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魔王と参謀  作者: 熊ノ翁
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鬼滅の刀を規制しろ!(その2)

「あー、鬼滅の刀を焚書にしろだぁ? テメーあんま調子コイてっと、この魔王様が全身の骨をド派手に叩き潰して黄金水の呼吸でしょんべんぶっかけ殺すぞ」


「魔王様。あの、相手は上級魔族のバンパイア、しかも公爵貴族ですからね。もうちょっとこう、魔族の王としての品位と言いますか……」


「うっせー! 魔王様は間違わない! こうべを垂れてつくばえ! 平伏しろ!」


「うーん、これはこじらせてますねぇ。オツムの中身が無惨すぎます。まあ今に始まった事ではありませんが」


 吸血鬼の貴族を相手にするには、あまりにあんまりな魔王の言葉遣いを参謀がたしなめる。

 傍らでは、吸血鬼の貴族ドラクロワ公が神妙な面持ちで魔王の暴言を一身に浴びていた。


「申し訳ございません。魔王様のお怒りはごもっとも。魔界を統べる主にあつかましくも進言した事、重ねてお詫びいたします」


 律儀に片膝をつき、吸血鬼の貴族が言われた通りにこうべを垂れる。


「え、急に何おまえ。キモ」


「魔王様、礼を尽くした相手にそれは流石に酷いのでは……」


 礼儀と忠節を尽くす吸血鬼に対し、魔王の態度はそっけない。

 見かねた参謀が魔王の態度をたしなめるが、当然のごとく耳を貸そうとはしなかった。


「良いのです。魔王様は魔族の王にして頂点。我ら卑賎な者とは格も身分も違います。そんな我々の声にわざわざ耳を傾けて頂き、まだ命があるのですからこの扱いはむしろ寛大すぎる物でしょう。有難うございます魔王様」


 理不尽な言葉を投げかけられて尚、吸血鬼ドラクロワ公は礼を尽くした態度を変える事は無かった。

 基本的に反対勢力はブチのめして頭を押さえつけ、無理やり言う事をきかせるような真似をしている魔王は、自国民からの人気はすこぶる低い。

 各魔界新聞社が行う支持率アンケートは、二桁あればいい方だ。

 そんな中にあって、このドラクロワのように忠義を尽くす上級魔族は、本来ならば実にありがたい存在のはずである。


「そのいかにもな、他所ウケ狙った良い子ムーブが気に食わねえんだよなぁ。お前、本心からそう思ってるかぁ? 頭カチ割って明るい太陽の下で中身晒して見てみねえと信用ならねえんだよなぁ」


 はずであるが、非モテの妬みに目が曇り切っている魔王は、そのありがたみに気付かない。


「魔王様。性悪な姑が嫁をいびり倒すような真似はその辺にして下さい」


 ひたすらネチネチ難癖をつける魔王をさえぎり、参謀が吸血鬼へと尋ねる。


「ドラクロワ様はあの漫画の、どの部分が問題だと考えられているのですか?」


「はい。あの作品は私も読みましたが、敵側である鬼の生態が我々吸血鬼に近すぎます。血を吸い、日光を嫌い、長き時を生き、強い再生能力を持つ。これでは、どうした所で読んだ者は我が種族を連想するでしょう」


「そらそーだ。ひなたぼっこした程度でくたばるような、身も心もクソ雑魚ナメクジな貧弱生物なんざ、お前ら位しかいねーだろ」


 ドラクロワ公の言葉に、玉座に座る魔王が鼻くそをほじりながら悪態をつく。

 来賓の吸血鬼をあまりに見下した発言に、参謀がフォローを入れる。


「魔王様。吸血鬼は上級魔族の中でも再生能力は群を抜いて優れており、魔界有数のタフネスさを誇る種族です。魔力さえ残っていれば肉片一つ、血の一滴からでも蘇るほどですからね。あと鬼滅の刀は私も読みましたが、あの漫画に出てくる鬼達は相当強力な存在だったかと思うのですが」


