魔界惨議院選挙!(その2)
「……馬車20台大破、集合住宅20軒損壊、店舗30棟倒壊、シルヴァーザ通り50か所陥没、そして我が魔王国のシンボルで観光名所なマカイツリーが真っ二つにへし折れたと」
玉座に座る魔王を前に、参謀が被害報告書を読み上げる。
「魔王様、選挙演説を爆破テロか何かと勘違いされてませんか?」
日頃あまり感情を見せる事の無い参謀だったが、それでも気持ち声が一段冷たいように魔王には聞こえた。
「いや違うんだって! そりゃあ俺もセンキョエンゼツって奴をな! しようと思ったんだよ! でもあいつ等そろって俺様の事をクソミソにケナしやがるから、つい……」
「それをどうにか収めるための選挙演説だと思っていたんですが、魔王様の認識は違っていたようですね」
「うぬぬぬぬ……」
「大手週刊誌の週刊文醜にも、思いっきり特集組まれてますよ。もちろん悪い意味で」
参謀が懐から一冊の雑誌を取り出し中を開く。
紙面にはデカデカと『魔王様を舐めるな! やらかし魔王の大絶叫』と見出しの文字が躍っていた。
「各魔界新聞社も似たような見出しで記事が書かれていますね。街角インタビューでも『なんで自国民にケンカ売ってんだ』『啖呵切るなら人間共に向けて言え』とブーイングの嵐です。選挙前調査の結果も更に下がり、このまま何も手を打たなければ間違いなく我々邪民党は敗北します」
「あーもー仕方ねぇ! 金だ、金を撒くぞ! なんかほら、アレだ! 復興支援とか何とか言って、とにかく金をバラ撒け! アイツ等金に困ってんだろ? じゃあそのブーブー文句垂れてる口に金突っ込んでやりゃあ黙るだろ! 俺様が大々的に記者会見開いて、明るい爆益好景気な未来を語って一発逆転してやらあ!」
勢いよく玉座から立ち上がり、魔王が記者会見の準備を命じた。
「えー、というわけで、各新聞社の皆様。特別予算を組んで、城下町の拡張建設を行います。これはもうワタクシ魔王が責任持って大胆に金を突っ込みますので、稼ぎたい労働者の皆様にはチャンス到来と言えるでしょう。体力自慢の魔族の皆様、稼いで稼いで稼ぎまくってください。幸いなことにこの前城下町が盛大にぶっ壊れてマカイツリーもへし折れたので……」
なごやかな空気をどうにか作ろうと、ひきつった笑顔で魔王が記者団に語りかける。
だが、反応はと言うと……
「街ぶっ壊したのテメーだろうが!」
「舐めとんのかボケェ!」
「大胆に金突っ込むって、そりゃ元はと言えば俺達の税金じゃねーか!」
「テメーで壊しといて俺達の金で直すとか、得意げに寝言語ってんじゃねーぞ!」
罵声と怒号が飛び交う記者会見は、当初の予定より大幅に短い時間で打ち切られた。
「ちっくしょおおおお! あいつら、金と仕事くれてやるっつってんのに『ありがとうございます魔王様』の一言もありゃしねえ! 感謝の心ってもんはねーのか!」
結局魔王の開いた記者会見は終始険悪な雰囲気で、最終的に怒鳴り合いとなり終わった。
これ以上ないほどに最悪な形で終わった記者会見を受けて、参謀がツッコミを入れる。
「そういうのはまずご自身が、税金を納めている彼らに示すところから始められた方がよろしいかと思いますが」
「はぁ!? 何で俺があんなカス共に感謝しなきゃなんねーんだよ! 働きアリは死ぬまで働いて餌を運び続けるのが役目だろ! いっちゃんエラい女王アリは、口開けて飯食ってゴロゴロするのが仕事なんだよ!」
「一番偉い女王アリは子孫を生み、自分の一族を繁栄させる事が仕事なので、童貞の魔王様とはほぼ対極の存在かと思われますが」
「あー!? おい参謀! 俺がアリ以下だっつってんのか!?」
「いえいえ。思っているだけで直接口に出しては言っておりません。なんにせよ、これはちょっともう、詰み始めた感がありますねぇ。対抗政党はどんどん支持を増やしていってますし」
「……そ、そんなにか。そういや対抗政党って、どんな事をやって支持集めてんだ?」
魔王の顔に不安が広がる。
「ではこちらに、対抗政党の選挙活動の様子を録画した映像がございます。どうぞご覧ください。まずは、霊婆業冥党から」
参謀がパチリと指を鳴らす。
玉座の前に魔法陣が浮かび上がり、色とりどりの砂で体を構成しているサンドゴーレムが呼び出された。
足元には、円錐型にくぼんだ木製の四角い箱が二つ、ゴーレムの左右に置かれている。
