第21話:身分と土地の再配置
次話は明日19時に投稿予定です。
伯爵領メント、仮設執務室。
壁に広げられた地図には、
すでに「旧ダスメア海洋国」という国名は書かれていない。
そこにあるのは、帝国領として貴族領の境界線。
――管理のための線だけだ。
アルトは地図の前に立ち、静かに告げた。
「次に、旧王国支配層の爵位および領地再配置を行います」
裁きではない。
粛清でもない。
これは、帝国式の再定義だ。
「まず、旧ダスメア国王レオニス」
アルトは書類を一枚めくる。
「国家を終わらせる決断を行った点を評価して」
「あなたには帝国侯爵位を与えます」
「併せて」
アルトは続けた。
「王都周辺に、帝国侯爵領相当の領地を与えることとします」
「ただし」
声は淡々としている。
「軍事権は一切認めない」
「行政権も限定的なものに留める」
それは名誉であり、
同時に完全な管理下に置く配置だった。
⸻
「次に、旧王国公爵位保持者二名には」
アルトの指が、地図上の二つの大きな領域をなぞる。
「両名ともに、帝国伯爵位へ降格させます」
「前公爵領を縮小し、帝国伯爵領相当な領として再編」
軍務官が短く頷く。
「港湾・流通・軍備に関する直接統制権は剥奪」
「帝国監査官を常駐させ、管理権は帝国が保持」
伯爵としては破格の監視体制だ。
だが、それだけ
旧公爵領が危険度の高い地域であることを示していた。
⸻
「旧王国侯爵および伯爵」
アルトは一拍置いてから告げる。
「全員、帝国子爵位へ降格」
「領地は縮小」
「徴税権は限定的に付与」
「帝国法の直接監査対象とする」
ここまでは、まだ“貴族”としての体裁が残る。
だが――
⸻
「旧王国子爵以下」
アルトの声が、わずかに低くなる。
「全員、領地没収」
即断だった。
「爵位は騎士爵へ再編」
内政官が確認する。
「世襲、ですね?」
「はい」
アルトは頷く。
「騎士爵は世襲制とする」
「ただし」
視線を上げ、はっきりと告げる。
「行政権・徴税権・独自裁量は一切認めない」
「役割は、軍務・技術・行政補助のいずれかに限定」
それは降格でありながら、
完全な排除ではない。
「帝国は、血統ではなく役割を残します」
「だが、力を集中させることはしない」
反乱の芽は、
制度の段階で摘み取られていた。
⸻
アルトは、最後に地図へ線を引く。
国境線ではない。
帝国の管理線だ。
「以上をもって」
「旧ダスメア王国の身分制度および領地配置は、完全に再編」
「本日付で、帝国直轄州として登録します」
誰も異議を唱えなかった。
合理的すぎて、
感情を挟む余地がない。
アルトは、心の中で静かに思う。
――帝国は、滅ぼす国じゃない。
――使える形に直すだけだ。
そして、その判断を下したのは、
もはや“学ぶ皇太子”ではなかった。
統治を行う者だった。




