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魔王と参謀  作者: 熊ノ翁
19/19

クマさんを殺すな!(その9)

 壁内の城下町では、突然の熊の出現に魔族達が軽くパニックになっていた。

 店を荒らされまいと並べていた、商品を片付け始めるホブゴブリンの店主。

 通りで遊ばせていた子供を抱えて、慌てて家へと帰るオークの母親。

 熊の襲撃を大声で知らせながら、街中を駆けるケンタウロスの少年。

 熊の姿を見て慌てて逃げ惑う者もいたが、そこはしかし魔王国の住民たちである。


「なんだなんだぁ!? どうして熊共がこんな所に!?」


「何吠えてんだ、おお!? やんのかコラ!」


「ちびっとばかし図体でけぇだけの汚ねぇ毛玉っころが、魔族様相手にイキってんじゃねーぞボケ!」


「かかって、来いやぁ!」


 斧や棍棒、杖に槍と思い思いの武器を手に、熊を相手に恫喝する。

 熊達はというと、こちらもまた状況がわからず当惑していた。

 

 無理もない。

 ついさっきまで壁の外側で弱いゴブリン達を追い回し、用意されていたどんぐりの山を美味しくほおばっていたと思ったら、いきなり投げ飛ばされて見た事のない街の中。

 しかも、周囲にいるのはゴブリンのような弱弱しい連中とはまるで違う。

 力自慢のオークやミノタウロス達、武器の扱いや鍛造はお手の物なドワーフ達、攻城兵器ばりの火力を持つ魔力自慢のダークエルフ達までいる。

 頭上を見上げれば、ゴリラや狼も捕らえてエサにするハーピー達が、何の騒ぎかと興味深げに商店街の屋根に腰掛けて眺めている。


 熊は賢い。

 自分達がどれほど強いかは自覚しているが、それでも怪我を負う可能性のある無駄な争いはしない。

 得る物も無いのに中級、上級魔族を相手に真正面から襲い掛かるような真似はまずやらない。

 だが、彼らは退路を断たれていた。

 壊れた南門を抜けて元居た壁の外のゴブリン街へと戻ろうにも、南門を抜けようとした途端に地面が動いたかのように壁内へと運び戻されてしまう。

 城下町の外壁は巨人ですら容易に登れないほど高く、来た道は引き戻せない。

 爪も牙も怪力も巨体も備えた獣が追い詰められ逃げられないなら、やる事は一つだ。


「グオオオオゥゥゥ!」


 城下町に熊の咆哮が響き渡る。

 熊達が、城下街の魔族達目掛けて襲い掛かった。



☆         ☆        ☆



「お、盛況だねぇ!」


 壊れた南門を通り抜け、魔王が居酒屋にでも入るかのような口ぶりで城下町へとやってくる。

 壁内の城下町は、熊と魔族が入り乱れて大乱闘を繰り広げていた。

 壊れた壁の破片や店に並んでいたトマト、どこかの飲食店の皿や酒瓶と、あらゆる物が宙を飛びかい、割れ、砕け、潰れ、様々な破壊の音を立てる。

 通りで熊に顔面を殴られたオークが、お返しとばかりに棍棒で腹を思い切りぶん殴り返す。

 突進してきた熊の巨体をミノタウロスが真正面から受け止め、がっぷり四つに組み合い投げ飛ばす。

 投げ飛ばされた熊が宿屋の壁を突き破り、入れ替わりで宿を壊されたホブゴブリンの店主がミノタウロスに詰め寄り賠償金を巡って胸倉をつかみ合う。

 完全にカオスだった。

 熊が暴れ回るだけでなく、同じ魔族の住民同士の喧嘩まであちこちで起こり、街は手の付けられない状態になっていた。

 そんな中を、 魔王が拡声器を片手に練り歩く。


「はいはーい! このたび動物愛護団体クマさんズ・ラブに所属しました魔王でーす! 皆さん、ワタクシ魔王は、動物愛護と命の平等の観点から、ヒグマの皆さんを我々魔族の仲間に、中級魔族に認定する事にしましたー! 新しく引っ越してきた大きなオトモダチ、熊さん達の事をニッコリ笑って受け入れてあげましょー! 仲良くすんだぞぉー!」


 あちこちで熊とのぶん殴り合いが起きている街中を、拡声器を持った魔王が場違いに陽気な声を上げて練り歩く。


「はあああああ!?!?」


「ふっざけんなバカ魔王!」


「何いきなりわけのわかんねー事言ってんだ! 正気かテメー!」


「動物愛護団体だぁ!? どうして畜生風情が俺らと同じ魔族になんだよ! 寝言抜かしてんじゃねーぞボケぇ!」


 オーク、ダークエルフ、ミノタウロス、ウェアウルフ、その他様々な魔族達が街中で熊と殴り合いながら、あるいは魔法で応戦しながらも魔王に対して怒りの声を上げる。

 だが、そんな彼らの抗議の声に、魔王は耳を貸さない。


「はいはい。そこの動物愛護の心を知らない、やさしさを忘れた愚民共。同じゴミカスクソザコ低能同士、ケンカしちゃダメですよー! 手のひらを太陽に掲げて、みんなで一緒に歌いましょー! さんはい! オケラだーって、ヒグマだーって、おまえらだーって。みんなみんな、生きているんだトモダチなーんーだー。以上! 動物愛護団体クマさんズ・ラブ所属、魔王からでした!」