幕状に広げたゴーレムの体で様々な色の砂が動き、映像を形作った。
足元に置かれた木箱にはポルターガイストが憑依しており、映像に合わせて音声が流れてきた。
『はあ~♪ と~うひょ~う~すぅ~るなら♪ 霊婆業冥にしやしゃんせ♪』
映像内では、肩からたすきをかけたオークの候補者が、気の抜ける歌を口ずさみながら怪しげな舞を踊っていた。
たすきには『霊婆業冥党』と政党名が書かれている。
選挙馬車の上で調子っぱずれな歌と踊りを披露している候補者の周囲では、同じように支持者たちが舞い踊っていた。
「なんだあの不思議な踊りは。MPでも吸ってんのか?」
「いえ、あれはメダパミダンス。ああやって歌と踊りで知能の低い者を混乱させ、投票させるのです」
「はぁ? あんなバカ踊りに釣られるような奴……」
映像内では候補者たちの周囲の通行人が一人、また一人と候補者の元へと近寄っていった。
「マジかよ」
「この手の歌と踊りで支持を増やすというのは、意外と馬鹿に出来ないのですよ。何かしらの権威に反抗する際や、宗教の勧誘、社会運動などで民衆を扇動する時に歌や踊りはよく利用されます。よく利用されるという事は、つまりそれだけ効果があるという事です。他の対立政党である狂酸異神党もほら、あの通り」
『ゼイゼイゼイ! つまらん税! ゼイゼイゼイ! たかーい税! ゼイゼイ税金、なくしてやるゼイ! 俺らに一票、ヨロシク頼むゼイ!』
帽子をかぶり、サングラスをかけたウェアウルフの候補者が、リズムに合わせて体を揺らしながら拡声器でラップを刻む。
本職のラッパーでも何でもない、ただのシロウトが歌っているだけあって、はっきり言って下手だ。
だが、わかりやすい歌詞とテンポは選挙勧誘ソングとしてはそれなりに効果があるらしい。
周囲の支持者達もリズムに合わせてラップを口ずさみ、身振り手振りで通行人を混乱させて引き寄せている。
「……内政サボりまくってる俺が言うのも何だけどさ。選挙だの政治だのって、政策の内容で判断する物であって、歌や踊りなんかで決めるもんじゃなくね?」
「魔王様。おっしゃる事はまったくもって正論なのですが、常日頃から混乱されている方が急に正気を取り戻されると周囲の者が驚くのでやめて下さい」
「なんでだよ! でもまあいいや。あんな感じのバカを惹きつけるバカ踊りをしまくっている所が俺達のライバルってわけか。だったらこっちも金でハーピー共を大量に雇って、愚民共の脳みそが破裂するまで洗脳ソングを……」
「いえ。歌や踊り如きに翻弄される素朴な知性の持ち主たちをいくら集めた所で、今回の選挙で最大のライバルとなる獄悶惨凄党には勝てないでしょう。彼らの様子をご覧ください」
『皆さん! 我々が掲げているスローガンは魔王国ファースト! 我が魔王国の政治は、魔王国民のために行わなければなりません!』
大勢の支持者に囲まれたホブゴブリンの立候補者が、力強く拳を振るい演説をしている。
たすきには『獄悶惨凄党』というやたらと画数の多い文字が書かれていた。
魔王が選挙演説をした時と違い、取り巻く集団からのヤジはほとんど無い。
候補者の周囲では、声援や拍手が支持者達から相次いで上がっていた。
「あれが俺達の最大の敵になる政党が。流石に盛り上がってんな。どんな事言って愚民共に取り入ってるんだ?」
サボりまくっているとはいえ、魔王は一応腐っても国主であり、政治に身を置く立場だ。
民衆をどう惹きつけているのか多少興味を覚えたようで、身を乗り出して映像を見る。
『魔王と邪民党に任せ続けていたら、我々庶民の生活は苦しくなるばかり! ではどうするべきか! まず体力バカな魔王に無農薬野菜を大量に作らせて食料自給率100%を目指します!』
「は!?」
『次に国防! 我々魔王国は魔王国固有の軍事力で国を守らなければなりません! よって全ての同盟国の魔王国軍基地を撤収させ、今まで怠けてばかりだった魔王に24時間365日、国を守らせます!』
「ちょっと待てぇぇ!」
あまりに無茶苦茶な、実現性の無い政策に魔王が思わず突っ込んだ。
『消費税も撤廃です! 魔王に臓器売るなり何なりさせて、今まで無駄遣いしてきた分、金を稼がせましょう!』
「ふっざけんなボケぇ! 俺の内臓一つで国家予算賄えるわけねーだろが!」
しかし、魔王の怒りの声とは裏腹に、映像の中で獄悶惨凄党の選挙演説は大盛り上がりを見せていた。