「あー? 強えぇも弱えぇもねーよ。炭太郎達があんな連中に負けるわけねーだろ」


「魔王様。完全に人間側に、それも架空の物語に入れ込んでますね。魔族の王として如何な物かと」


「そう! そこなのです問題は!」


 突然会話に割って入ってきたドラクロワ公に、魔王が眉をひそめる。


「うるせーな。なんだよ急に大声出しやがって。喉潰すぞ」


「あの漫画は、私も読みました。ドラマティックな展開に、見事な心理描写。迫力ある戦闘シーンに、胸を打つ強いメッセージ。本当によくできた物語です」


「お、ちったぁ分かってるじゃねーか。血を啜るしか能のねぇマダニ野郎にしちゃあよ」


 お気に入りの漫画が褒められて、魔王の態度がわずかに軟化する。


「……よく出来ているが故、作品の秀逸さ故に、物語に登場する鬼達へ読者が抱く敵意もまた大きな物となってしまうのです。結果として、謂れのない敵意を我々吸血鬼に向けられ難儀しております。どうか、ご一考を」


「いやどうもこうもねーだろ。ここは弱肉強食の魔界だぞ? 謂れの無い敵意を向けられようがどれだけ嫌われようが、歯向かう奴はブチのめして力でねじ伏せて自分のポジション勝ち取れよ。それが出来ねーってんなら、真夏のビーチでこんがり肌焼いて黒焦げになってろっての」


 辛辣な魔王の言葉に、しかしドラクロワ公は礼を崩さない。


「魔王様のお言葉もごもっともですし、我々吸血鬼一族は腐っても上級魔族。刃を向ける者達の大半をねじ伏せられる程度の力は備わっております。しかしそれでは無駄な血が流れ過ぎます。悲しい行き違いがあるとはいえ、つまらない理由で同胞と争うような真似は出来れば避けたいのです。我ら魔族の血は、かようなくだらない諍いではなく、魔王国、ひいては魔王様への奉仕の為に流すべきだと私は考えます」


「素晴らしい。私も日頃から、民はもっと有効に使い潰されるべきだと思っておりました」


 感心したように、参謀がうんうんと一人うなずく。


「有難うございます、参謀殿。だからこそ我らが同胞同士で争うのではなく、物語に少し手を加えて内容を変えて頂き、今吸血鬼へ向けられている不要な敵意を逸らして貰いたいのです」


「しかしですねぇ。鬼滅の刀は所詮は漫画、架空の物語であり現実では無いんですよ。おとぎ話で狼男や鬼の扱いが悪い物があるからと、改変を迫るなんて事は馬鹿げた話だと思いませんか? 今回の事はそれと同じかと思うのですが」


「参謀殿。それは少し認識が甘いのではないでしょうか。現に我々吸血鬼の中で深刻ではないにせよ、あの作品が原因で加害者が産まれ、被害を受けた同じ吸血鬼の仲間が実在するのですよ。もちろん、私自身も」


 白手袋をはめた手を胸に当てるドラクロワ公を、魔王がクサす。


「なーにが被害だよ。お前ら低級魔族のスライム同様、頭ひき抜かれようが手足もげようが、虫干しされなきゃ再生するんだろ? だったらいーじゃねーか。善良な一般市民のサンドバッグになってミンチになるまで殴られるでも、火炎瓶投げられて火だるまにされるでも、ニッコリ笑って受け止めてやれや。上級魔族の癖に器がちっちぇーんだよ器が」


「いやいや。先月廊下に落ちてた画鋲踏んづけて、ガチギレして壁ごと掲示板を殴り壊してた魔王様の器の小ささには負けると思いますよ」


「ぐ!」


 参謀の指摘に、魔王が言葉を詰まらせた。


「さて。失礼ながらドラクロワ様。何かしらの犯罪に巻き込まれたり被害を受ける者は、常に一定数出ます。確かに鬼滅の刀に触発されて無法に走る者もいるのでしょう。しかしそんな漫画を一作読んだ程度で凶行に走るような浅はかな連中、鬼滅を読もうが読むまいが、どの道何らかの犯罪なり事件なりを引き起こるのは火を見るより明らかです。そんな連中のレベルに合わせて、出版物の内容を変えるような真似を許してしまう事が正しい判断だと言えるのでしょうか? 賢いオークの兄弟がマヌケなウェアウルフを追い払うおとぎ話の『三匹の子オーク』に狼男の扱いが悪いとクレームを入れられた際も、内容を変えるべきだと?」


