01_転生した日
「ん…どこだここ?」
目が覚めると
「女性の部屋?」
そこは6畳ほどの洋室にシングルベットが一つあるシンプルな部屋ではあるが、壁にかけてある服や小物から、見るからに自分の部屋ではなく女性が一人暮らししているような部屋だった。
「なんでこんなところ?ていうか誰の部屋なんだ?」
俺、【秋守煌】は「season」というアイドルグループのメンバーとして活動してる。
それなのに、女性の部屋は不味くないかと思いながらもふと時計を見ると、針は8時を指していた。
「やばっ遅刻する!」
急いで着替えようとクローゼットを開けると
「まあ…ですよね」
そこには女性の服が数着のみ。
女性の部屋なんだから女性の服しかないのは納得した。
「このまま出かけるか?…ってなんで!?」
自分が着ていたのも女性物のもこもこしたパジャマを着ていた。
男の体型に女性もののパジャマはとても異様な光景だった。
遅刻寸前なので、とりあえず一番マシなパンツスーツに着替えた。
「女性の服なのにぴったりなんだな…急ご」
靴を履きながらふと俺は何に急いでいるんだろうと思いながら、玄関の扉を開けて出ると。
そこはアイドル事務所のレッスン室の前だった。
「え?どういうこと??」
振り返っても先ほどの玄関はなく、目の前はレッスン室の扉で廊下に立っている状態だった。
意味もわからず、立ちぼうけていると
?「あ、きてたんだね、よかった遅刻じゃなくて」
話しかけてきたのは俺のグループseasonのマネージャー草加部だった
草「初めまして、マネージャーの草加部です。今紹介するから一緒に中に入ろうか」
初めましてじゃないんだけど…と不思議に思いながら中に入ると、そこにはseasonの他のメンバー3人の姿があった。
真面目に練習しているのが【和波琉征】でこのグループの最年少メンバー。
座って休憩しているのが【佐宗柊哉】で俺とは高校の同級生。
そんな柊哉を引っ張って練習させようとしているのが【島本桜雅】で俺と一番仲がいいメンバーだ。
草「はーい。一旦集まってくださーい。」
そうすると3人は、俺とマネージャーの前に並んだ。
草「では、前々からお話ししておりました、新しいマネージャーの秋守さんです。」
え?俺が新しいマネージャー??
どういうこと?
草「まだ新人で女性なので大変なこともあると思いますが、皆さんでフォローしてあげてください」
女性?俺が?
そう思っていると他のメンバーもそう思ったのか小声で
柊「女性?どうみても男じゃない?」
琉「だめだよ、柊哉くん失礼なこと言っちゃ」
桜「だって俺より身長高くない?」
琉「基本、桜くんよりみんな身長高いよ」
桜「女の子だったら俺より小さい子の方が多いもん!」
と口々に話している。
俺だって不思議だ。
そもそも俺がマネージャーということも疑問だ。
そんなことを思っていると草加部のスマホがなった。
草「あ、ごめん電話きちゃった。まあ今日の今日で教えれることもないから、レッスンを見学しようか。」
と言って部屋を出て行ってしまった。
これからどうしようかと思っている時、
?「ぴょーん!こんにちは!あれ!?秋くん!?」
声のする方を見るとそこにいたのは、seasonの公式うさぎキャラクター【四季ぴょん】だった。
手のひらサイズの四季ぴょんが宙にふわふわ浮かんでいる。
「は?浮いてる!?てかしゃべってる!?」
俺の声に不思議そうにこっちを見るメンバーたち。
どうやら「四季ぴょん」のことは見えていないようだった。
「ちょっと、失礼します!」
俺は浮いてる四季ぴょんを掴んで、急いでトイレに駆け込んだ。
「君はなんで浮いてんの?俺だけに見えてる幻覚??」
四「ボクは乙女ゲームのプレイヤーには見える設定だぴょん!ていうか秋くん、なんでプレイヤー側なんだぴょん?」
「乙女ゲーム?プレイヤーってなに?どういうこと?」
四「どういうことって、ここはseasonの乙女ゲームの世界なんだぴょん」
「はぁ!?」
seasonの乙女ゲーム?…思い出した。
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その日はseasonのメンバーを攻略するという乙女ゲームの発売イベント。
リハーサルで立ち位置確認中のこと。
スタッフ「ではアナウンス入りましたら、上手から入場していただいて、島本桜雅さん、和波琉征さん、秋守煌さん、佐宗柊哉さんが春夏秋冬の順になるように、今の立ち位置に入るようにお願いします。」
「「「「わかりました」」」」
ス「では上手の佐宗さん、MCの入りだけ軽く話していただいていいですか?」
柊「わかりました!えー本日はseasonの乙女ゲーム、はちゅばいいびぇんとww、すみませんwwww」
「wwwwwwwww」
桜「なんていったー!?佐宗こら笑」
琉「1発目からなにしてんのww」
そう言いながら桜雅と和波が柊哉の元へ駆け寄る様子を見て、いつもの茶番が始まると思い、邪魔にならないよう下手側へ移動しながら、これからどんな絡みになるのか見届けようとしていた。
すると突然、地震のように大きく揺れ、一瞬で落ち着いた。
桜「地震!?」
琉「びっくりしたー」
柊「秋、後ろ!!」
「…え?」
柊哉に言われて後ろを振り返ると、横に立てかけてあった機材が俺に向かって倒れてきたのだ。
ガチャーン
逃げることもできずそのまま機材の下敷きになってしまった。
駆け寄ってくる3人の顔を見て、他に犠牲者がいないのを確認したのも束の間、頭の激しい痛みと共に意識を失った。
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「俺はあの時気を失ってそれで…」
四「これは転生かもしれないんだぴょん…」
「てんせい?」
アニメを見たこともなく、ゲームをやらない俺にとって初めて聞くワードだった。
四「前の世界で死んだ人間が、記憶を持ったまま別世界に飛ばされて生活することだぴょん」
「っていうことは俺死んだのか?」
四「それはボクにもわからないぴょん」
俺があの事故で死んで転生?
