第8話
エドガーのもとにリリィがやって来てから、もう三年が経っていた。
「ねぇ、エドガー。今日はどこを鍛えるの?」
「今日は体幹と構えの最終確認だ。明日からは実践に入るぞ」
「やった!」
十五歳になったリリィは、身長も伸び、幼さの残っていた表情にも凛々しさが出てきていた。エドガーの厳しい鍛錬に日々耐え抜き、剣の構えや体の使い方を叩き込まれてきた。そしてついに、冒険者としてギルドに登録する日がやって来た。
「緊張してるか?」
「う、うん……ちょっとだけ。でも、頑張る!」
「なら堂々としてろ。胸張ってな」
二人は冒険者ギルドの重厚な扉をくぐる。
「よう、エドガー。そっちは弟子か?」
冒険者仲間が声をかけて来た。
「ああ、今日が冒険者デビューだ」
受付嬢が笑顔で迎える。
「新規登録だ。リリィ。十五歳、剣士だ」
「はい、リリィさんですね。それでは登録手続きを行います」
ギルドカードが作成され、リリィの手元に渡される。
「Fランクからのスタートになります。まずは非戦闘依頼が中心ですね」
「戦えないってことですか?」
「討伐依頼は最低でもEランクからじゃないと受けられない決まりなの、まずは雑用から地道に頑張ってね」
「はい!」
エドガーは横で腕を組みながら小さく呟いた。
「とりあえず薬草狩りを受けとけ」
「わかった!」
リリィは掲示板から薬草狩りの依頼票を取り、受付に提出する。一方、エドガーはDランクの一角ネズミの討伐依頼を受けた。
「行くぞ。今日はお前の実践訓練だ」
「え? でも薬草狩りって……」
「薬草は帰りに採ればいい。メインは実戦だ。手加減はしないからな」
二人は町の外れにある小さな森へと向かった。
「ここが薬草ポイントだ。覚えとけよ。帰りに寄る」
「うん!」
森を奥へと進みながら、エドガーが指示を出す。
「穴倉があったら教えろ。一角ネズミはそこに住んでる」
「……あった! あのくぼみの中!」
「よし。じゃあまずは武具にマナを流せ」
「うん、分かった!」
リリィは深呼吸してから、手にしたレイピアと装着した防具に意識を集中させる。数秒後、武具全体が淡く銀色に光った。
「……流れたな。見た目は合格だ」
エドガーは手製の煙玉を穴倉に投げ入れた。パシュッという音のあと、穴倉からけたたましい鳴き声とともに五体の一角ネズミが飛び出してくる。
「くるぞ!」
「俺は手を出さん。お前だけでやれ」
「えっ、わ、わかった!」
ネズミたちはリリィをめがけて突進してくる。だがリリィは怯まず、訓練通りに地面を蹴って体をひねるように回避した。
「せいっ!」
一本のレイピアが空を裂き、的確に一体目を突き刺す。次の二体も無駄な動きをせず、刺突の連続で倒していく。
「あと二体……!」
一体のネズミの牙がリリィの脇腹にかすめるが、硬化された防具が衝撃を吸収する。
「ふっ……!」
最後の突きで残りのネズミも討伐完了。
「……ふぅ」
「まぁまぁだな。反応も速度も悪くない」
エドガーは一歩も動かずに見ていた。
「でも、攻撃当たっちゃった……」
「今はそれでいい。だが、強敵相手にそれをやると命取りになる。攻撃を受けずに討伐できるようにしていけ」
「……うん、わかった」
その後、エドガーが次々にネズミの巣を発見し、リリィは黙々と討伐を繰り返した。
「よし、今日はこれくらいにするか」
エドガーがそう言う頃には、太陽はまだ頭上にあった。昼前の撤収。
「じゃあ薬草、採っていこう!」
「ああ、依頼の品だからな」
森の入口に戻ると、リリィは手早く薬草を刈り取り、エドガーはその間に討伐した一角ネズミの素材を整理していた。
ギルドに戻ると、受付嬢が驚いた顔をした。
「えっ、もう討伐依頼終わったんですか?」
「27体ほど狩った。全部換金できるか?」
「ええっ、そんなに!? は、はい。問題ありません。素材もきれいに解体されてます……」
一角ネズミの納品が終わった。
次にリリィが依頼品を納品した。
「薬草を納品します!」
「すごいですね、リリィさん。初日とは思えないです!」
リリィは照れ笑いを浮かべながらうなずいた。
「えへへ……エドガーのおかげです」
その帰り、二人はギルド近くの屋台で昼食をとった。串焼きとパン、あとは簡単なスープ。
「おいしい!」
「タンパク質が少ねぇな。今度は卵料理でも食わせるか」
「えっ、料理してくれるの?」
「たまにはな」
工房に戻ると、エドガーはすぐに鍛冶に取りかかった。リリィは裏手の薪を割り、体をほぐすように素振りを繰り返す。
「エドガー! この薪、明日分まで割っておいたよ!」
「……ほう。少しは根性ついてきたな」
「へへ、まだまだやれるよ!」
夕方になり、空が赤く染まる頃、工房に戻ったエドガーが一言呟いた。
「悪くねぇ一日だったな」
「うん、すっごく充実した!」
「明日も今日と同じくらい動いてもらうぞ」
「望むところだよ!」
リリィは笑顔で剣を肩に乗せた。
彼女の冒険者としての人生は、まだ始まったばかりだった。