「では参謀殿は我ら吸血鬼が悪しざまに書かれ、同族への謂れなき誹りを受けようとも、甘んじて受けるべきだとお考えなのですか? 架空の物語の表現を守るために、現実の我らに犠牲になれと?」


「まず大前提として、フィクションの漫画如きに触発され、無法に走る輩はただのカスです。魔王国法では弱肉強食の気風を重んじて、ある程度の私闘を認可してますが、しかしそれも法に定められた範囲、条件においてです。作り話を真に受けて上級魔族に襲い掛かる等という馬鹿げた行為は、魔王国刑法及び民法のどちらにおいても許された物ではありません」


「ならば、そういった犯罪に走る者を減らすためにも、鬼滅の刀は内容を変えるべきではないですか?」


「魔王国法は、魔王様の権威に基づき制定されています。その法を破る者は、つまりそのまま魔王様、ひいては魔王国を軽んじ権威に泥を塗る者達とも言えるでしょう。そんな連中に我々が譲歩し、配慮し、魔王国の定めた法に従う者達から楽しみを奪い捻じ曲げるのは違うという話です。犯罪者が増えたのでしたら取り締まり、捕らえ、魔王国法の下にゴブリン以下の家畜として死ぬまで使い潰せば良いだけでしょう」


「おっしゃる事は分かりますが、それは全て被害が出てからの話でしょう。犯罪予防には何も繋がらないのでは?」


「犯罪予防は犯罪予防で、別に切り分けて考えるべきでしょう。魔王国法を犯した場合どのような地獄が待ち受けているかの認知、各種教育機関での義務教育の見直し、ゴーレムや使い魔による監視体制の強化。いちいち漫画の内容を書き換えて回るよりも、余程に効果がありますよ」


「そうでしょうか。私としては、そんな社会全体の改善を図るよりも問題のある出版物の内容を、物語の筋を崩さぬ程度に書き換える方がよほど簡単かと思えるのですが」


「しかしドラクロワ様。我が魔王国にて毎年編纂している魔界犯罪白書の統計を見るに、魔王国の治安は政治的不安や経済格差、あと魔王様のやらかしと連動してはいますが、特定の漫画の流行りと連動しているという確たるデータはございません。人魚たちが敵役として書かれていた漫画ワンビーズが流行った時も、巨人が凶悪な敵として憎むべき対象として描かれていた進撃のギガンテスが流行した時も、一部の馬鹿が凶行に走る事はあっても犯罪発生率自体に変化はありませんでした。まあこの辺は論を重ねても堂々巡りになってしまうでしょうから、やめておきましょうか。それで、ドラクロワ様はどのように鬼滅の刀の内容に手を加えればいいとお考えで?」


「はい。物語の大筋は変更せずに、彼ら吸血鬼を血ではなく糞を集める巨大人型フンコロガシにして、炭太郎達と畑の肥料となる肥溜めを巡って争う冒険活劇に……」


 激論を交わす参謀とドラクロワ公の顔を交互に眺めしばし静観していた魔王だったが、流石にこの発言にはたまりかねて怒鳴り声をあげた。


「変えられるわけねーだろナメてんのかテメェ! 大筋どころか物語自体変わってんじゃねーか! 肉団子にして肥溜めにブチ込むぞ!」


 魔王をたしなめる側だった参謀も、これにはさすがに苦言を述べる。


「いやー流石にそこまでの改変はちょっと。人の血を吸い命を奪う吸血鬼から、人の肥溜めから糞を奪うフンコロガシに変えられるのは……それに、異世界から取り寄せた書物の出版は我々魔王国側からしても無視できない収入源の一つです。出来る事ならば手は加えたくないんですよね。売り上げ下がりそうですし」