でもたしかにゲームの世界だとわかれば、瞬間移動したり、四季ぴょんが浮いていたり、現実離れしているのにも説明がつく。
四「あれ!?おかしいぴょん!」
「なにが?」
四「これ見るぴょん」
急に大声を出した四季ぴょんが見せてきたのは、スマホの画面だった。
よく見ると「大人気3人組アイドルグループのseason」とあった。
写真も俺は写っておらず、3人の写真が掲載されていた。
「そういうことか」
四「なにかわかったぴょん?」
おそらく俺は元の世界で死んだのだろう。
だから神様が最期に3人で活動していくseasonを見せてくれようとしているのだ。
俺がいなくても成立するseasonを…
やっと掴んだ夢だったけど、死んでしまったならしょうがない…
四「大丈夫ぴょん?」
「…なんとかこの世界で生きてみせるよ、おそらく戻ろうとしても戻れないだろうし」
四「ボクだけが秋くんのことを覚えているのも引っかかるぴょん。でもとりあえず転生していることや4人組のseasonのことは、混乱を招くからこの世界の人々に言わない方がいいぴょん。」
「そうだね。ありがとう。」
四「なにかあったら呼べばすぐ出てくるぴょん。でも秋くんにしか見えてないから呼ぶ場所は気をつけるぴょん。」
それから乙女ゲームの簡単な概要を説明してくれた。
3人それぞれのメンバーとの交流を深めて♡を集めることでストーリーやENDが変わっていく
END分岐は
BAD END :マネージャー引退(メンバー全員♡4以下)
HAPPY END:マネージャー続行(メンバー全員♡5〜9)
LOVE END :マネージャー続行+メンバーの彼女に(♡10が一人いる)
四「この世界でマネージャーを続けるなら頑張って好感度も上げていかないぴょん。」
「でも草加部には女性だと思われていたけど、メンバーには男だと思われてたっぽいけど、それでも好感度上がるの?」
四「大丈夫ぴょん、…たぶん」
「たぶんって…。まあバットエンドになってここにいられなくのは困るから、頑張るよ」
四「さすがなんでもできちゃう秋くん!なんかあったらすぐ呼ぶぴょん」
そういうとふわっと消えた四季ぴょん。
やっぱりゲームなんだと思いつつ、レッスン室で待たせているメンバーの元へ急いで戻った。
レッスン室を開けるとメンバーはちょうど談笑しているようだった。
「遅くなってすみません!」
琉「大丈夫ですか?」
「はい、すみません。改めまして自己紹介させてください。僕は秋守煌と言います。年齢は佐宗さんと同じですが、新人なので気にせずご指導ください。」
マネージャーに徹すると決めた以上、敬語で接していくと決めた。
もちろん仕事も一生懸命覚えるし、俺はみんなのことを知っているけどみんなは知らないだろうから、なるべく不快に思わないように行動することを心がけることにした。
柊「じゃあこっちも自己紹介しよっか。」
桜「はい!俺から!俺は島本桜雅。23歳。体は小さいけど笑いはでっかく桜雅です!」
琉「それテレビ用じゃん」
柊「はい、じゃあ琉征どうぞ」
琉「和波琉征です。20歳。今まだ大学通ってて、俳優とかモデルとかやってます。お願いします。」
柊「最後俺ね。佐宗柊哉。25歳でこのグループの最年長です。リーダーもやってます。」
「ありがとうございます。お願いします。」
それぞれの自己紹介が終わると
琉「すっごい失礼は承知なんですけど、女性って…」
「あ、忘れてた。僕こんな見た目なんですけど、よく女性に間違われるみたいで、体も心も戸籍上も男なので気にせず接してください。」
女性設定は乙女ゲームだからとは言えないので、四季ぴょんと考えた誤魔化し方だった。
その日はレッスンを見てそのまま解散となった。
レッスン室の片付けをして部屋を出ると、そこは家の玄関だった。
瞬間移動が怖かったのでとりあえず、四季ぴょんを呼んでみることにした。
「四季ぴょーん」
四「ぴょーん!」
「わっ!」
呼ぶと目の前に現れた
「なんか急に来られると怖いね」
四「急じゃないぴょん。秋くんが呼んだぴょん」
「あ、そうだった。あのさ、瞬間移動みたいなやつ何?」
四「乙女ゲームだから道歩くとか描写があまりないぴょん。おそらくゲーム内にない映像は表現されていないぴょん。だから思ったところ考えて扉を開ければ大体移動できるぴょん」
「有名ななんちゃらドアみたいだね」
四「ボクが秋くんを連れていくこともできるから、ある意味ボクは国民的キャラクターと一緒ぴょん」
「…違うと思う」
一息ついて部屋を見渡すと全体的にシンプルではあるが、布団や家具はピンクや白など女性っぽさが詰まっていた。
間取りは1DKでバストイレ別で広めのキッチンもあり一人暮らしには十分な広さだった。
「今日はとりあえず寝ようかな」
四「わかったぴょん。またなんかあったら呼ぶぴょん」
四季ぴょんはすぐに姿を消し、俺も寝支度を整え眠りについた。




