2月_第2週
今日で仕事も終わり、明日は週末イベントの日。
家でくつろいでいる時にふと思う。
「そういえばさー」
四「なんだぴょん?」
「四季は最近呼ばなくても、ずっといるよね?」
四「それは秋くんのせいぴょん」
桜雅と和波のそれぞれのイベントで、
謎にモブキャラの好感度を上げてしまうせいで、最近は四季に監視されている。
俺も四季がいるのが当たり前になってしまっていた。
「それはごめん」
四「まあ何かあった時に、すぐ助けられた方がいいぴょん」
「ありがとう」
四「そろそろ寝るぴょん?」
いつもはもう寝る準備をする時間だが、今日はなんだか外に出たい気分だった。
「今日は散歩でも行こうかな」
四「珍しいぴょんね、スーツでは絶対に出ようとしないのに」
「うん、なんか外行きたくて。出られるよね?」
四「行けるぴょん。まあもれなくボクが付いてるぴょん」
「え?いいよ。一人で行けるよ」
四「夜に一人ぴょん!今までさんざん問題起こしてきた秋くんが、一人で出れると思ってるぴょんか?」
「すみません、お願いします」
四「しょうがないぴょんね」
こんな夜にお供させるなんて申し訳ないと思ったが、
ドヤッとする四季を見てまあいいかと思い、スーツに着替える。
玄関ドアを開けると、ちょうど人が通るところだった。
「あ、すみません!」
?「いえ、こちらこそ…あれ?この前の?」
その声に顔を挙げるとそこにいたのは…
「あつ…五十嵐さん!?」
淳「こんばんは」
「こんばんは」
先週大学で会った、事務所の後輩で和波と大学の同級生でもある、五十嵐淳だった。
「ごめんなさい、ぶつかってないですか?」
淳「いや、全然。というか、ご近所さんだったんですね」
「ご近所さん?」
淳「僕の家ここなんで」
そう言って指を指したのは、俺の隣の部屋だった。
「え!?そんなことあります?」
淳「まさかですよね…えっと秋守さん」
「あ、合ってます。秋守です。」
淳「こんな夜にどこに行くんですか?」
「散歩でもしようかと」
淳「こんな遅くに?女の子一人じゃ危ないですよ!僕も行きます!」
「あー」
淳は俺を女の子だと思ってるんだっけ…
淳「ご迷惑ですか?」
そう言って、俺より背が高いのに、上目遣いでこっちを見てくる。
昔から淳のこの目に弱い。
「でも五十嵐さん、今帰ってきたところですよね?」
淳「明日は仕事が午後からなんで、大丈夫ですよ」
「いつもお忙しいからたまにはゆっくりした方が…」
淳「僕も今からお散歩する予定だったんで」
「…じゃあ、お言葉に甘えて」
淳の圧に負けて頷いてしまった。
淳「ありがとうございます!じゃあ僕荷物置いて着替えてくるんで、少し待っててください」
そう言って、隣の部屋に消えて行った。
「グイグイ来られて、断れなかった…」
四「まあ他のモブにちょっかいかけられるより、いいんじゃないぴょんか」
「いや、女と思ってる後輩と出かけるって、気まずすぎるでしょ」
四「もし仲良くなれば、琉征くんの情報が手に入って、好感度も上がるかもしれないぴょん」
「それは大事だけど…」
淳「お待たせしました!」
四季と話しているとマスクをして、深くキャップを被り変装した淳が戻ってきた。
女性と思っている俺と歩くためのスキャンダル対策だとは思うのだが、
淳のモデル体型は隠せるわけもなく、スーツの俺と歩くとより目立つ気がする。
淳「行きましょうか」
「はい」
マンションを出て、いろいろな話をしながら夜道を二人で歩く。
たまに気を遣われていると思う部分はあるものの、
それ以外は、以前と変わらない淳のままで、久しぶりに楽しかった。