『いいぞー! やれー!』
『とにかく魔王達に痛い目を見せてやれ! つーか城ごと焼いちまえ!』
『こちとら何でも良いから、あいつらの苦しむ姿が見てーんだよ!』
『ぶっ殺せー!』
憎悪と怒りに顔を歪ませたあらゆる魔族達が立候補者に熱い声援を送る。
参謀が指を鳴らし、サンドゴーレムが映し出していた映像を切る。
「どうやら彼ら、魔王様と我々邪民党憎しで分断を煽り、理屈だ何だはすっ飛ばして支持を集めているようです。これは非常にマズいですね」
「お前の悪知恵でどうにかなんねーのかよ参謀! このままじゃ俺、俺、はたらく魔王様になってしまう! そんなんまっぴらゴメンだぞ! 俺は働いたら負けかなって思ってるんだ!」
「うーん。ですが、正直言ってこの詰んだ状況から選挙をひっくり返す方策というのは、ちょっと現状思いつかないんですよね。魔王様、あきらめて働きません?」
「嫌だ! 俺は仕事をサボるためなら限界まで足掻き続けてやる!」
「その熱意で職務に励んで欲しかったんですが。そうですねぇ……」
参謀が腕組みをして、珍しく困ったように考え込む。
「ちょっと現状、世論が加熱気味です。このままでは選挙に勝つとか負けるとか以前に、住民たちが暴動を起こして先日魔王様に破壊された街がまた破壊されかねません。とりあえず、こんな時の為に集めておいた芸能人の不祥事ネタを流して、国民を選挙から目を逸らさせますか」
「そんなんで効果あるのかぁ?」
効果はあった。
国民的サキュバスアイドルグループの不倫に、インキュバスタレントの性加害疑惑が週刊文醜に載り、国民の興味はそちらに流れた。
街での噂話も『実はあの清純派サキュバスも怪しい』だの『誠実そうなあのインキュバスも、夜な夜な多目的トイレで……』といった物へと代わっていった。
週刊誌も、選挙よりも芸能界のスキャンダルについてが紙面を多く裂くようになった。
週刊文醜を開いて読みながら、魔王がぼやく。
「……俺が言うのも何だけどさ。サキュバスやインキュバスなんて脳みそが股間に直結してる奴ら、夜の不祥事なんざあって当たり前だろが。何でそれがこんなに騒がれてんだよ。アイツらにファックせず貞淑にしてろとか恋愛禁止とかさ。蚊やアブやトコジラミに血を吸うなっつってるようなもんだぞ。騒いでる奴らバカじゃねーの。誰かとヤるのが当たり前な世界の生き物だろがアレは。大体なんだ『清純派サキュバス』って。一単語内で矛盾すんのやめろや」
「おっしゃる通りですね。推しのヴァンピーアアイドルが結婚した時、3日間寝込んだ方とは思えないご発言です。感服いたしました」
「お前、親父の代から仕えてるだけあって、俺の黒歴史知りすぎててやりづらいんだよな」
読んでいた週刊誌をグシャグシャに丸めて、参謀の頭にポイっと投げつける。
「加熱気味だった選挙への世論も落ち着き、街角アンケートを見る限り、邪民党の支持率も下げ止まったようです。依然として我々が不利な情勢なのには変わりありませんが」
「ダメなのか!? もう本当に打つ手は無いのか!? 俺は愚民どもの為に働かなきゃダメなのか!?」
「いやまぁ、魔王様はもう少し働いた方が良いかと思いますが。それはそれとして、このまま私が相談役を務める邪民党が選挙で敗北し下野すると、私腹を肥やす事が出来なくなってしまうので困るんですよね。一応、叔父に連絡して手を打っておきますか」
「叔父って、バカみたいな大金使ってロケット花火打ち上げて爆発させるのが趣味のイカれキチガイだろ? そんな奴頼りになんのかよ!」
「んー、色々とピーキーな方なので。頼りになるかと言われると、なる時とならない時の差が激しいと言いますか。魔王様、一つ頼まれてもらっても良いですか?」
「ああ、俺が働かずに済むんなら、なんでも良いよ! それでどうにかなるんだな!? どうにか出来るんだよな!?」
なんとしてでも働きたくないのか、参謀の服を掴んで前後に揺らし、魔王は必死に聞き返した。
魔界惨議院選挙!(その2)……END
えー。
次回「魔王と参謀」は、明日9月6日更新予定になります!
次の回で「魔界惨議員選挙!」は完結予定!
劣勢気味の魔王様達は、果たしてここから挽回できるのか!?
それともやっぱりダメなのか!?
選挙の当落結果は明日9月6日朝6時公開!