 

 調子っぱずれな歌を歌い、魔王が足取りも軽やかに魔界の住民たちをおちょくりながら街中を練り歩く。


「おい魔王コラ! 魔族舐めてんのか!」


「呑気に歌ってんじゃねーぞ、腐れ音痴がよぉ! 相手の耳に糞詰め込んで回るような真似すんじゃねえ!」


「動物愛護ホザく前に、オメーの治める国の住民護れやゴミ魔王! やさしさの前に脳みそ足りてねーんじゃねーか!? ああ!?」


「テメーが入れたウンコ玉みてーな熊カス共のせいで、店の軒先が商品ごとグチャグチャになったぞ! どう落とし前つけてくれんだ!」


 棍棒や斧、魔法に槍に己の拳骨と、ご町内の魔族達が思い思いの武器武装で熊を追い払いながらブーイングを飛ばす。

 野生動物の中では虎やライオン等と並び頂点捕食者であるヒグマだったが、流石に魔族相手に正面切っての殴り合いでは分が悪かった。

 逃げ場を失い、興奮して魔族の住民に襲い掛かり街を荒らしまわっていた数十頭の熊達が、徐々に殴り倒され鎮圧されてゆく。

 

「クマ畜生如きが調子に乗りやがってよぉ。俺ら魔族様に勝てるわけねーだろが」


 殴り倒した熊の頭をぶっとい足で踏みつけ、力自慢のミノタウロスがペッと唾を陥没した石畳に吐き捨てる。

 熊との殴り合いの際に口の中を切ったのか、唾には血が混じっていた。

 

「で、何だってこやつ等は急に街におしかけて来よったんだ?」


 身長150㎝ほどのドワーフの戦士が、疑問の声を上げる。

 身の丈を超える長さの斧を担いだドワーフは、長いひげを撫でながら仕留めた熊の顔を覗き込んだ。

 大木をなぎ倒すのにも使われている戦斧の刃には、先ほど切り伏せた熊の血で赤黒く濡れていた。

 子供が水遊びできるほどの血だまりを石畳に作っている熊の死体は、肩口から袈裟懸けに、背骨まで斧で叩き割られていた。

 先ほど熊を殴り飛ばしていたオークが、棍棒を片手にドワーフの下にやって来て一緒に熊の死骸をのぞき込む。


「なんか動物愛護団体がどうとかホザいてやがったよな、魔王のヤツ」

 

「ふむ。そういえば変な服着とったの。熊さんズ・LOVEとか」


 オークとドワーフの会話に、そばで聞いてたミノタウロスが口元の血を拭って話に加わった。


「あー。あの『クマさんをいじめるな』とかわけわかんねープラカードを持って、ゴブリン街練り歩いてゴブリンいびって遊んでる連中か」


 見覚えがあったのか、ミノタウロスがポンと手を叩く。


「そうそう。そ奴らじゃ」


 ドワーフがうなずく。


「ふーん。あいつらかぁ」


 オークが、持っていた棍棒の先を熊がやって来た南門へと向ける。

 棍棒の指し示す先には、壊れた南門をくぐり、何事が起きているのかと城下町へ戻って来た動物愛護団体の魔族達の姿があった。

 動物愛護団体のダークエルフが手に持つプラカードには『クマさんを受け入れろ!』と書かれていた。

 先ほどまでクマ達とガチンコの殴り合いをしていた魔族達が、動物愛護団体の一団を見つけてにじり寄る。


「おーい、お前ら。ちょびぃぃっとばかし、話聞きたいんだけどよぉ」


 城下町の住民たちが、動物愛護団体の逃げ道を塞ぐように囲みながらにじり寄る。

 その手には、棍棒や斧など思い思いの武器が握られていた。


「え、その、皆さん。ど、どう、なされ、たんです、か?」


 事情の分からない動物愛護団体のホブゴブリンが、武器を手に殺気立ってにじり寄る住民たちを前に後ずさりした。



クマさんを殺すな!(その9)……END

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― 新着の感想 ―
毒にも薬にもならない、そんな感想しか出てこなかった
やっぱり乱闘になったか…。 それにしても、動物愛護団体の女性陣をゴブリンの繁殖奴隷にしてもいい気がしてきた…(-_-;)
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