第10:上位貴族の自己紹介
次話は15日19時投稿します。
「まずは、公爵と辺境伯の自己紹介をしよう」
父――皇帝はそう告げると、居並ぶ公爵たちに視線を向けた。
「では、私から参りましょう」
そう言って、一人の男が一歩前へ出る。
「ヴィクトル・アルノーと申します。帝国防衛大臣として、全軍総帥および近衛騎士団長を務めております」
引き締まった体躯に、爽やかな笑み。
筋肉質なその男は、帝国における“武”のすべてを一手に担う存在だった。
続いて、金髪の男が穏やかに前へ出る。
「セドリック・モンテリオです。生産大臣を拝命しております。また、本国の生産系ギルド統括――《グランドマスター》も兼任しております。殿下、これからよろしくお願いいたします」
有能さを自然に滲ませるその微笑みは、まさに“できる男”という印象を与えた。
三人目は、落ち着いた雰囲気を纏った中年の男だ。
「エドガー・ラインハルト。経済大臣を務めております。東方公爵として、商人連盟の会長も兼任しております」
柔らかな物腰の奥に、鋭さを隠した男。
帝国の“金と流れ”を掌握する人物だ。
三人が元の位置に戻ると、父は軽く頷いた。
その間、辺境伯たちは一歩後ろで静かに待っている。
前に立つ公爵たちと、控える辺境伯たち。
その立ち位置だけで、役割の違いははっきりしていた。
父は視線を辺境伯たちへ移す。
「次は辺境伯だ。
お前が将来、直接向き合うことになる連中だ」
最初に前へ出たのは、体格のいい男だった。
「グラハム・アイゼンヴァルト辺境伯です。
タン王国方面を預かっています」
「タン王国とは、今も緊張した関係にある。
戦争にはなっていないが、国境は常に張りつめている」
父がそう言うと、アイゼンヴァルト辺境伯は深く一礼した。
その視線が、一瞬だけアルノー公爵の方へ向いたのを、俺は見逃さなかった。
「その最前線を任せている男だ」
次に、落ち着いた男が前に出る。
「ロドルフ・クレイヴェン辺境伯です。
ブロドン共和国方面を担当しています」
「ブロドン共和国との関係は、今のところ安定している。
平和と言っていい状況だ」
父は一拍置き、続けた。
「だが、平和な国境ほど油断しやすい」
クレイヴェン辺境伯は黙って頷く。
続いて、二人の辺境伯が並んで一歩前へ出た。
「アルベール・ヴァレンティス辺境伯です。
アジス獣王国方面を預かっています」
「ディートリヒ・ブラウシュタイン辺境伯です。
同じく、獣王国方面を防衛しています」
父の声が、わずかに低くなる。
「獣王国とは、現在進行形で戦争中だ」
二人は同時に、無言で頷いた。
「補給と兵の再編は、すでに手配しています」
短くそう補足したのは、アルノー公爵だった。
辺境伯たちは何も言わない。
その必要がないことを、全員が理解している。
次に、穏やかな雰囲気の男が名乗る。
「ユリウス・カーマイン辺境伯です。
エストル樹国方面を管轄しています」
「表向きは独立国だが、実態は帝国の影響下にある。
今は穏やかだ。無用な波風を立てる必要はない」
父の言葉に、カーマイン辺境伯は静かに一礼する。
さらに一人が進み出た。
「バルタザール・ノルトハイン辺境伯です。
ダスメア海洋国方面を預かっています」
「ダスメアとは剣では戦っていない。
だが交易と海では、常に競り合っている」
「商人連盟との調整は、こちらで進めています」
今度は、モンテリオ公爵が淡々と口を挟んだ。
ノルトハイン辺境伯は、何も言わずに頷くだけだった。
次の名を呼ぶとき、父は一瞬だけ言葉を選んだ。
「オスカー・リンドグレン辺境伯です。
デスト魔王国方面を担当しています」
「魔王国については、分からないことが多い。
だからこそ最も危険だ。
“分からない”という状態を、決して甘く見るな」
場の空気が、わずかに張りつめる。
最後に、一人の男が静かに前へ出た。
「セシル・デュラン辺境伯です。
シドル大公国方面を任されています」
「シドル大公国は帝国の属国だ。
だが属国であっても、管理を誤れば火種になる」
すべてを言い終えると、父は改めて俺を見た。
「これが帝国の外縁だ。
最前線を預かるのは辺境伯。
それを束ね、動かすのが公爵だ」
そして、はっきりと告げる。
「――そして、そのすべての責任を負うのが皇帝であり、
いずれはお前だ」
その言葉を聞きながら、俺は理解する。
辺境伯は壁だ。
公爵は歯車だ。
そして、父は――この巨大な装置そのもの。
――俺が継ぐのは、王座だけじゃない。
この国が抱える、“すべての最前線と支配構造”なのだ。