「申し訳ございません。吟遊詩人でも何でもない私には物語を紡ぐセンスは持ち合わせておらず、適切な改変が……私が言いたいのは、そのように話の内容を変える事で、我ら一族への敵意を逸らし、犯罪行為の抑制につながればと」


 ドラクロワ公の嘆願を、魔王が一蹴する。


「あ、ダメ。そういう原作改変、俺絶対許さねーから。セリフ一文字、設定一つ変えてみろ。この魔王様がお前ら吸血鬼を全員まとめて直々にすり潰してやっからな。太陽の光とか関係なしに魔力切れで身体が再生できなくなるまで、100回でも100万回でもぶっ殺し続けてやんよ」


「そうですか。では残念ですが、仕方がありません。手は尽くしました。出来れば同胞との無益な争いは避けたかったのですが。今後は魔王様の言う通りに歯向かう者は全て手打ちにして……」


 すげなく断られたドラクロワ公が、これ以上言う事は何もないとばかりに目を伏せ、立ち上がる。

 玉座に座る魔王に一礼し、立ち去ろうとするドラクロワ公を参謀が呼び止める。


「ふむ、ちょっと待ってください。架空と現実の区別もつかずに敵意を向けて襲い掛かるような、知能の低い輩は返り討ちにするなり捕らえて家畜にするなりして頂いて構わないとして。要は、吸血鬼の皆様への悪印象を何とかすれば良いのですよね?」


「はい。その通りです」


「無理だろ。こいつら吸血鬼が炭太郎達をどれほど酷い目に遭わせたと思ってんだ。お前らは今後一生日陰者として嫌われ続けるんだよ」


「あ、架空と現実の区別もつかない魔王様は少し静かにしてて下さい」


 相変わらず冷たい言葉を投げかける魔王に、参謀が嫌味を返して黙らせる。


「ドラクロワ様。木を隠すなら森の中です。実は、異世界では吸血鬼を主役もしくは主要キャラクターに据えた話は数多くあり人気を博しておりまして」


「ほほう。すると、鬼滅に限った物では無く、我が種族は異世界でも脚光を浴びているのですか」


「おい吸血鬼。お前、この魔王様を差し置いて何ちょっと得意げになってんだ? 調子乗ってんのか? 調子乗ってんのかなぁ? お前、調子乗ってんだろ。なあ、お前、調子乗ってんだろ」


「魔王様、どこぞの世紀末モヒカン雑魚のような因縁の付け方はお止め下さい。次の瞬間、隣で泡拭いて死んでいそうで不安になります」


「なんだぁ!? 俺様がそんなすぐに死ぬわけ無いだろ! 魔王様だぞ!?」


「もう傷んでるから食べない方が良いと止められていた、廃棄予定のどら焼きを食べてお腹を壊し『死ぬ~、俺もう死ぬ~』と悶えていたのはどこの魔王様でしたっけ」


「昔のこたぁ良いんだよ! 男は過去を振り返らずに明日だけ見てひた走ってりゃ問題ねーんだ!」


「とにかくです。異世界でも吸血鬼という種族は多くの者達を魅了し、あなた方を題材にした物語が数多く作られているのです。それこそ吸血鬼が主人公で人間や敵対者たちを蹂躙する人気漫画だってあるほどに。なので、鬼滅だけでなく様々な漫画、小説、その他あらゆる媒体の物語を数多く我々が魔界で製品化し、売りさばき、世に送り出せば吸血鬼の皆さんの評判もまた多様性を帯びた物に変わってくるかと」


 参謀が一冊の漫画を吸血鬼に手渡す。

 ヘル・シィングとタイトルの書かれた表紙には赤いコートを着てサングラスをかけ、銃を握る吸血鬼の姿が載っていた。

 本の内容は、史上最強の吸血鬼が人間その他あらゆる敵対者をねじ伏せるというハードアクションで、異世界の人間達の間でも人気を博していた物だ。

 パラパラとページをめくり、中身を読んで「ほほぉ」と感嘆の声を漏らす。


「む、確かに。この漫画は素晴らしい。主役を務める吸血鬼が実に魅力的で高いカリスマ性がある。そして何より熱い闘争。血の冷えたアンデッドである私ですら、読んでいて熱いものが込み上げてきます。これは我々吸血鬼の間ではもちろん、魔界の住人たちの間でも確実に流行る。パーフェクトです参謀殿」


