第25話:集う者たち
次話は明日夜19時投稿です。
帝都シクタルン、皇城地下・高位転移区画。
最初に転移陣が輝いたのは、西方面直結の陣だった。
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光が収まると同時に、
ヴィクトル・アルノー公爵が現れて転移陣から一歩踏み出す。
帝国西方方面総督。
帝国の武と防衛を一手に担う男。
鎧は着ていない。
だが、その立ち姿だけで武の象徴であると分かる。
(皇太子主導の三公爵会議、か)
海洋国編入。
それを“戦”ではなく、統合で終わらせた判断。
ヴィクトルの脳裏に、
ある光景が浮かぶ。
――五歳の誕生日。
――魔力授与の儀式。
皇帝の魔力を、
一人の子が受け入れた瞬間。
(あの時点で、
器が違った)
通常なら拒絶か暴走。
だが、アルトは“受け取った”。
(今思えば、
国を力で制圧せずに済ませたのも当然か)
武を担う者として、
それは最高の評価だった。
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次に光を放ったのは、東方面直結の転移陣。
現れたのは
セドリック・モンテリオ公爵。
生産系ギルド総元締め。
鍛冶、魔導具、農業、鉱業――
帝国の生産に関わる全てを管理する男。
(……安定している)
海洋国編入後の物流。
資材価格の変動。
生産拠点への影響。
(一切、乱れていない)
セドリックもまた、
五歳の儀式を覚えている。
測定不能になった魔力容量。
(あれは、
“溜める”器じゃない)
(同時に“回す”ための器だ)
国家一つ分の制度と人を、
詰まらせずに流し続けた。
(生産が止まらない理由が、
はっきりしている)
評価は、すでに揺るがなかった。
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最後に転移してきたのは、南方面直結。
エドガー・ラインハルト公爵。
商人連合会長。
帝国経済大臣。
帝国の経済をすべて任されている男。
彼は、転移陣から出るなり、
帝都の空気を吸い込む。
(市場は落ち着いている)
海洋国という“経済爆弾”が消えたにも関わらず。
価格操作もない。
混乱もない。
(力を使っていないのに、
結果だけは完璧)
五歳の魔力授与の儀。
あの時から、
彼は密かに考えていた。
(この皇子は、
“経済を壊せるし、救える”)
そして今、
後者を選んだ。
(……評価せざるを得ん)
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三公爵が揃う。
帝国の武。
帝国の生産。
帝国の経済。
そして――
その中心に座る者。
五歳で帝国の魔力を受け入れ、
今、力を振るわずに国家を統合した皇太子。
アルト・シクタルン。
三人の公爵は、
同じ結論に至っていた。
(もはや、
次代の皇帝候補ではない)
(帝国を動かす思考を持つ存在だ)
重厚な扉が開く。
三公爵会議は、
本当の意味で、始まろうとしていた。
重厚な扉が、静かに閉じられる。
会議室に残されたのは、
帝国を支える三公爵と、
その中心に座る皇太子ただ一人。
一瞬の沈黙。
その沈黙を破ったのは、
皇太子アルトだった。
「本日の会議に集まってくれたことをまず感謝しる」
声は落ち着いている。
年若さを感じさせない、明確な発声。
「ヴィクトル・アルノー公爵」
視線が、西方面の席へ向く。
「セドリック・モンテリオ公爵」
東方面。
「エドガー・ラインハルト公爵」
南方面。
三人は、それぞれわずかに頷いた。
アルトは続ける。
「本会議は、皇帝陛下の裁可のもと」
「旧ダスメア海洋国の帝国編入に伴う、
中枢対応を議論する場です」
一拍。
「本日は、対等な議論を望みます」
その言葉に、
三公爵の目がわずかに細まった。
若き皇太子が、
“意見を聞く”ではなく、
“議論をする”と言った意味。
「忌憚なき意見を」
「帝国にとって最善となる結論を、
ここで導きたい」
言葉は丁寧。
だが、主導権は完全に握っている。
ヴィクトルが、口元を僅かに緩めた。
セドリックは、内心で評価を上げる。
エドガーは、興味深そうに視線を向けた。
そして、
アルトは最後にこう告げる。
「では――」
「三公爵会議を、開始します」
その宣言をもって。
三公爵会議は、
本当の意味で、始まった。




