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美雨  作者: 加藤無理
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縁談の決断

 収穫祭が終わり、木枯らしが吹く頃。箱三郎が再度鈴森村に来た。年貢の交渉をする地侍達も一緒だった。村の者達は美雨を呼んだ。


 美雨が来ると箱三郎は、

「今、暇であれば俺の家に来て欲しい」

 村の者達は驚いた。箱三郎は美雨と結婚しようかどうか迷っているようだ。期待していなかった村人達は機会を逃すまいと固唾を飲んだ。美雨は困った顔で仙を見やった。頭には仙が急いで付けた簪と櫛が差してある。仙は、

「私達の事は良いから行きなさい」

 美雨はうなづいて、箱三郎の所に来た。箱三郎は地侍や村の者達に、

「では失礼する」

 と、言うと村を後にした。


美雨は箱三郎の後について行く。最初、箱三郎は歩を緩めていたが、美雨の足腰が丈夫だと気付くと少し速めた。箱三郎は、

「父が縁談を勧めているけれど母は決めかねている。お前はどう思う?」

「貴方こそ、この縁談に反対しているのでは?」

 美雨が聴き返すと箱三郎は、

「俺は反対する立場ではない。けれどもお前が嫌なら母と話して父と御家老に伝える」

 美雨は疑う目つきで箱三郎を見た。結婚するつもりがどれだけ箱三郎に有るのか。美雨に懸想けそうしているわけでもないし、反対するつもりもない。煮え切らない態度だ。箱三郎も訝しそうな顔で、

「お前には既に許婚いいなづけや好いた男でもいるのか」

「家族が話し合っているところにこの縁談です。貴方も他に縁談が有ったのでは?」

 美雨が困った様子で言うと箱三郎は、

「俺は三男坊だから結婚しなくても良かった。俺も誰も期待してなかった」


 しばらく話している間に日が暮れた。二人は笛林村を通過して更に東隣の村に入っていた。寺の和尚が二人を寺の中に泊めた。水と食物も出された。箱三郎が宿代の代わりとして賽銭箱にいくらかカネを入れた。


 翌朝、二人は和尚に礼を言って城下町に進んだ。到着したのは昼前。家の大きさは美雨達のそれよりも二倍ほどの大きさだ。箱三郎が、

「只今帰りました!」

 と、言うと、壮年の女が出て来た。女は箱三郎に頭を下げると、刀を受け取って丁寧に棚に仕舞った。女は箱三郎の田山家の使用人だろう。箱三郎と美雨は草鞋を脱ぐと雑巾で足を洗う。その間に使用人は奥に行った。


 箱三郎も美雨も奥に行った。箱三郎は障子しょうじの前で一度正座する。美雨もそれに習う。箱三郎は、

「只今戻りました、母上」

 と、言うと障子を開けた。そこには初老の女が座っていた。箱三郎の母親だろう。美雨は一瞬、ぼんやりしていたが、慌てて平伏した。母親は冷静な声で、

「顔を上げなさい」

 美雨は言う通りにした。母親は、

「話は主人達から聴いている。私は驚いている」

 その割には無表情だ。美雨は不思議そうに母親の顔を見つめる。母親は、

「信じられぬがお前の力は嘘ではないのだな。だからお前に我が息子との縁談が持ち上がった」

 美雨は不安そうに、

「奥様はこの縁談に反対ですか?」

 母親は、

「御家老と主人がお決めになった事に反対はしない。お前には色々と学んでもらわないと困る」

 美雨は俯いた。母親は不機嫌そうな声で、

「美雨。覚悟を決めよ」

 美雨は一度平伏し、頭を上げると、

「かしこまりました」

 いつの間にか縁談がまとまっていく。


 美雨は田山家に二泊することになった。その間に箱三郎の父親である祐筆と、それを継いでいる箱三郎の長兄とその妻に会った。田山家は毎日銭湯に行く。夏場は川で、冬場は水に浸した布で身体を洗っていた美雨には贅沢に思えた。母親と兄嫁が姿勢や一挙手一投足まで細かく作法について教える。


 三日目の朝には美雨は独りで帰ろうとしたが、箱三郎が隣の村まで送った。美雨は疲れてしまった。


 家に帰ると、家族も村の者達も、驚き笑いで迎えた。この縁談を逃すな。皆、期待している。美雨は不安ながらも決意した。

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