鬼滅の刀を規制しろ!(その3)
吸血鬼ドラクロワ公を見送り数日後。
「魔王様。ダークエルフの大長老が一人、ギンビール様の孫娘がお見えになっています。なんでも今流行りの鬼滅の刀は女性を軽視し性的に消費しているので発禁にしろとの事」
「はぁ? どこの山奥のカッペ娘だよ。因習村の風習に脳みそ焼かれてんのか?」
魔王城の大広間。
玉座に腰掛ける魔王が頭をトントンと指で差す。
完全に田舎住まいのダークエルフを見下している魔王に、参謀が補足説明をする。
「村といっても普通の山村や農村とは違い、我が魔王国の四天王を何人も輩出している、由緒正しく長い歴史を持つダークエルフの村です。しかも相手は先代魔王様の時からのお付き合いがあり、長年村を治めている大長老の孫娘ですからね。会うにしても粗相はダメですよ。ドラクロワ公は魔王様と違って心が広く忠義に厚く話の分かる方でしたが、ダークエルフのご令嬢もそうとは限りませんからね」
エルフ達、特にダークエルフ達は魔族の中でも殊の外魔力が強く魔法技術も進んでいる種族だ。
彼らは卓越した魔法技術で水の浄化から穀物果実の形成、樹木を家屋の姿に変形させるといった事が可能である。
そのため人間やホブゴブリン、ドワーフやその他種族のようにわざわざ木を切り倒し、石を積み、建物を自らの手で築く必要が無い。
もちろん、高い魔法技術の粋を尽くした煌びやかな都市を築くダークエルフ達も存在する。
その一方で、自然との調和を重んじ都市化を嫌い、あえて山村や森林に暮らす事を選ぶ者たちもいるのだ。
魔王がバカにしているのは、後者の生活をするエルフ達を未開の山奥に住む人間達とこっちゃにしての事だろう。
はっきり言って、ただの頭の悪い偏見だった。
「あーん? 粗相も何も、どうせ相手はイモ臭ぇ泥まみれの方言キツそうな田舎娘だろが。この都会育ちで洗練された気品を持つシティーボーイな魔王様より、相手の方が粗相するんじゃねーのか? 城の中で野グソ垂れたりよ」
「垂れませんよ。魔王様じゃあるまいし」
「俺だってしねーよ!」
反射的に言い返した魔王が、腕を組んで諭すように告げる。
「あのなぁ参謀。山村生まれの田舎育ち、ダサい奴皆大体トモダチなダークエルフなんて、耳の形以外はジャングルでキャホキャホ吠えてるサル共と大して変わんねーんだよ。きっと自分が垂れた糞を手に取って投げてくるぞ。とりあえず召使どもに俺の着替えを用意させとけ」
「魔王様が身にまとう服なんて、マント一枚にパンツ一丁じゃないですか。頭から肥溜めにダイブしても大丈夫ですよ」
「ああ!? お前、このパンツ超高いんだからな! 伝説のモスラカイコの糸で編まれた最高級のパンツだぞ!」
玉座から立ち上がり、バサリと魔王がマントを翻す。
割れた腹筋と分厚い胸板、そして丸太のように太い手足と無駄に逞しい肉体が現れた。
そして股間にはご自慢のモスラカイコの糸で作られたらしい、黒光りするパンツ。
窓から漏れる光を受けて艶やかに輝く股間を覆う布切れは、言われてみれば確かに素材の良さを無駄に感じさせた。
とはいえ。どれだけ良い生地のパンツを履いていようとマントを羽織っていようと、それはオーガ達の開くボディビルコンテスト会場ならともかく魔界の貴族や重鎮たちを招いて儀礼を執り行い、会談をする場である城の玉座には不適当な格好だ。
「……まあ確かに、脳筋種族なオーガやミノタウロス、ドラゴニュート達の開く筋肉自慢大会で使われる衣装や体に塗りたくるオイルは、ああ見えてかなり高価な物だとは聞いていますが」
「だろ? 田舎暮らしでセンスにカビ生えた、類人猿ばりに時代遅れなダークエルフ共たぁファッションセンスの洗練度合いがちげえんだよ」
腰に手を当て、得意げにモスラカイコ製の股間の布を強調する。
傍にいるのが基本無表情で感情の読めない参謀でなければ、皆が顔をしかめ目を逸らしている事だろう。
「しかもダークエルフなんて、顔はともかく体は貧相極まりないスケルトンみてーなガリガリボディの分際で、自分はイケてると勘違いしてるイタい連中ばっかりだろ?」
「彼らエルフ族は、乳製品はともかく肉はほぼ食べない菜食中心の健康的な食生活をしており、スリムな方が多いのは確かにそうですけども。そこは結構個人差あるんじゃないですかね」
「いーや! すっ転んだらバッキバキに骨が折れちまいそうな、骨粗しょう症気味のアバラを浮かせんのが美しさだって勘違いしてるバカ女だってどうせ。おい、呼べよそのクソアマ。カッペ臭ぇ身なりと、骨と皮だけの飢え死に寸前の犬っころみてーな体を笑い物にしてやらぁ」
「今に始まったことでは無いですが、こじれるとわかっている相手を通すのは、その後の尻拭いをさせられる側からすると辛いものがありますねぇ」
参謀がため息をついた。
国主である魔王が会談して揉める事は、そのまま外交問題に直結する。
こじれ方によっては、そのまま紛争、戦争にまで発展することも珍しくない。
というか実際、気遣いや配慮といった言葉とは無縁なガサツ極まる魔王のせいでこれまでどれだけの数の揉め事が起きてきたか、数えだしたらキリが無かった。
頭痛を抑えるように額に手を当て、参謀が大広間の門の両脇に立つオーク達に大長老の孫娘を通すよう告げた。
鬼滅の刀を規制しろ!(その3)……END