 手渡された本を閉じ、参謀へと返す。


「なるほど。創作物が原因でイメージダウンしたのなら、同じように創作物を利用してイメージアップを図る事も出来るというわけですね」


 先ほどの漫画がよほど気に入ったのか、ドラクロワ公がしきりにうなずく。


「おいコラ吸血鬼。何自分だけ良い格好しようとしてやがんだ。参謀、異世界じゃ魔王様って人気無いのかよ」


 吸血鬼が主役の良作漫画がある事が羨ましくなったのか、魔王が自分も同じような作品が無いか催促する。


「魔王様は、勇者と並んで異世界のファンタジー物語に良く出てくる人気キャラクターですね。魔族を統べる王が主役の物語は星の数ほど存在します」


「そら見ろ。だったら吸血鬼の前にこの魔王様の人気がブチ上がるような漫画を刷って刷って刷りまくれよな。ゆーせんじゅんいって奴を考えろ。まずは魔王様の評判だろが」


「確かに魔王様は日頃の横暴と失言が祟って、魔界新聞でも週刊誌でも連日大炎上。国民からの支持率は現在驚異の0.5%と、目を覆いたくなる悲惨さです。一方吸血鬼の皆さんは魔界でファッションリーダーとして注目され、オペラにミュージカルに演劇にと、芸能界でも引っ張りだこ。領主としても優れた手腕で、その土地の者達から支持を集めております。そんな彼ら吸血鬼と魔王様とでは評判も雲泥の差。どちらの評価を改善すべきかと言えば、支持率どん底で彼女も友達もいなさそうで実際いない、ボッチ・ザ・魔王様であるのは誰の目にも明らかでしょう」


「おいたわしや魔王様」


 ドラクロワ公からの憐みのまなざしに耐えかねて、魔王が顔を隠すように手で覆う。


「やめろぉ! 俺を憐れむな!」


 そんな魔王に、参謀が追い打ちをかけた。


「ですが魔王様って彼ら吸血鬼のような種族と違って、個人なんですよね。いくら異世界の漫画に出てくる魔王が知的でスタイリッシュだろうと、現実の魔王様がマント一枚パンツ一丁の変態ゴリマッチョな事にはビタ一変わりませんし。魔王様個人の悪評を改善するという点においては、あまり出版する意味がありません。そんな事する位なら、魔王様には街でゴミでも拾って頂くPR活動をして貰う方がマシ……」


「はあ!? 何で俺がゴミ共の出したゴミを拾って回らにゃなんねーんだよ!」


「これはいくら漫画を刷った所で、魔王様のイメージ改善は無理そうですねえ」


 やれやれと参謀が首を振る。

 そのやり取りを横で見ていたドラクロワ公が、不満を漏らす。


「参謀殿のお話はわかりました。ですが我々の評判が現実のものでなく創作物の出来や流行りに左右されるというのは、いささか抵抗が……」


「うーん。しかしまあ、自国の大義を殊更煽るプロパガンダで創作物が用いられるのは当たり前の事ですし。そもそも漫画でも小説でも歌劇でも、何かしらの文化文芸を生み出すというのは知的作業です。そちらの方面はあなた方の得意分野でしょう?」


「そうですね。文芸でしたらダークエルフ。歌や踊りでしたらサキュバスやインキュバス、あとマーメイドやハーピーといった種族も優れた適性を持っています。ですが、我々吸血鬼もまた引けはとらないという自負はあります。先ほどの通り、私自身には文才はありませんが」


