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第1話『亡霊』

《大切なものは失った後に気づく。》

様々な物語りに引用されていて、良く本を読む人にとってはもう聞き飽きた言葉かも知れない。

実際、俺もそうだった。

だけど俺は今、その言葉を真の意味で理解した。

俺が今いるのは病院の霊安室。

目の前には俺の家族()()()()が全身を布で隠されながら硬そうなベッドに横たわっていた。


「母さん⋯⋯父さん⋯⋯紗紀(さき)⋯⋯」


俺は目の前に横たわっている物が自分の家族だと思えず、頭を覆っている布に手を伸ばした所で警察の人に止められる。


「顔を見るのは、辞めていた方が良いかと⋯⋯損傷が激し⋯⋯」


俺は警察の静止も聞かず、布を少し持ち上げる。


「っ⋯⋯う⋯⋯!」


()()の左側は確かに、俺の父だった。

だけど、顔の右側は何か硬いものとすごい勢いで衝突したかのように、グチャっと潰れていた。

俺は力が抜けたようにストンと膝から崩れ落ち、次の瞬間込み上げてきたのは凄まじい程の吐き気と後悔。


「あ⋯⋯ぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあ!」

「まずい!やはり無理やりにでも止めるべきだった⋯⋯そこの君!今すぐこの子を部屋の外に!」


すぐに警察の人が駆け寄ってきて、看護師の人がうずくまっている俺を病室に連れ戻した。


――――――――――――――――――――――


あれから2日、今日は3人の葬式が行われている。

最初は混乱していたが、2日もあれば流石に大分落ち着いてきて、今の状況が分かってきた。


まずあの日⋯⋯いや、俺は丸1日寝ていたらしいから前日か、俺たち家族は岐阜へ車で旅行に行っていた。

しかし山道を走っている途中、突然道路の一部が崩れたのだ。

それによって俺たちは崖から崩落。

父さんは崩落した先で岩にぶつかり衝突死。

ハンドルを切って車の向きを変えていれば助かっていたかもしれないが、車が岩にぶつかっていたのは運転席だけだったらしい。

母さんは俺と妹を庇って、折れた大木に押しつぶされてしまったそうだ。

母さんが庇わなければ俺も死んでいただろう、と警察の人が言っていた。

紗紀⋯⋯妹は即死こそ免れたものの、俺が起きる30分前に死んでしまったようだ。


「⋯⋯」


俺は、家族3人の棺桶の前に花を持って立つ。

悲しい。虚しい。苦しい。

⋯⋯だが不思議と、涙は出てこなかった。

多分、あまりにも急な出来事だったからまだ体と心が追いついていないのだろう。


「⋯⋯(さく)。よければだけど、僕達の家に来ないかな?」


次の日の朝、母さんの弟の、赤峰(あかみね)(みなと)さんが、そう言って俺に手を差し伸べてきた。

この人は俺と妹が凑兄ちゃんと言って慕っていた、優しい人だ。

というのも俺の親戚はみんな優しく、ほとんど全員が俺を引き取ると言ってくれた。

そして俺が寝ている間に親戚同士で話し合いが行われていらしく、凑兄ちゃんはまだ若いし、結婚していて俺と同じくらいの子供もいるから、任せられると判断されたのだろう。


「⋯⋯」


俺がその後ろにたっている凑兄ちゃんの家族を見ると、皆俺を引き取る事を嫌がっている様子は無かった。


「⋯⋯」


俺が凑兄ちゃんの手を取ると、凑兄ちゃんはとても嬉しそうな顔をしてくれて、ほんの少しだけ、胸がすくわれた気持ちになった。


――――――――――――――――――――――


「今日からここが君の家だよ。出来れば遠慮せずにくつろいでくれると嬉しいな」


さらに数日後、俺は何度か訪れた事のある、名古屋市にある凑兄ちゃんやその家族の住む家へと到着した。


「分かっ⋯⋯りました」


いつもだったら、凑兄ちゃんに敬語なんて使わない。

なのに今は、家に住まわせてもらう罪悪感からか、慣れない敬語を使ってしまった。

凑兄ちゃんの顔をちらりと見ると、その顔は酷く寂しそうだった。


――――――――――――――――――――――


あれから2ヶ月。

俺は凑兄ちゃんの家から歩いて20分くらいの所にある、従兄弟も通っている中高一貫校、月乃瀬学園に転入した。

だけど俺はとても友人を作ろうという気にはなれず、クラス内で孤立している。

これでいい。俺は、死んでも死ねなかった()()だ。

ちゃんと生きている人達と話すことなんて出来ない。


昼休み。

昼ごはんとして登校中に買った菓子パンを食べた後、俺は今日も今日とて本を広げる。

すると、近くで話していたクラスメイトの会話がたまたま聞こえてしまった。


「なぁなぁ、お前知ってるか?この学園の七不思議」

「当たり前だろ?この学園に通っている生徒なら誰でも知ってるわ」

「じゃあさ、七不思議の零番目の噂は知ってるか?」

「零番目ぇ?いや、それは聞いたことないな⋯⋯どんな噂なんだ?」

「それがな。夜、生徒会に行ってな、24時ちょうどに『時の番人さん、私に時間をください』と言うと、時の番人が幻の25時を作ってくれるみたいなんだよ」

「へぇ〜⋯⋯わざわざ七不思議に零番目を作るなんて、暇人もいるもんだな」

「確かにな」


そう言って、クラスメイトは去っていく。

七不思議⋯⋯どうせ、ただの噂だろう。

だけど⋯⋯もしも、もしもだ。

本当に時の番人が存在しているとすれば?

そして、こういう話で出てくるのは大抵⋯⋯死人だ。

もし本当に時の番人が存在していて、それが死人だったとすれば?⋯⋯母さんや父さん、紗紀も七不思議と同じように、この世に蘇っているかもしれない!

もしこの考えを誰かに話しても、「頭おかしいんじゃねぇの?」と言われるだろう。

実際、今俺の頭はおかしくなってしまっているのだと思う。

だけど、どんなに可能性が低かろうと、どんなに荒唐無稽(こうとうむけい)な考えであろうと、ほんの少しでも希望があるのなら、俺はそれを掴みにいきたい!


――――――――――――――――――――――


午後23時30分、俺は赤峰家のみんなを起こさないようにそ〜っと家を出て、学校へと足を向けた。








初めまして!

Prologを読んでくださっている方はまたお会いしましたね!

御手洗と申します!

今回は第1話『亡霊』を読んで頂いてありがとうございました!

さらに面白くなるよう尽力致しますので、ご愛読して頂けるととても、とっっっても嬉しいです!

では、よろしければまた次回お会いしましょう。

さよなら!

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