第26話:三つの柱、一つの判断
次話は明日19時投稿予定です。
「では、最初の議題に入ります」
皇太子アルトの声が、会議室に静かに響いた。
「軍の立ち位置と配備について」
視線が、西方面の席――
ヴィクトル・アルノー公爵へ向く。
「ヴィクトル公爵」
「海洋国編入後の、軍事的評価を」
⸻
ヴィクトルは一拍置き、口を開いた。
「結論から言おう」
「現状、増兵は不要だ」
セドリックが眉を動かす。
エドガーは黙って聞いている。
「港湾部と沿岸線は、すでにほとんどん皇族領で押さえられている」
「兵站線は帝都直結」
「反乱を起こせる“軍事的余地”が存在しない」
ヴィクトルは、アルトを見る。
「属国にしなかった判断が、ここで効いている」
「駐屯軍を置けば、
それ自体が“占領の象徴”になる」
「今は、
治安部隊のみで十分だ」
アルトは頷く。
「つまり」
「武力は見せず、
だが、いつでも出せる位置に置く」
「抑止ですね?」
「その通りです、殿下」
ヴィクトルの口調は、
いつの間にか“皇太子”として扱っている。
「次に」
アルトは視線を移した。
「生産系組織の再編と配当」
「セドリック公爵」
セドリックは、即座に答える。
「海洋国の生産拠点は、
すでに帝国規格へ移行中だ」
「造船、製塩、魔導具補修」
「いずれも技術は高い」
一拍。
「問題は、誰に利益を渡すかだ」
アルトが問う。
「結論は?」
「分散だ」
セドリックは迷わない。
「旧貴族にまとめて与えれば、
力が再集中する」
「帝国直轄工房、
複数ギルドへの分配、
技術者個人への直接契約」
「“組織”ではなく、“機能”に金を流す」
アルトは、静かに言う。
「反乱資金を生まない形ですね」
「はい」
「同時に、生産は落ちない」
セドリックは、わずかに笑った。
「殿下の編入方式が、
この再編を可能にしています」
⸻
「最後に」
アルトは、南方面の席を見る。
「経済」
「エドガー公爵」
エドガーは、腕を組んだまま答えた。
「海洋国消滅は、
本来なら市場を揺らす」
「だが、今回は逆だ」
セドリックが口を挟む。
「安定しているな」
「意図的に、だ」
エドガーはアルトを見る。
「港湾を皇族領で押さえた」
「塩を直轄管理にした」
「価格決定権が、
最初から帝国側にある」
一拍。
「投機する余地がない」
アルトが言う。
「つまり、
“儲けすぎる者”を作らなかった」
「そうだ、殿下」
エドガーは、はっきり言った。
「経済は、
敵を作らないことが最優先だ」
「その点で、
今回の編入は理想的だ」
⸻
三つの報告が出揃う。
軍は抑止。
生産は分散。
経済は安定。
アルトは、ゆっくりと口を開いた。
「では、総括します」
三公爵の視線が集まる。
「軍は最小限で示威せず」
「生産は機能単位で再配分」
「経済は、
帝国主導で流れを固定」
一拍。
「この方針で、
異論はありますか?」
沈黙。
ヴィクトルが、短く言った。
「ない」
セドリックも頷く。
「合理的だ」
エドガーは、口元を緩める。
「皇帝陛下に、
そのまま出せる案だな」
アルトは、静かに結論を告げた。
「では、
この内容で進めます」
「帝国として」
その言葉に、
三公爵は理解した。
――この会議を動かしているのは、
すでに“皇太子”ではない。
統治者だ。
三公爵会議は、
確かな合意のもと、次の段階へ進んだ。