淳「どうして、こんな夜に出かけようと?」
「なんか、お散歩したくなって」
淳「スーツで?」
「…服なくて」
淳「そうなんですか?僕小さくなった服何着か持ってて、いります?」
「欲しいです!」
このスーツ生活が嫌すぎて、考えるよりも先に答えてしまった。
「あ、いやでも…」
淳「全然嫌じゃなければ、僕もう着れないんで、僕のお家いきましょうか」
「はい、じゃあお言葉に甘えて」
散歩を早々に切り上げ、淳の部屋へお邪魔する。
隣の部屋ではあったが、俺の部屋リビングだけでも俺の部屋2つ分くらいある広さがある。
家具はシンプルな黒や白でまとめられていて、本棚には難しそうな本や、淳が表紙を飾った雑誌が並んでいた。
淳「ちょっとそのソファーで待ってください。持ってきますね」
「ありがとうございます。」
そう言って、淳はクローゼットがあるであろう部屋に消えていった。
四「のこのこついてきていいぴょんか?」
「淳はこの前のスタッフとは違って紳士だから大丈夫だよ」
四「男はみんな狼ぴょん。今の秋くんなんて、すぐ食べられちゃうぴょんよ」
「俺可愛くないし淳の好みじゃないよ。俺ほぼ筋肉で食べても美味しくないから」
四「そういう意味じゃないぴょん」
淳「お待たせー」
そういって淳は何着か服を持ってきてくれた。
「いっぱいありがとうございます」
淳「これとか似合うと思うんですけど」
「ありがとうございます」
淳から受け取ったのは、黒いニット。
早速着ようと、ジャケットを脱ぐ。
淳「待って待って待って!」
急に淳が慌て出す。
どうしたんだと首を傾げると
淳「ここで着替えるつもりですか?」
「サイズの確認を」
淳「俺、一応男なんだけど」
「知ってます」
淳「女性が男の前で着替えるのはちょっと…」
「でもTシャツ着てますよ」
そう言って服をめくろうとすると、淳は慌てて顔を両手で覆っている。
俺を女と思っているから当然の反応なのだが、あまりにもウブな反応に少しからかいたくなる。
「いやなら、後ろ向いてて」
淳「嫌とかじゃなくて!こっちで着替えてください」
少し顔を赤くした淳に洗面所に押し込まれた。
そんなに意識しなくていいのにと思いながら着替えて、淳の元へ戻る。
「どう?」
淳「…かわいい」
「え?」
淳「俺のだからちょっとサイズ大きいおかげで、首元開きすぎて鎖骨見えてるし、袖長くて細い指だけ見えてんのもいいし、体のシルエットスッキリしてるやつだから、ウエストとかお尻のシルエット丸わかりで全体的にやばい」
とてつもなく早口で何か言われたけど、ほとんど聞き取れなかった。
四「こいつむっつりぴょん」
「え?」
淳「秋守さん!」
急に大きい声で名前を呼ばれたかと思えば、淳両肩を持たれていた。
「は、はい」
淳「この服あげますけど、僕以外の前で着ないでください」
「それじゃ意味ない…」
淳「他に服あげますから、それ着ましょう」
「は、はあ」
俺はそれから言われるがまま、ありとあらゆる淳の服を着た。
パンツはほとんど丈が長すぎたため、まだギリギリセーフな1着を。
上の服は3着もらったが、そのうち2着は「僕の前では着ないでください」と念を押されたため、実質1着となった。
スーツ生活になっていたため、私服がワンセットあるだけでもだいぶ違う。
さっそくもらったパンツと、なぜか淳が気に入った黒ニットをもう一度着て玄関へ向かう。
「お洋服いっぱいありがとうございます」
淳「いえいえ。一つ聞いてもいいですか?」
「なんですか?」
服を両手にかかえ、帰ろうと玄関で靴を履く前に、淳から声をかけられる。
淳「秋守さんは平気なの?」
「なにがですか?」
