第33話:帝国内布告、世界の反応④
次話は明日19時に投稿予定です。
デスト魔王国
――暗力の国、世界の外側
デスト魔王国は、
魔力の国ではない。
この世界に存在する二つの力。
一つは、
皇帝が管理し、秩序として循環させる力――魔力。
もう一つは、
世界の歪み、感情、死、恐怖、欲望から滲み出る力――
暗力。
デスト魔王国は、
後者のみで成り立つ国家だった。
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帝国の使者が踏み入れた瞬間、
それははっきりと分かった。
土地そのものが、
魔力を拒絶している。
代わりに流れているのは、
濁り、沈殿し、淀んだ力。
「……魔力が、薄い?」
護衛の騎士が呟く。
否。
薄いのではない。
上書きされているのだ。
魔力の循環は断ち切られ、
暗力が空間そのものを支配している。
この国では、
魔力は“異物”だった。
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城門に至る前。
使者は、正式な外交手順を取る。
「シクタルン帝国より国書を――」
言葉は、途中で終わった。
詠唱はない。
攻撃の動作もない。
ただ、
暗力が意思を持って触れた。
それだけで、
使者の存在は崩れた。
血は流れない。
傷もない。
魔力で守られた肉体が、
暗力に“分解”されたのだ。
護衛も同じだった。
剣も、鎧も、
魔力付与も意味を成さない。
暗力は、
管理される力ではない。
拒絶も、交渉も、
最初から成立しなかった。
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玉座の間。
そこに座すのは、
魔王。
だが彼は、
皇帝のように力を管理しない。
暗力は、
彼を中心に溜まり、歪み、増幅する。
「帝国が、
海を呑んだか」
魔王の声は、
人の感情を直接揺さぶる。
「魔力の秩序が、
また一段、広がった」
玉座の周囲で、
影が蠢く。
それは兵ではない。
暗力が形を持っただけの存在だ。
「我らは、
秩序に属さぬ」
「魔力に管理されぬ」
「世界樹にも、
皇帝にも、
皇太子にも――」
一拍。
「従わぬ」
魔王は、
踏み潰された帝国国書を見下ろす。
「帝国が世界を一つにまとめるなら」
「暗力は、
必ずその外側に溢れる」
それが、
この国の存在理由だった。
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後日。
帝都に上がった報告は、
簡潔だった。
デスト魔王国、暗力濃度極大。
魔力循環、完全断絶。
使者、暗力干渉により消失。
皇帝は、静かに書類を閉じる。
「暗力か」
アルトが、即座に答える。
「はい」
「魔力とは、
根本的に別系統の力です」
「管理も、
分配も、
奪取もできない」
皇帝は、短く言った。
「だからこそ、
危険だ」
アルトの視線は、
揺るがない。
「ですが」
「暗力は、
世界の歪みから生まれます」
「秩序が広がれば、
必ず影も生まれる」
一拍。
「ならば、
影を理解した上で、
世界を支える必要があります」
皇帝は、
ゆっくりと頷いた。
「よく見ている」
この時、
帝国は明確に認識した。
デスト魔王国は、
敵対国家ではない。
秩序そのものに対する対極点。
魔力で世界を統一しようとする帝国に対し、
暗力は必ず発生する。
避けられない歪み。
そして――
いずれ、必ず向き合うべき存在。
世界は今、
二つの力を軸に動き始めていた。
魔力による秩序と、
暗力による歪み。
その狭間に立つのが、
皇太子アルトであることを――
まだ誰も、完全には理解していなかった。




