第20話:最終回答
次話は明日19時予定です。
長卓を挟み、
帝国側とダスメア海洋国側は、再び正対していた。
配置は変わらない。
だが、空気だけが――決定的に変わっている。
先ほどまで、部屋の角で小さく固まっていた王国側が、
ゆっくりと姿勢を正したのだ。
それだけで、
“結論に達した”ことは誰の目にも明らかだった。
アルトは、何も言わない。
急かす必要がなかった。
逃げ道は、すでに存在しない。
国王レオニスが口を開く。
「皇太子アルト・ノルトハイン殿下」
声は静かだが、はっきりとしている。
「我がダスメア海洋国は、先ほどまで――
王国としての存続を前提に、思考しておりました」
重臣たちが、黙って頷く。
「しかし」
国王は、視線を逸らさない。
「我が国が行った、帝国経済への敵対行為」
「そして、それを“内部から”許したという現実」
言葉一つ一つが、
自国への断罪だった。
「属国という形は、我が国には相応しくありません」
その瞬間、
王国側の空気が、完全に切り替わった。
「我々は、すでに信を失っている」
「それを前提とした存続は、
いずれ再び帝国に害をなす」
国王は、深く息を吸う。
そして――
決定的な一言を、口にした。
「ゆえに」
「ダスメア海洋国は」
一拍。
「シクタルン帝国への、無条件編入を受け入れます」
沈黙。
だがそれは、動揺ではない。
“確認の沈黙”だった。
アルトは、ゆっくりと頷いた。
「承知しました」
短く、無駄のない返答。
だが、その一言が意味するものは――
国家一つの消滅だ。
「本日、この時をもって」
アルトは続ける。
「ダスメア海洋国は主権を放棄し」
「帝国領として再編されます」
「王号、国号、独自外交権は失効」
「全軍は武装解除」
「行政・司法・流通は、帝国法に即時移行」
淡々と告げられる“処理内容”。
それは処罰ではない。
手続きだった。
「異議は?」
アルトの問いに、
国王は首を横に振る。
「ありません」
「我が国は、敗北しました」
「そして、選択しました」
アルトは、わずかに目を細める。
評価している。
だが、情は挟まない。
「そして、第二王子リヒト殿下」
その名が呼ばれた瞬間、
会談室の空気が一段、冷えた。
「帝国経済への干渉を主導し、
国際秩序を乱した責任者として」
「身柄の即時引き渡しを要求します」
国王は、ためらわず頷く。
「すでに拘束の準備は整っています」
「引き渡しに、条件はありません」
第二王子リヒトは、何も言わなかった。
その沈黙こそが、
すべてを認めた証だった。
アルトは、最後に告げる。
「帝国は、降伏した民を敵として扱いません」
「しかし」
声が、わずかに低くなる。
「帝国に害をなした者には、
必ず責任を取らせます」
それは脅しではない。
宣言だった。
国王は、深く頭を下げる。
王としてではない。
一国の代表として。
「……どうか」
「国民だけは、守っていただきたい」
アルトは、即答した。
「それが、帝国編入の前提です」
「ご安心ください」
会談は、そこで終わった。
いや――
国家としてのダスメアは、そこで終わった。
アルトは立ち上がり、
最後に一度だけ、王国側を見渡す。
「本日をもって」
「帝国の敵は、一つ減りました」
「そして」
「帝国の領土が、一つ増えました」
その言葉は、
勝利宣言ではなかった。
ただの事実確認だった。
皇太子は、すでに次を見ている。
仕事は、まだ終わらない。