淳「男の部屋とか、男の服とか」
淳は気にしているようだが、俺は男なのでなにも気にならない。
「前会った時に和波さんが言っていたように、俺男なんです。だから大丈夫ですよ」
淳「こんな綺麗な女性を男だなんて…」
「ほんとなんです、だから五十嵐さんも気にしないでください」
淳「じゃあ…敬語なくしませんか?」
「何故?」
淳「仲良くなりたいんです」
そう言って真剣に見つめてくる淳に、相変わらず可愛い後輩だなと思う。
「いいよ」
淳「やった」
「でも仕事は敬語にさせて、プライベートだけね」
淳「なんか特別感あるね…わがままもう一個いい?」
「何?」
淳「下の名前で呼んでいい?僕のことは淳って呼んで」
「わかった、煌いいよ、淳」
ちゃんと確認するなんて可愛いなと思って笑って呼ぶと、何故か思いっきり抱きしめられる。
「え?何!?」
淳「煌さん、普段クールビューティーみたいな見た目して、笑うと可愛いんだもん」
「淳の方がかわいいよ」
淳「何それ」
ぷくっと膨れっ面になる淳に、やっぱり可愛いなと思う。
ピンポーン
淳「いいところだったのに、ちょっと待ってて」
チャイムがなり、淳がインターホンで対応している。
まあまあ夜遅いのに誰だろう。
ちょっとすると戻ってきた。
淳「ごめん、琉征が来ちゃった、予定してたの忘れてた」
和波がここへ来るらしい。
別にやましいことはしていないのにちょっと焦る。
「じゃあ帰ろうかな」
淳「どうせ隣だからゆっくりしていけばいいのに」
「いやでも」
押し問答していると、玄関のドアが開く。
琉「え?なんでいるんですか?」
明らかに変な顔をしている和波。
「いや、あの」
淳「煌さんお隣さんなの、だからご近所のよしみでお洋服をあげたんだよ」
琉「煌さんって呼んでんの?」
淳「仲良しだもん、ね?煌さん」
「そ、そうだね」
和波は普段からポーカーフェイスなので、感情がわかりにくいのだが、いつも以上に無表情で今は特にわからない。
怒ってるわけじゃないよね?
「じゃあ僕はそろそろ」
淳「帰っちゃうの?」
「もらった洋服もありますし」
琉「今着てる服も淳があげたの?首元開きすぎ。秋守さんには大きいんじゃないの?」
和波は上から下まで見て、俺の来ている黒ニットの首元を引っ張る。
淳「あ、首元触んないで!だから僕以外の前で着ないでって言ったのに」
「いやこれは不可抗力…」
淳「琉征に綺麗な鎖骨見せるなんて勿体無い!離れて!」
琉「お前、勿体無いってなんだよ」
「じゃあすみません、お邪魔しました」
何か言い合っているが、そそくさと玄関扉を開けた。
すると視界が白くなり、隣の部屋にワープした。
この感覚…と外を見ると夕方、卓上カレンダーは週末になっていた。
「どういうこと!?」
四「これがイベントだったと言うことぴょんね」
「詳しく!」
イベントは自分からするものもあれば、勝手に発動するイベントがあるらしく、今回のイベントは勝手に発生したものだった。
つまり好感度をあげるイベントが一つなくなり、お休みもなくなった。
「いや、和波いたの少しだったじゃん」
四「おそらく淳くんとのイベントぴょん」
「攻略対象じゃないよね?」
四「それは何故かわからないぴょん」
「今週は柊哉のイベントしようと思ったのに…」
四「まあ、淳くんの好感度は確実にあがったぴょん。あんなむっつりだとは思わなかったぴょん」
「意味ないんだよ…」
四「まあ来週頑張るぴょんね」
勝手にイベントが発生するということは、今後自由に動けない可能性もある。
自由に動ける日はなるべく効率的に動かないと、好感度が上げられないと悟った。




