後だけあって、机の上にはまだ整理しきれていない書類が並んでいる。
ペンを走らせながら報告書に目を通していると、部屋の扉が控えめに
トントン
と叩かれた。
「失礼いたします、アルト様」
落ち着いた声とともに扉が開き、執事長のセバスチャンが静かに入室してくる。
白髪をきっちりと整えた老紳士は、帝都でも名の知れた人物だ。
幼い頃からアルトの面倒を見てきた人物でもある。
アルトは書類から顔を上げ聞く。
「どうした、何か用か?」
そう問いかけると、セバスチャンは軽く一礼してから口を開く。
「魔王国から使者が来たとのことです」
「……魔王国?」
思わずアルトの手が止まる。
セバスチャンは続けた。
「使者は、自らを魔王国第三王子と名乗っております」
その言葉に、アルトの眉がわずかに動いた。
驚きだった。
魔王国からまだ返事が来ていないこと自体は想定の範囲だった。
だが――
返答のために王族、それも第三王子を直接送り込んでくるとは思わなかった。
それは明らかに、ただの外交ではない。
(……わざわざ王子を寄越すか)
アルトは椅子の背にもたれかかり、数秒だけ考える。
だが、考えても答えが出る話ではない。
「そうか」
短くそう言うと、アルトはゆっくりと立ち上がった。
「陛下には?」
セバスチャンはすぐに答える。
「すでに報告は届いております。現在、第3王子には客室でお待ちいただいております」
「分かった。陛下と話す」
「かしこまりました」
セバスチャンが静かに頭を下げる。
アルトは執務室を出た。
皇帝の執務室は、この階のさらに上に位置している。
廊下を歩きながら、アルトは考えを巡らせる。
魔王国。
大陸東方に位置する強大な国家。
帝国とは長い間、微妙な均衡関係を保ってきた相手でもある。
(ただの返答なら使者でいいはずだ)
わざわざ第三王子を送り込む理由。
牽制か。
交渉か。
それとも――別の意図があるのか?
いくつかの可能性を思い浮かべるが、決定的な答えは見えてこない。
結局のところ、会ってみなければ分からない。
そう結論づけた頃、アルトは皇帝執務室の前に到着していた。
重厚な扉の前で一度足を止める。
軽く息を整え、手を伸ばして扉を叩く。
コンコン。
数秒の沈黙の後、中から低い声が響く。
「入れ」
アルトは扉を開いた。
「失礼します」
部屋の中央では、皇帝が机に向かって書類を確認している。
アルトは一歩進み、口を開いた。
「魔王国の使者について、相談がありまして」
皇帝は顔をゆっくりと上げる。
「第三王子だな、私も先ほど報告を受けた。
今は客室で待たせている」
アルトは小さく頷いた。
「そうですか」
そして、少し間を置いてから本題を聞く。
「それで――」
「魔王国の返事は、どのようなものでしたか」




