1月_第3週
1週間の仕事も終わり、イベントの日がやってきた。
「好感度を上げるイベントはどうすればできるの?」
四「ボクに好感度を上げたい対象の名前を言って触れば、その人とのイベントが始まるぴょん」
「一人ずつしかできないの?」
四「そうぴょん。今日は誰のところに行くぴょん?」
「うーん、誰が一番上がりやすいかな?」
四「ゲーム上特に難易度は違わなかったと思うぴょん。まあファンだったら簡単ってことぴょん」
「なるほど…」
同じメンバーだったからもちろん知っていることも多いし、メンバー同士の仲も悪いわけではない。
だけど、ファンほど熟知しているかと聞かれれば無理かもしれない。
桜雅は一番話しやすいし仲がいい。
ロケ番組とかで一緒になることが多い。
だが、プライベートな交流はほぼなく、ライブ後の飲み会くらいだ。
琉征は結成当初から慕ってくれていて、ダンスは俺が教えたと言っても過言ではない。
たまに二人で飲み行ったりもするが、プライベートで一緒に買い物に行くような仲ではない。
柊哉は高校の同級生で当時は友人だったが、season結成以来、出掛けることはなくなった。
仲が悪いわけではないが、今更二人だけで出かけたりするのは小っ恥ずかしいし、何を話していいかわからない。
「やっぱ最初は何を考えてるか分かりやすい、桜雅の好感度をあげようかな」
四「わかったぴょん!ボクに触れるぴょん」
そう言われて、自分の手を四季ぴょんの頭に乗せる。
するとあたりは白い光に包まれ、目を開けるとテレビ局の楽屋の中にいた。
草「聞いてた?」
先輩マネージャーの草加部に不思議な顔をされる。
「あ、すみません。もう一度お願いします」
草「今日は島本さんのバラエティ番組の収録です。しっかり流れを覚えておくように」
「はい、わかりました。」
桜「べーやん、アッキーに厳しく指導しすぎて疲れちゃったんじゃないの?」
「全然そんなことはないです。うまく聞き取れなかっただけですみません」
桜雅は色々な人にあだ名をつけるのが得意で、琉征のことは「るいるい」と呼ぶし、草加部のことは「べーやん」そして俺のことは「アッキー」と呼ぶようになった。
メンバーだった頃は「煌」とメンバー内では唯一下の名前で呼ばれていたから変な感じだ。
〜〜♪
草加部のスマホがなる。
すぐに電話を取ると、俺に向かって睨みを聞かせながら楽屋の外へ出て行った。
こっちの世界にきて草加部にずっとつくようになり、気がつくと電話をしているなと思う。俺たちに振り回されながら、こんな大変な仕事をしていたんだと実感しつつ、草加部は優秀なんだなとこっちにきて痛感していた。
俺が睨まれたのにも理由がある。
以前、草加部には
草「ただでさえ女の子のマネージャーなんて男女トラブルになりかねないから、メンバーとあまり仲良くしすぎないように」
と言われていた。
仕事はもちろん男女トラブルなんて御法度なのは承知の上だが、好感度を上げてHAPPYENDにしたい。
なにより服が欲しい。
草加部には悪いが、なんとか隙を見つけて桜雅と話さないと。
桜「どう慣れた?」
意外にも桜雅の方から話しかけてきた。
「まだ大変なことがいっぱいで」
桜「そうだよねー、うちのメンバー曲者多いから大変でしょ」
「そんなことは…」
側から見たら変わっているグループなのかもしれないが、長く一緒にいる身としてはなんともない。
二人きりの今のうちに好感度を上げなくては。
「それより、島本さんはテレビで見るよりかっこいいですよね」
桜「え!?そう?嬉しいなぁ」
「本当に、バラエティでも大活躍で本当に尊敬します」
桜「まじー?ありがとう!やる気出る!」
そう言って桜雅は嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。
これは好感度がバッチリ上がっていそうだ。
「本当ですよ。島本さんーー」
ーコンコン
これからもっと褒めようと思っていたところだったのに、ノックによって遮られてしまった。
桜「はーい」
ス「すみません、打ち合わせいいですか?」
桜「はいどうぞー」
「先輩(草加部)いないけど、打ち合わせしちゃっていいんですか?」
桜「アッキーいるからいいでしょ」
そう言われ草加部不在で打ち合わせが始まる。
マネージャーがどうこう言うこともないので、隅で打ち合わせのやり取りを眺める。
俺もバラエティ番組に出たことがあったので、懐かしいなと思いながら聞いていると。
ス「新しいマネージャーさんですか?」
桜「あ、そうそう」
「秋守と申します。まだ新人なので至らない点もあるかと思いますが、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げる。
ス「すっごい礼儀正しくて素敵な方ですね」
「いやそんなことは…」
ス「今おいくつなんですか?」
「25歳です」
ス「あ、俺とタメだ、この業界初めて?」
「あ、いや、そんなこともないというか…」
ス「じゃあ前はなんのお仕事してたの?
