表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

第3話

朝日に照らされた鍛冶工房で、エドガーは今日も一心不乱に鉄を叩いていた。


カン、カン、と響く槌の音は、この工房の日常であり、近隣の住民にとっては朝の目覚まし代わりだった。


いつものように顔を出したグスタフは、エドガーが作り上げているものを見て、少し 驚いた表情を浮かべた。

「ん?珍しいな、レイピアか」


細身で優美な曲線を描くレイピアは、これまでのエドガーの作品群の中では異質な存在感を放っていた。


重厚な剣や、装飾過多な鎧といったイメージが強かったからだ。


「ああ、ちょっと実験でな。必要になったんだ」

エドガーは短く答え再び熱した鉄に槌を打ち下ろした。


彼の動きは無駄がなく、熟練の職人技が光っている。


「相変わらず、すげぇ腕だな」

グスタフは感嘆の息を漏らした。


エドガーの打つ鉄は、まるで生きているかのように形を変え、見る者を魅了する。


素材の選定眼も確かで、彼の鍛える武具の品質が高いことは誰もが認めるところだった。


工房には、エドガーの他に数人の鍛冶師が কাজ していた。


彼らは皆、エドガーの技術を尊敬し、その背中を見て技を磨こうとしていた。


その中の一人が、以前から疑問に思っていたことを意を決して口にした。


「あの、エドガーさん。あなたの作る武器って、本当にマナで付与効果が発動するんですか?」

工房の空気がピンと張り詰めた。皆がエドガーの答えを待っている。


エドガーは槌を置き何もいわずに工房の隅に置いてある自分の腰掛けまで歩いて行った。


そして、いつも腰に下げている、鞘に収まった短剣を静かに抜き放った。


「見てろよ」

エドガーは短剣に向かって意識を集中させた。


するとそれまで何の変哲もなかった短剣の刀身が、薄い青白い光を帯び始めたのだ。それは、確かにマナが 短剣に流れ込み、纏っている証拠だった。


「ま、こんな感じだ」

エドガーは涼しい顔で短剣を鞘に収めた。


工房にいた鍛冶師たちは、その光景に言葉を失った。彼らにとって、武器に自分のマナを流し込むなど、考えられないことだった。


熟練の冒険者ならばともかく、鍛冶師がそのような芸当ができるとは誰も思っていなかったのだ。


「おいおい、まじかよ!」

グスタフは目を丸くして短剣を見た。


彼は何度もエドガーの工房に来ているが、エドガーが自分の作った武器にマナを流すのを見るのは、これが初めてだった。


エドガーは、彼らの驚きぶりに首を傾げた。

「なぜ驚く?自分で使えないものを作るわけがないだろう?」


そして、何かを思い出したように付け加えた。

「それに、お前たちに安く卸しているのは、素材を自分で採りに行っているから安くできるだけだぞ」 


「え……お前、冒険者もやってるのか?」

別の鍛冶師が驚いた声を上げた。


エドガーは軽く頷いた。

「ああ、腕はそこそこあるぞ。ただ、冒険者よりもこうして武器や防具を作る方が性に合っているからな」


工房にいた鍛冶師たちは、エドガーという男の、別の側面を知った気がした。


卓越した鍛冶の腕を持ちながら、自ら危険な魔物の棲む場所へ赴き、武具の素材となる鉱石や魔物の素材を採取する冒険者でもあるとは。


グスタフは、今日ほどエドガーの言葉の重みを理解したことは無かった。

「人を選ぶ武器、ねぇ……もしかしたら、本当にそういうことなのかもな」


しかし、依然として疑問は残る。

エドガー自身は自分の作った武器を扱える。

だが、なぜ他の人間はそれができないのか?その特別な「マナの流れ」とは一体何なのか?


エドガーは、周囲の驚きをよそに、再び金床に向かい、レイピアの製作を再開した。


彼の頭の中には、昨夜逃げられた少女のことが頭の片隅に引っかかっていた。

あの時、確かに自分の作った短剣が反応した。

あの少女ならば、自分の武器の特性を理解し、使いこなせるかもしれない。


(次こそ、あの少女を見つけ出して……)

エドガーの胸には、これまで感じたことのない微かな希望の光が灯っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