「でしたら別に創作物によって評判が左右されるとしても構わないのでは? 絵や文章で物語を紡ぐなんて知的作業、そもそも商品に足るレベルの物を作り上げられる者は限られています。異世界の創作物は確かに人気で高いレベルにあるのでしょうが、しかし所詮は人間向け。我々魔界に住む者へ向けて、同じ魔族が作り上げた作品が太刀打ちできないとも思えません。ならば自由競争になればなるほど、あなた方吸血鬼が有利になるかと思うのですが」


「なるほど。そういう見方もありますか」


「はい。あなた方吸血鬼は創作物を生み出す側。架空の物語を現実と混同する知性の乏しい低能が多ければ多いほど、長い目で見れば利点があるはずです。私としては、そんな人間ですら生後19ヶ月でつくような架空と現実の区別程度、同朋たる魔族の皆さんには出来ておいてもらいたい所なのですが」


「ふむ。確かに参謀殿のお話は納得のいく物です。私達吸血鬼にしても、要は風評被害が無くなれば良いわけですから」


「ご理解頂けましたら幸いです。あなた方の間で、面白いと思う漫画が作れましたら是非私、参謀までお声がけください。魔界最大の出版社『三途の川書店』は私の親族が運営しております。もちろんご自身で自費出版されるのも結構ですが、広く魔界全土に本を届けたいとお考えでしたら、どうぞ我々の会社をご活用ください。これも何かの縁です。あなたからの紹介でしたら、印税も特別多めにお支払いしますよ」


「上手いお方だ。ですが『同じ創作物で殴り合え。流行らせた者が勝ちだ』というのは、我ら魔族の弱肉強食の美徳にも適ったものです」


 しばし腕を組んで考え込んでいたドラクロワが口を開く。


「わかりました。もう鬼滅の刀の事は結構です。必ずや我が一族が魔界中を魅了する作品を書き上げてまいりますので、その際は是非ともご助力をお願いいたします」


「有難うございます。我々としても、異世界の創作物にばかり流行られていては困ります。良い作品をあなた方が作られた際は、鬼滅の刀を超える一大ムーブメントを魔界で引き起こせるよう、全力で支援する事をお約束いたしましょう」


「いや、今宵は実に良い対話が出来ました。魔王様、かような機会を設けて頂き、大変感謝致します。後ほど、返礼にわが国のワイン、ロマネ・コンフュをお送りしますので、よろしければご賞味ください。お口に合うと良いのですが」


「おお。ヘルゴーニュ地方の一部地域でのみ作られる、魔界最高と名高い赤ワインですか。これはまた良い物を。魔王様、やりましたね」


 途中から話に飽きて漫画の続きを玉座で読んでいた魔王が酒がもらえると聞きつけ顔を上げる。


「何々? 美味い酒くれんの? ふ、ふーん。吸血鬼にも良い所あるじゃん。でも俺、そんな程度で心を許す安い魔王様じゃねーからな! 酒は樽で貰わねーと満足しねーし!」


「わかりました。ではワインは100樽ほどお送りいたしましょう。チーズとハムとソーセージも、それぞれ馬車10台分ほど」


「え、マジで!? 吸血鬼、お前良い奴じゃん! 気に入ったわ! 名前なんだっけ?」


 酒とツマミが貰えると聞いて、先ほどまであれほど敵意をむき出しにしていた魔王があっさりと手の平を返す。


「……魔王様。名前も知らずに今まで会話してたんですか。彼、吸血鬼一族の名門で、しかも公爵ですからね」


「改めまして魔王様。私、ドラクロワと申します。魔王国の国主であらせられる魔王様は関わる方、お会いする方が大変多い事と存じますが、お見知りおき頂けると幸いです」


「おっけおっけ! ドラちゃんな! 参謀、コイツの事よろしく頼むわ!」


 上機嫌にドラクロワ公の肩をバシバシと叩く魔王を見て、参謀がぼやいた。


「うーん。魔王様、チョロいですねぇ」


鬼滅の刀を規制しろ!(その2)……END

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― 新着の感想 ―
魔王様のセリフと性格が秀逸すぎる ( ˘ω˘ ) >途中から話に飽きて漫画の続きを玉座で読んでいた魔王 実は私もww 今回は話が難しいです (;^_^A
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