「えっと…」
一人でぼーっとしてたから気を使ってくれたのかな?
でもこの業界のこととか前の仕事とか、答えづらい質問ばっかりで少し困っていると
桜「マネージャーばっかりずるいじゃん、俺とも話さない?」
「あ、すみません」
桜「まあ、とりあえず打ち合わせはこんなもんでいいんじゃない?」
「あ、そうですね。本番お願いします」
そう言ってスタッフはそそくさと楽屋を後にした。
俺が困っているのを察して、桜雅間に入ってくれたみたいだ。
「すみません、ありがとうございます」
桜「気にしないで」
懐に入りやすくてアホっぽいキャラしてるのに、実はメンバー内でも人一倍周りを見ている。
流石の観察力だと思う。
その上で、空気を悪くせずに立ち回れるのは、桜雅のすごいところだ。
ーコンコン
草「遅くなりました。そろそろスタジオいきましょうか」
桜「おっそいよーべーやん。アッキー困ってたから」
草「すみません、なんかやらかしました?」
桜「違うよ、スタッフに絡まれてただけ」
「いや、絡まれてたわけじゃなくて、たぶん僕が一人で不安そうだったから、いろいろ話振ってくれたんですけど、僕がうまく返せなくて」
桜「いや、あれは絡まれてたから。鼻の下伸びてたよ、あれ」
草「そうなんですか?まあ秋守さんは今後気をつけるように」
「あ、はい…」
はいと返事はしたものの、何を気をつければいいかわからなかった。
たしかに言いづらい質問ばっかりだったけど、絡まれていたわけではない。
むしろ、一人でいる俺に気を使っていくれていただけな気がする。
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スタジオ収録が始まり、桜雅はいつも通りみんなの笑いを誘って大活躍していた。
そんな収録を大声で笑いたい気持ちもあったが、マネージャーという立場の手前そうすることもできず、隅の方で静かに見学していた。
?「楽しいですか?」
そう言われて振り返ると、そこにはカチッとスーツを着た男性が立っていた。
どっかで見たことあるような気がするような、ないような…
「え、あぁ、はい?」
?「ごめんね、急に。君すっごい笑顔で肩が揺れてるのに、声を一切出してないからどうしたのかなと思ってね」
「あ、すみません。声出しちゃいけないと思って」
?「君は島本くんの事務所の人かい?」
「あ、最近マネージャーとして配属されました、秋守と言います。」
?「ご丁寧にどうも。この番組のプロデューサーしています、飯島です。」
そうだ、思い出した。
桜雅と一緒にバラエティに出た時に一度だけ会ったことがあった。
「あ、すみません。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。失礼な態度を」
飯「全然、むしろ僕の番組を楽しそうに見てくれて嬉しいなと思ってね」
「本当に楽しいです。いつも見ている番組なので、番組を作ってくださる方とこうしてお話しできて光栄です。」
飯「それは嬉しいな」
それから桜雅が収録している中でこの企画はこうやってできたんだとか、番組の裏側をいろいろ教えてくれた。
いつも見ている番組の裏側を聞けるのは新鮮で、飯島さんとの話に夢中になっていた。
収録が終わり桜雅が走るようにこっちに向かって、一目散に俺の隣へやってきた。
桜「飯島さん、いらっしゃってたんですね!なかなか会えないから、俺とも話してくださいよ!」
飯「そうだね、そろそろ時間だから僕は行くけど、桜雅くんには期待しているよ」
「そう行っちゃうんですね、お忙しいですもんね」
飯「秋守さんもまた話そうね」
そう言って肩を組まれ、顔が近くなる。
そういえば、桜雅にもこんなふうに肩を組まれたなー、なんて懐かしんでいると
桜「秋守そろそろ次の現場だよ!行くよ!」
急に大きい声で話されビクッとする。
それと同時に肩に置かれた手は離れて行った。
飯「じゃあまたどこかで」
「たくさん楽しいお話、ありがとうございました」
桜「飯島さん、俺にも今度聞かせてください!」
「またよろしく」
去っていく飯島さんが見えなくなると、桜雅が踵を返して俺の方をぐっと見る。
桜「アッキーおいで」
手首をぐっと掴まれ、まあまあな力で楽屋に連れて行かれた。
桜「アッキー!いくら仕事を取らなきゃいけないからって、俺たちのためにそんな安売りしちゃダメだよ?」
「やすうり、ですか?」
桜「プロデューサーだから言いづらいのもわかるけど、あんなベタベタ触られたら嫌ですって言っていいと思う!」
