第35話 晩餐会に集う者たち
次話は明日19時投稿予定
晩餐会という言葉が出た瞬間、会議室の空気がわずかに変わった。
政治の話から、外交の話へと移った合図だった。
「招待状への反応は、すでに出揃っています」
会議室の中央に、大陸全図が広げられた。
黄色で塗られた領域、シクタルン帝国が、大陸の三分の二以上を覆っている。
それを囲むように、皇帝と三公爵、そして皇太子アルトが立っている。
つい先ほどまで語られていたのは、海洋国編入の最終確認だった。
すでに決着のついた案件だ。
話題は、自然と次へ移った。
「晩餐会への返答は、ほぼ出揃いました」
三公爵の一人モンテリオ公爵が、淡々と告げる。
「参加を表明した国がブロドン共和国、タン王国そしてシドル大公国。
返答は保留だが、使節派遣の準備に入っている国がアジス獣王国都エストル樹国。」
「魔王国からの返事はまだ来ていません」
誰も驚かない。
それは、力関係が変わった直後の世界として、あまりに順当な反応だった。
「遅いな」
アルノー公爵が、地図の右端――魔王国の位置に視線を向け言う。
「無礼、というよりかは計算でしょう」
モンテリオ公爵が補足する。
「出席するか不参加でもいいのか、 今の段階で確定させる必要はないそういう判断だろう」
「様子見か」
「ええ。 帝国がいつどのような晩餐会を開くかを、最後まで見極めたいのでしょう」
皇帝は口を挟まない。
だが、その沈黙は許容を意味していた。
視線は自然と、参加を即答した国々へ戻る。
「ブロドン共和国は現実的だな」
「帝国化を既成事実として受け入れ、早めに立場を固めに来ている」
「タン王国も同様です。距離は離れていますが、物流と外交の流れが変わると理解しているよです」
「シドル大公国は――」
「帝国に最も順々な国ですから、参加しないという選択肢はありません」
その判断に、異論は出なかった。
「アジス獣王国とエストル樹国は?」
皇帝の問いに、モンテリオ公爵が答える。
「正式な返答は保留ですが、使節派遣の準備に入っているとの報告がありました」
「来るつもりではある、ということか」
「晩餐会そのものに参加しに来るっていうよりは、帝国が合併した帝国の“扱い方”を見に来るということでしょう」
アルトは、そのやり取りを静かに聞いていた。
「魔王国が来るかどうかで、場の空気は変わることになる」
誰かがそう漏らす。
「だが、来なくても問題はない」
アルトが、初めて口を開いた。
三公爵の視線が集まる。
「参加するなら、席は用意します。しないなら、それも一つの意思表示です。今この帝国の用意した場を断る国は敵対の意思がアルトして考えればいい。」
アルトは地図から目を離さないで言う。
「どちらであっても、帝国の立場は変わらない」
皇帝は、ゆっくりと頷いた。
「返答は、向こうの判断に任せよ」
それで十分だった。
晩餐会は、招くだけの場ではない。並べ、測り、帝国の強大さを理解させる場だ。
誰が来て、誰が来ないのか。
それ自体が、すでに外交だ。
そして、魔王国の沈黙もまた――
帝国にとっては、想定の範囲内だと言うこと。