「へ?」
桜雅曰く、収録中飯島さんからボディータッチを何度もされていたらしい。
正直男同士だし、なんなら桜雅の方がパーソナルスペース狭くてよく肩に手を乗っけてきたり、ハグや膝枕だって普通にするから、全然気にしていなかった。
「そんなにすごかったですか?」
桜「うん、周りの女性スタッフ引いてたよ」
「気がつかなかったです…」
桜「さっき打ち合わせに来たスタッフといい、飯島さんといい、そんな誰にでもあなたが好きですみたいな態度取ってると、いつか痛い目にあうよ」
「いや普通に話していただけで、そんなつもりは…それに2人とも僕に好意なんてなかったと思いますよ」
桜「はー」
俺の言葉に桜雅はため息を吐きながら、俺を呆れたような目で見る。
「…なんですか」
桜「そういえば、最初自己紹介の時に、女に間違われることがよくあるって言ってたよね?」
「あ、はい」
桜「言っちゃ悪いけどおじさんが25歳の女に、さっきのアッキーにしてた同じ触り方してたらどう思う?」
あの距離感をおじさんが若い女性にするのは…
「…あまりよろしくないと思います」
桜「そういうことだよ!気をつけなよ!」
「はい…」
普段メンバーは男として接してくるし、草加部は後輩として節度を持って指導してくれているから、俺はこの世界ではモブには女の子認識でいられていることをすっかり忘れていた。
でも俺は好きですみたいな態度取ってないし、普通に話ししていただけなのに…
桜「絶対わかってない顔してんな」
「なんですか?」
桜「もー!次の現場行くよ!」
「わかりました」
桜雅が出られるように先に扉を開けると、白い光に包まれ自宅に戻っていた。
「え!?」
四「どうだったぴょん?」
「次の現場は!?」
四「今回は1つの現場でイベントは終了ってことぴょん」
「そうなんだ…桜雅は急に俺がいなくなって驚いてないのかな?」
四「ゲームの設定上こうなってるから、おそらく気になってないと思うぴょん」
「その辺は適当なんだね。あ、好感度どうなってる?」
四「好感度分からないから、ラブマネーを見てみるぴょん」
「あ、そうだった。お願い」
この前は3000ラブマネーだったから今何ラブマネーあるかで、桜雅の好感度がどのくらい上がったかわかる。
「最後は怒られちゃったけど、最初は褒めて満面の笑みしてたから、少しは好感度上がったとおもうんだよねー」
四「それはないぴょん」
「え?なに?」
そう言って頭を抱える四季ぴょん。
「どうした?」
四「3000ラブマネーのままだぴょん」
「嘘でしょ!?」
あんなに褒めたのに3000ラブマネーのまま。
ってことは1つも好感度は増えてないってことだ。
「なんで!?あんな褒めたのに」
四「何があったのか見てみるぴょん」
四季ぴょんは今までの流れをもう一度見ることができるらしく、今日あった出来事をもう一度確認する。
四「これはダメぴょん」
「なにが?」
四「褒めてるけど、友達に褒めてるっぽい感じになってるぴょん」
「ダメなの?」
四「これは乙女ゲームぴょん!恋愛の好感度を上げないといけないぴょん」
「そっかー」
たしかいつものノリで話してしまったなと反省する。
四「それより…秋くんは今日何しに行ったぴょん」
「何って桜雅好感度を上げようとしたんだよ。まあ失敗したけど」
四「モブキャラの好感度上げてどうするぴょん!」
「モブキャラ?」
四「攻略対象じゃない人のことぴょん」
「上げてないけど?」
四「スタッフと飯島に言い寄られてるぴょん」
「言い寄られてないよ?」
四「秋くんは今女の子ぴょん!それを思った行動をしないと大変なことになるぴょん」
「普通に話しただけなのに…」
桜雅にも似たような事言われたけど、特別何かしたわけじゃない。
ただ楽しくお話ししていただけなのに。
四「秋くんは元々無自覚で人に好かれる性質なのに、乙女ゲームのプレイヤー補正も相まって、その性質が倍増してるぴょんねー。しかも、自分に向けられている好意の自覚がないぴょん。これは面倒なことになりそうだぴょん…」
「何ブツブツ言ってるの?」
四「秋くんは…攻略対象以外と話さなくていいぴょん」
「仕事にならないじゃん」
四「…次のイベントはボクも一緒に行くぴょん」
「それありなの?じゃあ最初からそうしてよ」
四「秋くんの潜在能力を侮っていたボクが悪いぴょん。」
「どういうこと?」
四「なんでもないぴょん」
若干、四季ぴょんにバカにされた気もしたが、次の好感度上げに向けて四季ぴょんと対策を練っていった。




